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新世のアリエーネ  作者: 創式浪漫砲༺艦༻
結婚相談所のアリエル
13/18

脈動するメルティングポッド


 ――これは、どういうことだ。

 少年は嗚咽を堪える。呼吸が詰まりそうになる。 


 裏門に足を踏み入れた瞬間、横たわる骸が目に入った。

 その数、5、6、7……。いや、少なくとも10人はいる。


 鉄と血の匂いが鼻を突き、足元から現実が冷えてゆく。

 ふと遠くに微かな光が見えた。おそらく、あれが正門だ。 


 サスティアに先導され、少年は怯えつつも歩みを進める。

 冷たく静かな空気が、階下へと引き込んでいく。


 やがて階段が現れる。すぐ横は正面玄関。

 そこにもまた、捌けたように死体が積み重なっていた。

 銃創、切創、焼けた痕……全てが現実味を欠いている。


 『き、貴様は……潤滑のサスティア……なぜ、ここを……』


 (……潤滑?)


 その声に振り向くと、階段の影にひとりの男がいた。

 眼帯をつけ、虚ろな目でサスティアを睨んでいる。


 『あら、まだ生きてたのね』


 パァン。


 乾いた音が建物に反響する。

 迷いも、怒りも、躊躇もない。

 少女はただ、機械のように男の頭を撃ち抜いた。


 その無慈悲さは、静けさよりも冷たかった。

 まるで最初から感情など存在していなかったかのように。

 ホテルで出会ったあの微笑とは、あまりにも違っていた。


 少年は、言いようのない違和感を覚える。

 裏門の死体――なぜすでに倒れていた?

 階段の位置を考えれば、ダウスがそこまで回るのは不自然だ。

 時間的にも、距離的にも、説明がつかない。


 ピピピ。


 サスティアのデバイスが鳴った。通知を確認する彼女。


 『……既に、3階のエリアまで殆ど制圧しているようね』


 このビルは全5階建て。

 少女の見立てによれば、ミルナは5階に拘束されているという。


 『4階の制圧には時間がかかるはず。……作戦通り、そこは彼に任せる』


 『私たちは5階へ進む。その前に――』


 彼女がこちらを見る。その瞳に迷いはなかった。


 『場合によっては、貴方の作戦参加を認めます。条件と貴方がやるべきことを……手短に話すわ』


 廊下から冷たい風が吹き込む。

 少年の髪が揺れ、心臓が打つ。


 恐怖、緊張、そして……決意。

 それらを押し込めながら、アリエルはサスティアと共に階段の奥へと――消えた。



  コツ、コツ、コツ……。


 階下ではドン、パァン、と断続的に発砲音が響いている。


 『……丁度ドンパチやってるようね』


 不安と恐怖で喉が焼けつくようだ。それでも、少年は歩いた。止まれば潰れそうだった。


 階段の先には、一本道の渡り廊下。赤いカーペットが、場違いにも静かに敷き詰められている……。


 (部屋の造りが、どこかおかしい……元は何の建物だったんだ?)


 部屋一つ一つが広すぎる。ビリヤード台と卓球台が置かれたレクリエーションルームのような部屋。別の部屋では、磔台にノコギリ……用途不明の拷問じみた空間。さらに奥には倉庫のような部屋もあった。


 だが、どこを探してもミルナの姿はない。


 (どこかで見たような、けれど思い出せない……なんだ、この不気味さは)


 やがて廊下の突き当たりにぶつかる。


 「そんな……ここで行き止まり……?」


 焦燥が喉を突き刺す。鼓動が耳の奥で鳴り響く。


 サスティアは何も言わず壁を見つめ、じっと目を細めた。


 『……ここの継ぎ目、怪しいわね』


 そう呟くや否や、少女はふわりと飛び上がり、迷いなく――


 華麗に宙で身体をひねり、回転するようにして踵を壁に叩き込んだ。


 バギャァッ!!


 凄まじい音とともにコンクリが砕け、粉塵と木片が舞い上がる。


 崩れた壁の向こうから、ひやりとした空気が流れ込んできた。



 パチパチパチパチ……。


 乾いた、不気味な拍手が壁の向こうから響いてくる。何かが、何者かが、そこで待っている。


 パチン!


 最後の一拍が弾けたと同時に――


 ギィ……ッ。


 音もなく、室内に灯りが灯る。


 そこにいたのは――


 椅子に拘束されたミルナだった。


 『ミルナ!』


 叫ぶ声が、反響する。反射的に駆け出しそうになる足を、サスティアが腕で押さえた。


 ズ……ズズ……。


 その先から、影がひとつ、音もなく迫ってくる。


 『スバラシイ!!! 実ニ……』


 シュ……。


 言葉が終わる前に、影は滑るように少年の真横へと移動していた。


 『興味深イ』


 ゾクリ、と背筋が凍る。理解が追いつかない。見えなかった。“どうやって移動したのか”が、まったく。


 少年は冷や汗を噴き出し、息を詰める。


 チャッ……! パァン!


 銃声。サスティアが即座に発砲。


 だが、影は煙のように消える。


 次の瞬間――再び、真正面にその姿が現れた。


 異形。


 両目に分厚い眼帯をかけ、真っ白な白衣を羽織った痩身の老人。


 その異様な風貌に、サスティアは声を低く、そして鋭く吐き捨てる。


 『ツヴァイ・ヘリャスト……。組織の特級指名手配対象。マッドサイエンティストね』


 『組織を抜けてまで、何をするつもりだったのかしら?』


 老人の顔が、ぐにゃりと歪む。笑っているのだ。


 『That’s right!! ヨク……聞イテクレマシタァ!!!』


 ガシャァンッ!!


 突如、背後に黒板のようなものがせり下がってくる。

 コンクリを裂くような轟音。


 「人種のるつぼ(メルティングポッド)計画……!!」


 「サァ……授業ヲ始メマショウ!!!」


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