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プライマン・クインフォルス (ロジェ・シルドガード)⑩



「お茶会?」


 初めて訪れた王太子宮の庭園(プリマヴェーラ)で、春の若芽のような柔らかい微笑みを湛えた従兄弟が告げた単語に、プライマンの瑠璃色の瞳が瞬いた。

 今まで従兄弟が住んでいた王の家族の離宮(エステート)の力強く眩しい庭園よりも、こちらの柔らかく温かい庭園の方が似合っているな、などと思いながら。


「そう。ちょうど大きな宮にお引越ししたからね。今度ここに、わたしと同じくらいの年頃の子供たちを集めるんだ。子供だけのお茶会だよ。ふふふ、良いおともだちができるといいなぁ」


「ふうん」


 のほほんと暢気に笑っている従兄弟は、わかっているのだろうか。

 その催しは、どう考えても王太子の将来の側近と王太子妃を見定める場だ。

 全てわかって言っているのだとしたら、将来はさぞや立派な腹黒い国王様になることだろう。

 素直なだけが取り柄の、腹芸のできない今の国王とは違って。


 興味がないとばかりに、プライマンはクッキーを口に入れた。

 ナッツの香ばしさが口いっぱいに広がる。


「だったら僕は参加しないよ。意味がない。時間の無駄だろ」


 ここ数日、公爵家には同じような年頃の()()()()()()()が、プライマンへの面会を求めることが増えていた。

 理由はわかっている。

 先頃この従兄弟殿が、正式に王太子として公表されたからである。

 そして、プライマンがこうして頻繁に仲の良い従兄弟に呼ばれて会っているからでもあった。


 あれは、敵だ。

 プライマンは、筆頭公爵家の跡取りで王太子の従兄弟である自分に近付く紳士淑女の正体が、醜い毒虫どもだということを知っていた。


 女の醜悪さについては、三年前に身を持って味わった。

 その後も、あの手この手でプライマンを篭絡せんとする女たちの醜さに、辟易することばかりだった。


 だが、男もなかなか負けてはいない。

 権力では敵わなくとも、筋力なら勝てると思い上がっているのだろう。

 気弱で儚げな印象のプライマンを侮り、力で従わせようとされたことは、両手足の指の数では足りなくなったほどだ。


 もっとも、彼らがそう思い上がるよう、猫をかぶったプライマンが故意に侮られるような振舞いをしていたからなのだが。


 男どもの高慢ちきに伸びきった鼻っ柱を、彼らの得意な拳で黙らせてやるのは、プライマンの密かなストレス解消法でもあった。

 虫も殺せないような雰囲気の少年に、心をぱっきりと折られた令息は数知れず。

 刃向かってきた男には遠慮なく、骨の髄まで恐怖を叩き込んでやることも忘れない。


「そうそう、僕が男にしか興味が持てないことは知ってるかい? 君には全く興味がないけど、遊び相手にくらいはしてあげてもいいよ? ちょうど、遊んでた子が壊れちゃってね。新しい玩具を探してたんだ」


 にっこりと笑ってそう言えば、大抵の男は真っ青になり、プライマンの顔を見るだけで逃げ出すようになっていた。


 そもそもプライマンは、デカくてゴツくて髭も脛毛もゴワゴワの、男という存在が大嫌いなのだ。

 今は少年の彼らもいずれ、固く筋張って野太い声の汗臭い、プライマンの大嫌いな“男”になることを思えば、今の内からできるだけ遠ざけておくことが望ましい。


 それに比べて、女は少しばかり厄介だった。

 単純に腕力で黙らせることはできないし、もしかしたらあの毒虫たちに混じって、どこかにプライマンだけの可憐な花が混ざっているかもしれないのだ。

 下手に手を出して、毒虫どころか花にまで逃げられたら堪らない。


 だからプライマンは、男は寄せ付けず、女は寄って来ても積極的に相手せず、というスタンスをとっていた。


 そんな彼が、多くの紳士淑女の皮を被った蛆虫どもの集まる会に行くわけがない。

 だったら邸で勉強なり剣術なりに時間を費やした方がいいというものだ。


 二枚目のクッキーを口に放り込むと、干した果実の甘みが広がる。

 耳には、従兄弟の情けない声が入ってきた。


「ええー、そんなこと言わないでよぉ。きっと楽しいよ。だって、ほら、シルドガード伯爵の次男も招待するようにお願いしておいたもの」


 ぴくり、とプライマンの瞼が震えた。

 王都から離れたシルドガード領の、小さな天才魔法使いの話はプライマンも知っている。

 というよりも、その話を従兄弟にしたのはプライマン自身だったはずだ。


 自分と同じ、リズムに合わせてステップを踏むことで魔法を行使する子供。

 自分と違い、王宮魔法史でも類を見ないような魔法を行使する子供。


 いつか会って、彼の魔法をこの目で見てみたい。

 何かの折に何気なく告げたその言葉を、従兄弟はちゃんと覚えていたのだ。


「ちっ」


 相変わらず、従兄弟はにこにこと暢気に笑っているだけだ。

 三枚目のクッキーは、ひどく苦かった。




*****




『なるほど、それがロジェさんとの馴れ初めになるわけですねぇ』


「馴れ初めとか言うな。男同士で、気色悪い」


『おや? 確かロジェさんはプリマさんの愛人だったのでは……?』


「ちっ。よく知ってるな。だけどあんなの所詮はフリだよ。男を牽制して、女を必要以上に近付けないためにね。本当はロジェ相手だって、べたべた触るのもあんまり近付くのも嫌なんだ。毎回毎回、吐き気と鳥肌を堪えながら演技してる僕の苦労も知ってほしいね」


『うわぁ……そこまでして……。ご苦労されてるんですねぇ……』


「まあ、ロジェは男としては華奢でマシな方だし、僕に敵意も二心もないからね。ただ、主従になってからは変な忠誠心が芽生えちゃったみたいで、少し鬱陶しいんだけどさ。それもこれも全部、僕だけの“愛しい人”を見つけるまでの話だから。ま、このくらいは我慢するしかないだろなあ」



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