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プライマン・クインフォルス (ロジェ・シルドガード)⑬



 この日、何故か急に王宮内が騒がしくなった。

 父親の使いで王宮に書類を取りに来たところである。


 物々しい王宮警備隊が走り回り、憲兵隊まで駆けつけてきた。

 何か起こったことは間違いないが、プリマには関係ない。

 むしろ、こんな状態の王宮からは早く抜け出した方がいい。


 見知った文官を見つけたので声をかけ、書類の件を伝える。

 文官は、急ぎではないからまた改めてほしいと言い、足早に去って行った。


 そういうことならすぐにでも帰ろうとしたプリマだったが、王宮警備隊の中央隊隊長に声をかけられた。


「申し訳ございません。今はどなたであっても王宮内から外へお出しすることはできないのです」


「そうですか。では、僕は東宮に参ります」


 出られないなら仕方ない。

 東宮ならば王太子がいるし、今はロジェもあそこにいるはずだ。

 暇つぶしにはちょうどいいだろう。


 しかし、王太子宮に足を向けようとしたプリマの行く手を、警備隊長はやんわりと阻んできた。


「大変申し訳ございません。東宮は、立ち入りを禁止させていただいております」


 表情一つ変えない警備隊長を見て、プリマは微かに顔を顰めた。

 これは思ったよりも大事なのかもしれない。

 王宮が慌ただしくて、王太子宮が立入禁止になることなど、今まで一度でもなかったはずだ。


 君子危うきに近寄らず。

 王宮内で何が起こっているかはわからないが、一応プリマも王家の血筋なのだ。

 余計なことをして巻き込まれては堪らない。

 渦中の従兄弟と、もう巻き込まれてしまったかもしれない従者にほんのりと同情し、プリマは顔を上げた。


「なら、西宮はどうですか? 本来なら、僕でも気軽に立ち入れる場所ではないのですが。どうやら緊急事態のようですし、僕も西宮からは一歩も出ませんから」


「はい。陛下からも、プライマン様をお見かけしたら西宮へお通しするよう仰せつかっております」


「そうでしたか。では、僕は西宮にこもっています。あの、できれば僕がいる間、他の人は……」


 警備隊長が大きく頷いた。

 この騒ぎであれば、王宮内に賊が侵入したことは間違いない。

 であれば、王族であるプリマにも護衛が必要になる。

 しかし今この混乱している状態で、プリマのために人員を割くのは非効率的だ。

 だが、プリマ自ら堅牢な西宮に立て籠もるというなら、警備の観点からもありがたい話だろう。


「勿論です。西宮には誰も近付けません。もし何かあれば」


「わかってます。隠し通路で逃げますから、僕のことは気にしないでください」


 安堵したように頷いた警備隊長は、他の隊員に指示を飛ばしながら駆けて行った。


「さてと……」


 プリマにしてみれば、急な休みを貰ったようなものだ。

 護衛も使用人も誰の目も気にせずに、伸び伸びと遠慮なく羽を伸ばせる。

 下手な演技も必要ない。


「王族しか知らない隠し通路だからなぁ。あの人、あそこが今どうなってるか知らないんだろうな」


 そう呟くと、プリマは王宮の西宮、王の礼拝堂(インヴェルノ)へと向かって行った。






 西宮の白亜回廊を抜けて礼拝堂に入ると、重厚な扉を閉めて内側から鍵をかける。

 さすがに、ここまでは王宮の喧騒は聞こえてこない。


 王宮内では、国王の寝室に次いで二番目に安全と言われる礼拝堂だ。

 念の為に中を調べて、誰もいないことを確認する。

 問題ないようだ。


 プリマは、いそいそと告解聴聞室の扉を開けた。

 一般的に告解聴聞室は狭い空間だが、この告解室はちょっとした書斎並に広い。

 王のための告解室だからだと思われるかもしれないが、それは違う。


 室内の椅子を探って小さな突起を押すと、座面がぱかりと持ちあがって口を開けた。

 この先は、王宮の外に抜ける隠し通路になっているのだ。


 冷暗所なのをいいことに、国王が秘蔵の酒を大量に隠していなければ、なのだが……。


 以前、プリマ大好きおじさんが内緒だと言って教えてくれた。

 今やこの隠し通路は、こっそり溜め込み過ぎた酒で通れなくなっている。

 だから、万が一のときは西宮から出られなくなるぞ、と。


 椅子の中にぽっかり浮かんだ空洞は、地下へ続く階段があった。

 プリマは躊躇なく階段を降りると、元・隠し通路の、現・酒蔵に足を踏み入れた。

 土が剥き出しの通路には、簡素な棚と色とりどりの酒瓶が置かれている。


「おおおおお~!!」


 プリマは思わず歓声をあげた。

 さすが、国王が隠した酒なだけはある。

 ラベルを見れば、どれもこれも名前しか聞いたことがないような貴重なものばかり。


「しかもあのおっさん、最近ここ使ったんだな」


 幸いなことに、酒だけではなくこっそり持ち込まれた肴も豊富にあった。


「こりゃ大変だ。全部飲むのに二日……いや、三日はかかるか? ほんっと大変だな〜」


 まるで他人事のように呟いて、プリマは酒瓶を持ちだした。

 国宝級の貴酒や神酒を呑み尽くしてしまっても、全く問題ない。

 多少は怒られるかもしれないが、プリマ大好きおじさんは絶対に許してくれるはずだ。


 王宮の騒ぎが収まるまでどのくらいかかるかは知らないが、少なくとも数時間はかかるだろう。

 プリマは、タイムリミットぎりぎりまで酒蔵の酒を味わうことに決めたのだった。



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