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新世のアリエーネ  作者: 創式浪漫砲༺艦༻
結婚相談所のアリエル
16/18

母は眠りて子は泣き還る

 『……コレが最強ノ風生師ノ成れノ果て』

 『私ノ最高傑作デス!!!』


 少年の耳は、その声を拒んでいた。

 ツヴァイの言葉など、もう遠いざわめきにすぎない。


 『か、母さん……? 母さん母さん母さん……う、うわぁァァァァァア!!!!!?』


 凍りついた母の姿。

 不気味なほど哀しい歌声。

 そして、それ以上に――理由もなく震え続ける母の喉。


 全てが、遅れて押し寄せる津波のように少年を呑み込み、理性を奪う。


 『く、来るな……! こんなの幻想だ……幻想幻想幻想幻想……』


 『――現実デス!!!!!!』


 空間の裂け目から、ツヴァイの顔が唐突に現れる。


 『彼女ハ……私でも手ニ負えナイ化け物デシタ。今から十年ほど昔ノ話デス』

 『ソコに眠ってイル娘ノ力を借リテ……ようやく封印できマシタ』


 男は、下卑た笑みのまま問いを突き刺す。


 『……貴方、“アリア”を母と呼んでいマセンデシタカ?』


 アリエルの表情が――落ちた。

 魂ごと剥ぎ取られた人形のように、その場に崩れ込む。


 『まあ、気のセイでショウ。都市伝説レベルノ噂ですし……ああ、そうそう』


 耳元に、ぬるりとした囁きが降りる。


 『アリアを凍ラセたのはワタシです。声帯だけ……動カシましタ。綺麗ナ作品ダとは思いマセンカ?』


 ――パキン、と何かが弾けた。

 現実が、音を立てて崩れ始める。



 『……おい! 起きろ!』


 同じ頃。

 サスティアの体を揺らす手。目を開けると――血だらけで這うダウスがいた。


 『任務は……失敗だ。敵はアイツら以外……全員殺した。お前はアリエル連れて……逃げろ』


 『でも……ミルナが……! それに、ここで逃げたらアリエルが――』


 『でもじゃねぇ!!! 俺らの役割、忘れんな! 二人とも失えば……終わりだぞ!?』


 鬼気迫る表情。

 刃のようにサスティアの胸へ突き刺さる。


 『……お前なら治り早いだろ。治ったらすぐ行け。俺とミルナのことは……気にすんな』

 『俺は――捕まってでも、ミルナを助ける』


 その時だった。

 遠くで……崩落の音が響く。



 『ツマラナイ子どもダ……。泡吹いて倒れるとは、実に情け無イ』


 ツヴァイは倒れた少年を横目に、再びミルナを椅子へ拘束する。


 『目ヲ離した隙にコソコソと......。恐ろシイ。恐ろシイ。サテ――』


 視線の先に二人。


 『一人増えている……まあイイでショウ!皆、まとめテ可愛ガレばイイ!!!』


 その瞬間。


 ピシ……ピシ、ピシピシ――


 床に走る細い亀裂。

 それはじわじわと広がり、滅びの予兆を刻んだ。



 『……何ガ起こってイル?』


 床、壁、天井――すべてに亀裂が走る。

 ミシミシと、限界を告げる音。


 『……ろ……消え、消えろ……』


 その姿はまるで、涙を流すだけの壊れた人形。

 アリエルはぬくりと立ち上がった。

 瞬間、全方位から重力が押し寄せるような衝撃が空間を圧する。


 『……! この反応……マサカ』


 ツヴァイの顔から、余裕が剥がれ落ちる。


 『全て……消、消えろ』


 波の速さで反応が加速する。

 あり得ぬ熱が、少年一点に集束していく。


 (マズイ......!アレに賭けるトしまショウ――)


 ツヴァイは少女のもとへ駆け――


 『消えろォォォォォ――!!!!!!』


 ほぼ同時、少女の肩へ針が突き立った。



 『エル……アリエル……』


 暗く、深い絶望の底から、かすかに淡い声が響いてくる。

 何度も繰り返されるような、その聞き覚えのある声に、アリエルはぼんやりと我に返った。


 『ミ、ミルナ……』


 目の前に映るのは、どこか苦しそうな表情のミルナ。

 少女は弱々しく言葉を紡ぎ出す。


 『なんだか胸が苦しくて……ジンジンするの……アリエル、助けて……』


 痺れで体が動かず、必死に起き上がろうとするも無力感が襲う。


 『ふ、フハハハハハハ!!!!!!マサカ本当ノ親子だったトハ!!!興味……!実に興味深いッッッ!!!』


 狂気の笑い声と共に、ツヴァイの声が響く。


 『……あの少年ヲ使エバこの計画ハ完璧!!!』

 『サァ……!人種のるつぼ(メルティングポッド)計画を始めまショウ……!!!』


 ツヴァイがゆっくりと少年へ歩み寄ったその瞬間。


  パパパパパパンパン!


 遠くから連射される銃声が響き渡り、ツヴァイの視線が反射的に銃声の方向を捉えた。


 ヒュン――


 防弾ガラスの穴を一瞬ですり抜ける。

 サスティアだ。

 滑り込むように現れ、少年の手を掴む。


 『ナ、何故マダ動ケル……?』


 動揺を隠せないツヴァイ。


 『生憎効きが悪い体質なの。それよりずっと私に目を向けてていいの?』


 サスティアが指差した先に映ったのは――ダウス。


 『よお、爺さん。お前が黒幕かぁ?』


 ダウスは地を這うようにして、絶え絶えの表情で防弾ガラスに手をついた――直後。


 パリィィン――


 防弾ガラスが音を立てて砕け散る。


『逃げろぉぉーーサスティアーー!!!』


 合図と共に、サスティアは少年を抱えて走り出す。


『離せ、離してくれ!!!ミルナ、ミルナーー!!!!!!』


 背後では銃弾の雨が絶え間なく降り注ぎ、狂気の笑い声が耳を突いた。

 壊れた壁を突き抜け、階段を駆け下り扉の外へ。

 少し走り抜けた先でサスティアはついに倒れ込む。


 『サスティア!ミルナ!ミルナを!』


 アリエルは叫びながら、必死に戻ろうと這い進む。


 ――その時だった。


 『ごめんなさい、私ももう限界だから。貴方も少し眠ってて……』


 冷たい手刀が振り下ろされ、アリエルは深く、深く、眠りの底へと沈んでいった。


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