プライマン・クインフォルス (ロジェ・シルドガード)⑫
実際、ロジェはプリマが思うよりもずっと優秀だった。
優秀な虫除けで、優秀な練習台で、優秀な魔法使いだった。
人前では常にロジェを側に置いていたので、男たちは顔色を無くして離れていくし、女たちも適度な距離から近寄って来ない。
それでも寄って来ようとする蝿がいれば、ロジェの腰に手を回して体を寄せた。
言外に「邪魔をするな」と伝えれば、鬱陶しい蝿は醜く歪んだ顔でどこかに去って行く。
人目につかないところでは、ロジェは予想以上に順調に毒虫どもに虐げられていた。
彼が誰にどこで何をされているか全て把握しておきながら、プリマは気付いていないフリをする。
毒虫どもの行動が過激になってきたところを見計らい、効果的に毒虫どもを蹴散らすためだ。
性根の腐った毒虫を炙り出すのと同時に、ヒロインの心を射止めるシチュエーションの練習にもなっていた。
魔法使いとしてのロジェの腕は、噂に違わぬものだった。
あれほどの魔法を使える者は、あと百年経っても出てこないかもしれない。
下手に王宮魔術師どもに目を付けられる前に公爵家で囲えたのは幸運だった。
ロジェを相手に魔法の練習ができる上に、ロジェの魔法をいつでも見ることができるのだ。
決して美しくも人目を惹くこともない容貌だが、彼の魔法だけはプリムの心を奪って離さない。
いつか、ロジェのように美しいステップで夢のような魔法を使いたい。
自分だけのヒロインを守ることの他に、プリムに新たな人生の目標ができた。
そんな順調な日々に影が落ちたのは、プリムが十六歳になった頃だ。
遅い成長期を迎えたロジェの身長が、急にプリムと同じくらいまで伸びたのだ。
同時に、柔らかかった手足は筋張ったものになり、細い首には申しわけ程度とはいえ喉仏が出ている。
声も若干低くなって、極々薄いとはいえ髭も脛毛も生えてきた。
華奢で線の細いほうではあるが、成長したロジェは、どこからどうみても立派な男になってしまったのだ。
こうなると、今までのように気軽にロジェに触れることができなくなった。
男だと思うとどうしてもロジェに触れることを躊躇ってしまうし、無理に触れようとすると吐き気がこみ上げる。
人前ではなんとか体裁を保つことはできたが、そうでないときは極力ロジェとは一定の距離を保って接することにした。
そうでなければ、ロジェのことまで“男”として嫌いになってしまいそうだった。
もしもそうなったら、虫除けも練習台もなくなってしまう。
なんとしてもそれだけは避けなければならない。
苦肉の策として、できるだけロジェのことは「愛しい人」と呼ぶようにしているが、それすらも鳥肌が立ちそうなのを我慢しているのだ。
この苦境から、早く解放されたい。
そのためには一刻も早く自分だけのお姫様を探して助け、結ばれて幸せにならなければ。
そして今、ようやくその機会が巡ってきたのである。
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『なんというか、想定外に面白いお話でした』
「そりゃ良かった。で、例のお礼なんだけど……うっぷ……ちょっとま……うっ」
『大丈夫ですかぁ? かなり体調が悪そうですけど。吐けるなら吐いちゃった方が楽なんじゃないですかぁー?』
「嫌だ、勿体ない。滅多にお目にかかれないような貴酒や神酒だぞ。そんな勿体ないことできるか」
『うわぁ……それ、二日酔いだったんですか……。しかし、なんだってそんなことになってるんです?』
「それは、うっぷ。ムリ、ちょっと、待て……」
『ああ、いやもう、かなり待ったんで、今更いいんですけどね。ああもう、これどうしたらいいんだろ。ザイナはもう仕事終わっちゃったみたいだしなぁ。ほんと、どうしようかなこの人……』




