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新世のアリエーネ  作者: 創式浪漫砲༺艦༻
結婚相談所のアリエル
12/18

血塗られた共同戦線

 『……それがもし本当ならば……最悪です』


 少女はポケットから小型の通信端末のようなものを取り出し、誰かと低く素早く言葉を交わし始める。


 『特別非常事態の可能性あり。彼を出動させて。……ええ、私と彼だけで処理する。監視だけ続けて、待機して』


 通信を終えた彼女は、改めて少年に向き直った。


 『状況が変わったわ。……本当は、貴方をこれ以上危険に晒したくない』


 その言葉は、機械的な口調でありながら、どこか人間味を孕んでいた。少女の瞳が一瞬揺れた気がして、アリエルは言葉を呑む。


 『止めても、きっと貴方は聞かないでしょうし……もしかしたら或いは――』


 何かを言いかけた彼女は、そこで口をつぐむ。ほんの一拍、呼吸が止まったような沈黙。


 だが、すぐに切り替えるように再び前を向き、簡潔に告げた。


 『事情はこちらで話すから、貴方はとにかく静かに待機。いい?』



 ――特殊警備隊。

 黒スーツに身を包み、王都アリエーネの治安を影で守護する特務警察組織。

 まさか……こんな辺境にその影が潜んでいたとは、アリエルは驚きを隠せなかった。


 特殊警備隊といえば、知らぬ者はほとんどいない。

 その実態は国家すら把握しきれていないとも囁かれる、超法規的特務機関。

 規模も、装備も、行動目的すら一切が謎。にもかかわらず、凄まじい実績だけが独り歩きし、都市伝説のように語られている。


 (……風の噂では、超能力を使う者までいるとか。この娘が……?まさか)


 『ここ最近、風恋広場では“失踪事件”が続いていたの。その調査を依頼されて……私たちは派遣された』

 『半年かけてようやく、ここに辿り着いた……けれど』


 サスティアの口調は冷静で、まるで捜査報告書の朗読のようだった。


 『……半年?』


 何かがひっかかる。でも今はそれを追うべきではない。


 『それより……あれがミルナかどうか、確認したい。方法はある?』


 アリエルの声に、彼女は微かに眉を動かした。


 『……その必要はないわ。そろそろ、分かるはずだから』


 言い終えた直後、少年の視界がぐにゃりと歪んだ。

 現実が水面のように揺らぐ。


 (……今のは? サングラスのせい?それとも)


 次の瞬間には何事もなかったかのように、彼女の姿が元に戻る。

 気づけばサスティアは一枚の写真を手に持っていた。

 それを少年の目前に差し出す。


 『……間違ってなかったみたい。多分――あれが、彼女よ』


 アリエルが見た写真には、椅子に縛られた一人の少女が写っていた。

 うつむいたまま動かない。

 痩せこけて、虚ろな目をしたその顔は……間違いなく。


 (……ああっ、嘘だ、嘘だろ……!?)


 ミルナだった。

 声にならない叫びが、喉を裂こうとしていた。



  『待って、落ち着いて』


 頭が真っ白になる所だった。少女に静止されふと我にかえる。


 『いい?これは奇襲制圧作戦。後は言わなくても分かるはず』


 ......そんな事は分かってる。でも出来るなら......早く助けてあげたい。

  

 少年の顔を見てサスティアは言う。

 

 『この作戦は連携が要。彼が来るまで、堪えて』


 ーーその時だった。 

 まるでタイミングを読んでいたかのように一瞬風が強くなって、目の前に少年が現れた。


 『悪いな、サスティア、少し待たせた』


 黒スーツに身を包んだ少年。その顔には見覚えがある。

 ーーダウスだ。サスティアが言っていた少年は彼の事だったようだ。

 

 あまりの一瞬の事に呆然とするアリエル。

 足音が一切ーーない。 それにいつここに来たのだ?


 愕然としていたらふと目が合った。

 一瞬瞳が揺れる。


 『サスティア、事情は後で聞く。分かってるとは思うが』


 『極力使わない......ね。ヘマはしないし何かあったら私が......』


 『気をつけろよ』


 そう言い終えると風に押されるようにダウスはーー消えた。

 


 『配置についたようね。……あまり時間がないから、手短に話すわ』


 一瞬のことで、少年は思わず息を呑んだ。

 数秒しか経っていないのに、もう配置に?


 『今、私たちがいるのは裏門。ビルの向かい、彼がもう張ってる。私が信号弾を撃つから、合図で突入。貴方は……しばらくここで待機して』


 言うが早いか、彼女は腰のホルスターから信号弾を取り出す。


 発射音はなかった。

 静かに、けれど鋭く、白煙が垂直に空を裂く。

 しばらくして、遠くで微かな戦闘音――乾いた衝撃音がいくつも響いた。


 『君は……行かないのか?』


 なぜかサスティアはその場を動かない。

 いや、それ以上に奇妙なことがある。

 少女の輪郭が――揺らいで、見える。


 『問題ないわ。もう“片はついている”。それに……』


 パン、パン、パン。


 鋭い銃声が3つ。

 気づいた時にはすでに、敵がすぐそこまで迫っていた。

 しかし次の瞬間、全ての銃弾は正確に敵の頭部を貫通し、音もなく崩れ落ちる。


 ――死角からの奇襲。

 それすらも彼女は読んでいた。


 『貴方を守るのも……私の仕事だから』


 返り血を浴びたサスティアの姿を、ビルの外灯がぼんやりと照らす。

 その輪郭はなおも淡く、煙のように――どこか、かすんでいた。


 

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