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新世のアリエーネ  作者: 創式浪漫砲༺艦༻
結婚相談所のアリエル
15/18

策謀の果てに帰還する

 『固体ヘリウム……そんな超常じみた能力、ある筈がない』


 サスティアがそう言い放つも、どこか揺らいで見える。

 能力? 固体ヘリウム? アリエルには、さっきから話がまるで飲み込めていなかった。


 ツヴァイが、不敵に笑う。


 『ソウ! あるハズがナイッ!!』


 シュン


 『デモ、見エテいるハズダ!!!』


 直後。

 サスティアの背後に、ツヴァイが出現する。

 彼女の肩に目をつけ、ふわりと手をかざす。


 『“アリエナイ”が“オキル”、揺らぎヲ……!!』


 その瞬間、彼女の表情が険しくなる。

 少年の目は、強く、見開かれていた。


 『サスティア!!』


 それは、あまりにも異常という他なかった。

 ツヴァイの手が肩に触れた瞬間

 ーー空を切るように手のひら分だけ、サスティアの身体ごと右にズレたのだ。

 まるで映像が乱れたかのように、現実が歪んだ。


 『汚い手で触らないで』


 睨みつけるサスティア。

 しかし男は平然とした顔のまま、コツコツと歩き出す。天井を見上げながら、まるで来た道を戻るように。


 『コノ“揺らぎ”は、本来……誰ニデモ、アルモノダ』


 どういう原理なのだろうか。

 彼は防弾ガラスをすり抜けるようにして教卓に腰掛ける。

 男の目線のすぐ下に、縛られて眠るミルナの姿があった。


 ツヴァイはミルナの肩を掴み、つぶやく。


 『ナゼカ……このムスメには“揺らぎ”を感じナイ。能力を無効化スルのみならず……』


 『ダカラ暫く、観察スル事にシタ。ソノ結果ァ……アリエルはずナイ衝撃の事実が判明シタノダヨ!』


 声のボルテージが高くなる。

 狂気の気配が、唇から漏れた。


 『彼女ハ!! 他人ノ“揺らぎ”が見えてナカッタァ!!』


 『ソレだけジャナイッ!!!』


 『無効化どころか、打ち消してイタアアアア!!!!!!』


 静寂が一瞬破られる。

 ツヴァイの叫びが反響し、空気が軋んだような感覚が広がる。


 『ソレカラハ、彼女ヲ使い、実験ヲ繰り返シタ!』


 『……ソノ結果ァァ、ワタシが、生まレタッッ!!!』


 突如、辺りが静まり返る。

 切るように、サスティアが言った。


 『そう……。最後に聞くわ。彼女を使って、何をするつもり?』


 男が、醜悪な笑みを浮かべ、狂ったように両手を広げて叫んだ。


 『均スッ!! 均スッ!! 均スゥゥゥゥ!!!!!!』


 『能力モォ!! 思想モォ!! 全て!! 均シテエエエエエエ!!!!!!!』


 ビリ……と音が聞こえた気がした。

 冷たい風が部屋を撫で、全身に悪寒が走る。


 男は静かに、虚ろな目で言った。


 『……売る。あの御方に。』



 『ふざけるな!!! 死ねぇぇえ!!!!』


 パパパパパパパァン!!!!!!!!!!


 アリエルは仰天した。

 叫びながら銃を乱射するサスティア。その姿は、まるで狂ったようだった。


 銃声が部屋中に反響する。

 弾丸は防弾ガラスに当たって弾かれ、跳ね、火花を散らしながらも、時折、小さな穴を貫通していた。


 『どうかサレました? 先程の貴方ラシクない』


 男の声が響く。

 ツヴァイは煽るように、サスティアの周囲を、出たり消えたりしながら漂っていた。


 サスティアの顔に、余裕はない。

 額に汗。瞳に焦燥。まるで追い詰められた者のように、息を荒げていた。


 距離を取る彼女に、男が首をカクンと傾げながら、じわじわと迫る。


 『ナゼ、先程カラ、貴方ハ“足回り”ヲ狙って撃ってイルノデス?』


 カカカカカカ!!!!


 (当たるわけない……!)

 (サスティア、一体どうしてしまったんだ……!?)


 アリエルは混乱する。

 何かが違う。彼女らしくない。いつもの冷静沈着さが、どこにもない。


 でも、違う。彼女は意味のない行動はしない。絶対に、何か……何か意図がある。


 何だ……? 何を見ている……? 


 (あれ? ……あんなに遠い)


 気づけば、サスティアとツヴァイは部屋の端まで移動していた。


 カカカカカン!!!!!!


 ……銃弾が教えてくれた。


 ――そこには、防弾ガラスを突き破って出来た、“人が通れるサイズ”の穴があった。



 2. 敵がサスティアに完全に注意を向けている場合、その隙にアリエルが救出に向かうこと。


 ――今がまさに、その時だ。


 アリエルは気配を殺し、滑り込むように防弾ガラスの穴をすり抜ける。

 そのまま這うようにして、ミルナのもとへ近づいた。


 『……ミルナ』


 そっと呼びかけても反応はない。

 括り付けられたロープを、震える指で少しずつ解いていく。


 ♪〜♪〜


 歌声が……心なしか、大きくなってきている。

 足が痺れる感覚も、もう気にしていられなかった。


 (よし、ほどけた……)


 カラン、カラン


 弾切れの音が響いた。

 振り返ると、遠くでサスティアとツヴァイが対峙している。

 サスティアが目配せを送り、ミルナの解放を確認する。


 『悪いけど、貴方に用はないの』


 そう言って、サスティアが煙玉を投げた。


 ――その時だった。


 『用がナイとハ寂しイじゃアありまセンカ? ネエーー』


 ♪〜♪〜♪〜


 歌声が、まるで空気を裂くように、耳を支配してくる。

 そして……何かが**“倒れる音”**がした。


 煙が、嘘のように晴れていく。


 最初に見えたのはツヴァイだった。

 彼はゆっくりと、部屋の奥――**扉の先の“何か”**を見つめている。


 次に見えたのはサスティア。

 その場にしゃがみ込み、地面に手をついて、呆然と前を見ていた。


 アリエルも……それを見て、声を出しかけた。が――


 凍りついた。


 そこに“彼女”はいた。


 『アリア』


 ツヴァイが呼ぶ。まるで懐かしい友人を迎えるように。

 だがその“アリア”は、全身が氷の中に封じられていた。


 白く冷たい氷の彫像のように、瞼を閉じ、静かに立ったまま。

 それでも、その唇が、ほんのわずかに――動いた。


 ♪〜♪〜


 (うそ……だろ……?)


 脳が拒絶する。心が否定する。

 でも、目が――それを見てしまっていた。


 父がかつて一度だけ見せてくれた写真。

 笑っていたあの人、そのままの姿。


 アリエルの母。

 死んだはずの母が、氷の中から……歌っていた。


 『うわぁぁアアアアアア!!!!!!!』


 少年の悲鳴が空を切る。

 現実か幻想かの区別も曖昧なままに。

 アリエルは、ただ、その場に崩れ落ちるしかなかった。

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