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新世のアリエーネ  作者: 創式浪漫砲༺艦༻
結婚相談所のアリエル
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14/18

悪魔の証明

 一体どういうことなのか、少年の思考はしばらくの間、霧の中にあった。


 両目に眼帯を付けた男。

 「人種のるつぼメルティングポッド計画」。

 そして、何よりも――

 せり下がってきた黒板。


 雑居ビルにしては、不可解なほど広い部屋。

 異様に多い窓。

 無駄に巨大な黒板。

 まるで――学校のようだった。


 (……学校?)


 父が倒れてから、少年は学校に行っていない。

 半年? いや、たった数ヶ月かもしれない。

 黒板の匂い、机の冷たさ、給食の味――忘れたくても、身体はまだ憶えている。


 ぼんやりと、懐かしさが胸を締め付けかけた、その時だった。


 〜♪


 階下から、微かに歌が聴こえてきた。


 どこか哀しげな、女性の歌声。

 歌詞は不明瞭。でも、確かに感情が伝わってくる。

 足が、一瞬、痺れたように動かなくなる。


 『……この力、まさか』


 サスティアが鋭く言った。

 彼女の顔から、余裕の表情が消える。

 ツヴァイがにやりと笑った。


 『チョウドイイッ!!! さぁ……歴史の時間デスッ!!』



 それが、開戦の合図だった。


 パン!

 サスティアが即座に発砲。


 同時に、ツヴァイは空気を裂くように影と化して移動。

 現れては、消え。消えては、現れる。


 『コノ世界ハ、実ニ不平等! そうハ思いませんカァ?』


 シュバ!


 『さあ……? 気にしたこともないわ』


 すれ違いざま、サスティアが回し蹴りを放つ。

 しかし、足は空を切った。

 そこに実体が存在しないかのように、ツヴァイは煙のように揺れる。


 『アナタも、ワタシも、あの少年も……ミンナ、何かしら“持っている”。』

 『……ネムッテイルのが、フツウデス!』


 再びツヴァイが黒板の前に現れると、床から教卓がせり上がってくる。


 (なんだこれは……!? 戦う気が……ない?)


 サスティアは銃口を向けながらも、撃たない。

 ツヴァイの真意を探っている。

 ――それより、今はミルナの救出が最優先だ。


 『貴方には、能力なんてなかったはずよ。私の知る限り』


 『ソウ。ダカラ……ワタシはゼツボウした……!』

 『この世ノ不平等ヲ、ワタシは憎ンダ!!』


 ツヴァイの叫びが響く。

 そして――ふいに、少年の横に現れた。


 パァン!


 即座にサスティアが発砲。だが、またも空振り。


 (……残弾を減らすつもりなのか? それとも、時間稼ぎ……?)


 敵の意図が、読めない。


 トン。


 ツヴァイは、椅子に拘束されているミルナの肩に手を置いた。

 その指先が、まるで陶器を撫でるように滑る。


 『コレガ……彼女ダ。』

 『ドウイウワケか、カノジョハ“能力ヲ無効化”スル……!』


 『ワタシハ、見ツケテシマッタノダ!』

 『この世界を……支配スル鍵を!!!』



 アリエルはずっと、ミルナを救出する機会をうかがっていた。


 サスティアから与えられた指示は、二つ。


 1. サスティアが敵をすべて撃破した場合、アリエルは即時救出に入ること。

 2. 敵がサスティアに完全に注意を向けている場合、その隙にアリエルが救出に向かうこと。


 本来なら、1が理想だ。

 だが、目の前の現実は2すら難しい。


 敵はずっと……黒板を見ていた。


 (まるで、僕たちなんて……眼中にないみたいだ)


 救出できそうに“見える”。

 だが、そんな隙が本当にあるなら、サスティアがもうとっくに引き金を引いているはずだ。


 それができない、ということは……

 この状況は、まだ“許されていない”ということ。


 アリエルは歯を噛み締めた。


 敵――ツヴァイは、黒板に何やら数式のようなものを書き続けていた。

 記号。記号。数列。記号。……見慣れない、そして、理解不能な数式。

 無数のチョークの線が交差し、部屋の空気が次第に異様に冷たくなる。


 『デキマシタァ……!』


 ツヴァイが、チョークを手から落とし、狂気を帯びた笑みを浮かべた。


 『サァ……証明ヲ始メマショウ……!』


 『貴方の数式は滅茶苦茶よ。意味なんて、ない』


 サスティアが冷静に言い放ち、同時に振り向きざまを狙って発砲。


 パン!


 ーーしかし。


 カン。


 何かが“はじける”ような鈍い音が、部屋の半分を隔てる境界から響いた。


 (え……!?)


 よく見れば、それは透明な防弾ガラスだった。

 いつの間に設置された? それとも、さっき上がってきた?


 「見えない境界線」が、ツヴァイとサスティアたちを隔てていた。


 カカカカカ


 サスティアが迷わず、防弾ガラスにピンポイントの射撃を加える。

 ガラスに小さな穴が空いていく。

 それでもなお、ツヴァイは悠然と黒板の前に立ち続けていた。


 (変だ……狙えるのに、撃てない?)


 アリエルはサスティアの“迷い”に気づく。

 サスティアほどの腕なら、今のうちに射止めることも可能なはず。

 なのに、何かが“おかしい”。


 ヒュンッ


 そして、ついに。


 穴を縫うように一発の弾丸が飛んだ。

 狙いは、ツヴァイの眉間。

 完璧な軌道。確実な射線。誰がどう見ても、命中した――はずだった。


 ……その瞬間だった。


 『元素2、凝固、固体ヘリウム』


 ツヴァイの声が、低く響いた。


 シュゥ……


 弾丸が、透き通るように空中で“揮発”する。

 音もなく、破裂もせず、ただ質量そのものがこの世界から消滅したように。


 (な……!?)


 少年の思考が止まる。


 「銃弾」が消える――そんなことがあるのか?

 いや、それは否定ではなかった。


 ツヴァイは、**「物理法則に従って消滅させた」**のだ。


 ヘリウム。凝固。元素番号2。

 何かの法則と、式と、記号を使って。


 それはまるで、“この世界を数式で上書きしている”かのようだった。

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