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プライマン・クインフォルス (ロジェ・シルドガード)⑭



『うん、なんというか、その、登場人物全員アレですね!』


「アレ言うなよ。僕もちょっとアレだとは思ってるんだからさ」


 まだ酒の残っている赤い顔をだるそうに傾けて、プリマは天窓を見上げた。


「んー、それにしてもあれから何時間くらい経ってんだろ。翌日の昼くらいかな?」


『あ、王宮の騒動からは三日経ってますね。もうすぐ正午になるところです』


「三日!?」


 プリマはぎょっと目を剥いた。

 いくらなんでも時間が経ち過ぎている。

 そんなに長い時間をかけても収まらないような大きな事件だったのだろうか。

 予想では、翌日には誰かが迎えにくると思っていたのだが。


『ええと、こちらの情報によりますと……どうやらプリマさんは閉じ込められているようですね。足止めをされているようです』


「足止めって、一体なんで……。外では何が起きてるんだ?」


『はい、ではここでお約束の“お礼”をさせていただきます。まずはこのスタンガンです。杖の握りのボタンを押すと、飛び出したワイヤー針を通して高電圧の電気が流れて筋痙攣を起こします。次にこのスマホを通してのライブ中継です。僕の同僚が設置した浮遊型大型スクリーンにこちらの様子が流れます。それから最後に、プリマさんの“最高の伴侶”さんですが――』


「そうだ! ねえ、どういうことだよ? なんか言ってること全然わかんないんだけど、僕のお姫様は今どうなってんの!?」


『簡潔に言うと、正午に公開処刑されます。間違いなく冤罪ですが、首謀者が国王のようなので減刑も難しいかと。処刑を邪魔されたくないどなたかに、プリマさんはここで足止めされているようですねぇ』


「はああああああああ!!?」


 静謐な礼拝堂に、プリマの絶叫が響き渡る。

 話についていけてない。

 何がどうしてそういうことになるのか、さっぱり理解できない。


 ヒロインが、とんでもなく絶体絶命の危機に陥っていることはわかった。

 危機は危機でも、令嬢同士のいざこざといったもう少しマイルドな危機を想定していたのに、いきなり公開処刑とはお姫様のダイナミックが過ぎる。


「……ああ、でも、そうか。だから僕なのか」


 昔から、プリマのことだけはやたらと甘やかして、どんな無茶な我儘も聞いてくれる国王陛下のことだ。

 プリマが真剣にお願いすれば、少なくともヒロインの処刑は取り止めてくれるだろう。

 冤罪ならば、尚のこと。


 ならば、プリマのすることは一つだ。

 今までの血の滲むような努力の集大成を発揮する。

 苦難を乗り越え、自分だけのお姫様を助け出し、二人で幸せな未来を迎えるのだ。


 それでこそ、これまでのプリマの人生に意味が生まれる。


 プリマは立ち上がった。

 床を蹴って、重い礼拝堂の扉を開ける。


『あっ、ちょっと待ってくださぁーい! まだ説明途中ですよー!!』


 鋼のような黒い小さな板が、浮かびながらプリマと並走していた。

 精霊が何か叫んでいるが今はそれどころではない。

 街の中心にある教会の、正午の鐘が聞こえてきたからだ。

 早くしないと、ヒロインに出逢うことなくバッドエンド一直線になってしまう。


 王の礼拝堂(インヴェルノ)を出て、西宮の白亜回廊に差し掛かると、そこには王宮警備隊が待ち構えていた。

 ざっと数えただけで二十人以上いる。

 白銀の肩章なのがせめてもの救いだった。

 あれは、爵位しか能がない貴族たちの集まるボンクラ隊だ。

 とはいえ、一対一ならともかく、この人数を無傷で抜けるのは少し厳しいかもしれない。


「陛下のご命令だ。こっから先は通さないぜ。中で震えて、大人しく助けが来るのを待ってろよ」


 この中ではプリマに次いで爵位の高い家の次男が、勝ち誇ったように醜悪な笑みを浮かべた。

 十年も前のことなのに、腕の骨を軽く折って“遊び相手”に誘ったことを未だに根に持っているのだろう。


「はんっ! 家の力を笠に着て群れるしか能のないお前らが、僕を止められるとでも思ってるのか? そっちこそ大人しく、西宮の豪華絢爛な装飾品を眺めるだけのいつものお仕事でもしてろよ」


 内心の焦りと、ついでに吐き気と頭痛に苛つきながら、プリマは言葉とは裏腹に、わざとらしく優雅に対峙してみせた。

 プリマの態度に、警備隊が目を吊り上げて殺気立つ。


『もーう、気が短いし口も悪いんだから。咄嗟に中継の音声オフにした僕のこと褒めてくださいねっ! いいですかプリマさん、そのスタンガン、殺傷能力は低めですが絶対ではないので、くれぐれもやり過ぎには気を付けてください。あとですね――』


 横から聞こえてきた声に、右手に握られた短杖の存在を思い出した。

 警備隊に向けて無造作に手元のボタンを押すと、杖の先からきらりと何かが飛び出していく。

 次いで、青白い荊のような強い光がバチバチと弾ける。


 瞬間、警備隊の数人が倒れ、びくびくと小さく痙攣して動かなくなった。


「すご……」


『ちょっと! まだ説明終わってないでしょ! って、こらー! 待ってくださいってばー!!』


 プリマは、自分の身体がひどく軽いことに気がついた。

 ふわふわふわふわ、夢心地のように足が動く。


 そういえば、異国には酒を飲めば飲むほど強くなる奥義があると聞いたことがあった。

 もしかしたらプリマは、その奥義を体得してしまったのかもしれない。

 今なら苦手なステップも軽やかにこなせるような気がする。


 剣を抜いた警備隊が突っ込んできた。

 だが、あんなボンボン共のへなちょこ剣が避けられないわけがない。


 ひらりと躱し、背中に精霊の杖を向ける。

 拾った剣で応戦し、ときに剣で、ときに魔法で、向かってくる警備隊を翻弄する。


 あの人数を見たときはどうしようかと思ったが、案外なんとかなるものだ。

 彼らは、普段から真面目に訓練などしていなかったのだろう。

 連携がまったくとれていない警備隊は、お互いの攻撃が当たることを恐れて、順番待ちのようにプリマに襲いかかってくる。


 結果的に、彼らの攻撃は一対一になってしまっていた。

 それならばプリマに負ける要素はない。


 ひらひら、ふらふら。

 生まれて初めてともいえる軽快なステップを楽しんでいたが、ふと気付くとプリマの邪魔をする者はもう誰もいなくなっていた。



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