(プライマン・クインフォルス) ロジェ・シルドガード①
※基本的にあまりアタマのよろしくない話ですが、BL要素含みます。苦手な方はご注意ください。
ロジェ・シルドガードは、二度ゆっくり瞬きをした。
恐らくこの願いは間違っているのだろう。
この場合、どう考えても自分の助命嘆願をすることが正しいはずだ。
けれど、ロジェの口から出た言葉は。
「なら箱の精霊。俺に与えられるはずの幸せは、俺の主に代わりに与えてやってくれ」
ロジェをこんな最悪の目に巻き込んだ、己の主。
できることならば、この命が尽きる前にもう一度だけ会いたかった。
*****
どこからが、誰の策略だったのか。
それはわからないし、最早どうでもいい。
事実は、ロジェが誰かに嵌められて、もうすぐ公開処刑されるということだけなのだから。
空しか見えない処刑台の上で、ロジェは溜息をついた。
首の関節を鳴らそうとして、失敗する。
さっき鳴らしてから、まだ大した時間が経っていないらしい。
それに、どうにも痛みが出てきている気がする。
鳴らしすぎたかもしれない。
首に巻かれた丈夫な革には湿っている感触がある。
まだ大丈夫だ。
まだ、死なない。
あと一日だけ耐えればいいのだ。
そうすれば、大丈夫だ。
きっとロジェの主は、最前列で自分の晴れ姿を見てくれるだろう。
もしかしたら、怒られるかもしれない。
ひどく泣いているかもしれない。
だけどきっと、あの性格の悪い主は来てくれるはずだ。
その瞬間を想像して、ロジェはくすりと笑いを洩らした。
あのすました美しい顔が歪むのは嫌だけれど、そんな顔でも最後に一目見ておきたかった。
それからなら、首を刎ねられるのも我慢できる。
本来なら、この時間はロジェに与えられた温情の時間だった。
人々の前で残虐に首を刎ねられる前に、誰にも見られず死ねるように、と。
処刑台はぐるりと黒く厚い強固な壁で覆われ、外からの接触は一切できないようになっている。
刑の執行日までは、何人たりとも処刑広場に入ることも禁じられていた。
罪人の首には、太く丈夫な革が巻かれる。
革はよく濡らされ、ぶよぶよに伸びたものだ。
濡れた革は、乾くと縮んで固くなる。
乾いて縮めば、罪人の首は容赦なく締めつけられ、じわじわと呼吸を奪われる。
首から下は魔法無効の布で拘束されていて、指一本動かせない。
なんとか首から上だけに魔法をかけることができたところで、逃げることは難しい。
罪人は三日間たった一人でここに放置され、もしもその間に死んでしまうようなら、それで処刑は終わりとされる。
骸を晒されるということもない。
だがもしも運悪く生き残ってしまったら、それだけ罪が重かったのだとされ、見世物として首を刎ねられる。
三日間の温情期間に窒息死できた罪人は幸せ者だ。
繊細で大事な血管が切れたり、脱水で死ぬことができた罪人たちもだ。
なにせ、ろくに手入れされていない、刃物というよりは鈍器のような斧で首を刎ねられずに済むのだから。
何度も何度も、背後から硬い首の骨に斧を当てながら、じっくり時間をかけて罪人の命を奪っていく、あの処刑方法に。
多くの人々の罵声や歓声に包まれながら、血と共に吐瀉物や糞尿を撒き散らして泣き叫ぶ無様な姿を誰にも見られずに死ねるのなら。
だけど、そんな温情の三日間はロジェにとってただの時間潰しでしかなかった。
主にもう一度会えるまでの時間、生き延びることができるか。
それだけの意味しかない。
ロジェは唯一自由に動く首を、勢いよく倒す。
こきり、と音がした。
じわりじわりと首を絞めていた革が濡れて、少しだけ呼吸が楽になった。
『あら、転送完了ね。もしもし、聞こえる?』
不意に、聞こえるはずのない女の声が聞こえ、ロジェはぎくりとした。
とうとう幻聴が聞こえるようになったのか。
まだ死ねない。まだ死ぬわけにはいかない。
主に会うまでは、なんとしても生き延びなければ。
『ふふふっ、そんなに驚かないで。あたしはあなたの名前と話を聞きたいだけだから』
ロジェの目の前には、白金の薄い板のようなものが眩い光を放って浮かんでいた。
尋常ならざる何かが起こっている。
目を見開いたロジェの耳に、軽く笑う声が届いた。
『箱の精霊ザイナよ。よろしくね』
本日18時に第4話②を投稿します




