クラーラ・レインティア⑤
クラーラ・レインティア、二十五歳。
交易の中継となるそれなりに大きな都市で、レインティア家の次女として生まれた。
美人というほどはっきりした顔立ちではないが、笑うと愛嬌がある。
父は薬師、母は服飾工房で仕立てをする、ごく一般的な中流家庭で育った。三歳年上の姉が一人。
手先が器用で、子供の頃から母に仕込まれた刺繍や裁縫の腕は本職顔負けの技量を持つ。
しかし彼女自身は組紐やリボン、レースなどを作るほうが性に合っていた。
現在は、十年前に母の紹介で服飾ギルドに籍を置き、作品を工房に卸すことを生業にしている。
個人で工房と取引できるほど彼女の作品は人気が高く、それなりの収入もある。
第二成人を期に一人暮らしを始めるが、未だ一人暮らし。
両親とは同じ街に住んでいるため、実家にはたびたび顔を出している。
姉は、十六歳のときに親から紹介された男性と結婚し独立、二人の子供にも恵まれた。
一方で、クラーラは見事に行き遅れである。
この国では、大抵が男女共に遅くとも二十歳くらいまでに結婚するのだから、どう言い訳しても間違いなく行き遅れである。
勿論、クラーラの両親は彼女にも第二成人前から結婚相手を探し、見合いをさせていた。
十五回も。
どの相手とも初めは順調に交際するものの、何故か数ヶ月もすると男性側からお断りされてしまう。
毎回毎回そんな調子なのだから、原因はクラーラにあるのだろう。
なのに、彼女にはさっぱり思い当たることがない。
とうとう見合い相手もみつからなくなり、両親は三年前にクラーラを嫁がせることを諦めた。
諦めていないのは当人だけ。
人並みに、いや、人並み以上に結婚願望のあるクラーラは、いつしか毎朝この教会で、幼い頃から傾倒している愛の女神に祈りを捧げるようになっていた。
そんな彼女の鬼気迫る必死さが、街の男たちから恐怖と戦慄の対象となって、更に婚期を遅らせていることなど露ほども知らずに。
*****
『ふむ、そなたの話だけではわからんな。断られることになるような何かきっかけくらいはあるだろうに』
「……あの、マリアヘラ様。実を言えば断られる理由は判っているのです。ですが……私の口から両親に伝えるのは憚られて、わからないと言っているのです。ただ、もうかなり街の噂になっていて、恐らく両親の耳にも伝わってはいると思うのですが……」
『なんだ。どのような理由なのだ?』
「それは、その……婚前交渉を強要されて……。私が拒むと、その後すぐに振られてしまうのです」
『はぁ!? なにそれ、そんな理由って完っ全に相手の男が百パー悪いじゃ……悪いではないか!』
「そう……やはり、そうですよね!」
小さく自信なさげに理由を告白したクラーラは、マリアヘラが激怒する声を聞いてほっと安心したように息を吐いた。




