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新世のアリエーネ  作者: 創式浪漫砲༺艦༻
結婚相談所のアリエル
11/18

忘れ去られた邂逅

 「……お客様?」


 知ってた。受付の後輩に“お客様対応”される、この現実。

 問い合わせた先に残っていたのは、結婚相談所の社員票だけ。

 ――“新人”と書かれていた。


 二回目だ。分岐が変わっても、何も変わってない。

 こんなタチの悪い夢、聞いたこともない。


 夕陽を背に、アリエルはタバコをふかしながら帰路につく。

 サングラスにタバコのパイプ。

 側から見ればただの不良か、あるいは疲れた男にしか見えない。


 (……苦さにも、少しは慣れてきたな)


 病気の父のために必死に買ったこのパイプ。

 夢を見なくなったせいだろうか、初めて吸ったときほど苦くはない。


 (……夢を見るのは、やめたはずだったんだけどな)


 道中、少年は考える。

 もし今までの出来事が、すべて夢だったとしたら、どれだけ楽だったか。

 ……いや、きっと夢なのだろう。ただ、疲れているだけだ。


 パイプを外し、ふっと空に向かって煙を吐く。

 もくもくと昇る白煙が、ゆっくりと空へ消えていく。

 そのときだった。


 風恋広場一帯に、ぼんやりと白いモヤがかかる。

 すれ違う人々の中で、アリエルの側を一つの影が通り抜けた。

 行商人と、屈強な男たちに囲まれた──真紅の、少女。


 (……別人、だよな?)


 少女は、薄暗い路地裏へと向かう。

 霞のように薄らと吸い込まれーー消える。


 (そうさ、夢。これは夢......。ええい、むしゃくしゃする)


 パイプを握りつぶさんばかりに力を込めて、少年は駆け出した。

 来た道を、怒りと混乱のまま引き返し、白いモヤへと飛び込んでいく。


 『別人?夢? 関係あるかよ!!!』

 『腐りきった世界ごと、アイツらまとめて!!!──ぶっ飛ばす!!!!』



 はぁ、はぁ……。

 息が続かない。胸が焼けるように痛い。

 視界がチカチカして、地面が波打つ。


 こんな裏路地、あっただろうか。

 空き家、古井戸、四辻……延々と同じ風景が繰り返されている。

 逃げるように、霧が覆い隠していく。

 道を一本抜けるたびに、少女の姿は遠ざかって、輪郭すら曖昧になっていった。


 それでも、音を頼りに、少年は走る。

 足元に踏みならされたようなけもの道が続いていた。

 見たところ抜け穴も罠もない。……運が良いのか、ただ鈍くなってるだけなのか。


 ふいに、辺りを見回す。黒い煙が空を裂いていた。

 ーー雑居ビルだ。低く傾き、煙突がついている。

 遠くから見ても、明らかにおかしい。

 油とカビが混ざったような臭気が鼻を突き、どこかで焦げた何かが喉をひりつかせる。


 (深く考えるな……確かに.....怖い。でもあれが夢じゃなかったら一生後悔する事になる)


 喉の奥で何かを押し殺して、深呼吸。

 一拍置く間もなく一気に走り出した。


 ……そして。


 錆びた鉄の扉の前。

 そこに立っていたのは、どこかで見覚えのある、黒スーツの少女。


 背を向けたまま、道を塞ぐように佇んでいた。



 『な、何故……ここに、貴方が!!?』


 気づけば、地面に背を打ちつけていた。

 いつの間にか、転がされていたらしい。

 視界の端は黒く染まり、何かが上からのしかかっている。


 (お、おい……この柔らかさ……)


 思わず声が漏れかけたその瞬間、少女の手が少年の口を塞いだ。

 冷たい手だった。どこか懐かしい匂いがした。


 (!? な、なんだ……何が起こってるんだ!?)


 突然すぎる状況に、少年の思考が白く飛ぶ。

 チラッと、小さな谷間越しに少女の顔が垣間見える。


 どこかで見たことのある顔。聞き覚えのある声。

 必死に脳の奥を手繰っているとーー


 『静かにして下さい、これは命令です』 


 無機質で、でも独特な言い回し。忘れるはずもない。

 かつてホテル警備を共にしていた、姿を消したあの後輩。


 少女、ーーサスティア。



 『すみませんが、事が事なので――貴方には最速で眠ってもらいます』


 何が起きているのか、まるで分からなかった。


 ――なぜ、サスティアがここに?

 ――眠らせるって、どういうことだ!?


 次の瞬間、首筋に鋭く冷たい衝撃が走る。反射的に地面を転がると、少女の手が空を裂いて地面へと叩きつけられていた。


 『待ってくれ!サスティア!!!僕は敵じゃない!アリエルだよ、ほらホテルの先輩の――』


 『……貴方のことは知っています。ですが、なぜ私の名前を? “先輩”とは何の話でしょう』


 言葉がまるで噛み合わない。何かが決定的にズレている。


 ――これが“分岐”なのか?


 思考する間もなく、少女の追撃が流れるように頬をかすめた。肌に残る風圧が現実を引き裂く。


 (速い……ッ! でも、でも今は戦ってる場合じゃない!!)


 少年は叫んだ。必死で、泣き出しそうな声で。


 『お願いだ……っ、道を開けてくれ……! あそこには、もしかしたら……ミルナが……っ!!』


 その名が、空気を震わせた。


 引き摺られるように少女の動きが風に揺られ少年を目前にして

 ーー止まった。


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