クラーラ・レインティア③
この世界は、創造神により生み出された。
世界が形を成すと、次に創造神は世界を司る十三の神を創った。
創造神の生み出した世界を託すために。
十三の神は、それぞれ司るものと役割を与えられた。
創造神より一人ひとりに渡された小さな白金の版には、それが記されている。
各々の役目を知った神々は、創造神より託された世界を美しく豊かなものにするため、またこの地に住まう人々が幸せに暮らせるようにした。
神々は、まず初めに生まれたばかりで猛り狂う世界を鎮めることから始めた。
揺れる大地を踏み固め、押し寄せる大水を掬い、渦巻く嵐に息を吹きかけ、燃え盛る火山を摘んだ。
そうして世界が静かになると、神々は次に人に目をつけた。
知識を与え、愛を説き、技術を授け、調和を教えた。
神々の働きにより、人は穏やかに幸せに暮らせるようになった。
しかし、十三の神々にあって、その一柱である血の神は異質であった。
自らの血を多く残し、他の血を多く流すことが人々の生に必要だと説いたからだ。
その教えも、ある意味では正しい。
血の神の役割は、人々の中から弱い血を淘汰し、より強い血を残すことなのだ。
神々にとって、血の神の教えは当然のことであった。
より強ければ、より幸せに暮らせるようになる。
十三しかいない神々にしてみれば、何千何万といる人々の数十や数百が犠牲になったところで、取るに足らないことだ。
小さな犠牲で多くの人々が幸せになれるならば、何の問題もない。
だが、地上に生きる人々にとって、血の神の教えはあまりに苛烈すぎた。
長い時間の中で、やがて人々は血に酔い、血を求めて、理性のない獣のように他者を蹂躙するようになった。
そこにかつての穏やかで幸せな人々の姿はない。
今や地上は、赤く染まった大地に赤い河が幾筋も流れている。
荒廃し、憤怒と怨嗟が渦巻く地上を眺め、神々は嘆息した。
『我々は、失敗したのだ』
『何故失敗したのか』
『途中までは上手くいっていた』
『血の神が間違えた』
神々は、血の神を糾弾し始める。
ただ己の役割に忠実でいただけの血の神は、これに激昂した。
自らの教えの正しさを証明する、と地上に降り立つと、血の神自身が人々を蹂躙し、血を流し、血を浴び続けていった。
いつしか天上にある十三の御座は、その一つが常に生臭く、錆びた鉄色で塗り固められこびりついているようになる。
それを嫌った神は、一人また一人と御座を離れ、少しずつこの世界から消えて行った。
しかしもう、そんなことくらいで血の神の暴挙は止まらない。
遂には、御座に着くのは血の神ニルカヴァラと愛の女神マリアヘラのみとなってしまった。
『お前は、他の神のようにこの世界を見限って何処かへ立ち去らないのか』
二人きりになった天上の御座で、ニルカヴァラは威圧的にマリアヘラに問うた。
マリアヘラは、静かな慈愛の微笑みを崩さずニルカヴァラに答える。
『我は愛の女神。この世界がいかに歪み捩れてしまっても、ここに居る全てが消えぬ限りは愛を以って世界を慈しむだけ』
マリアヘラの愛を、ニルカヴァラは鼻で笑う。
『ふん。ならばもうこの世界に用はないだろう。地上の何処を探しても、もう人など居らぬだろうよ』
『異なことを。地上に居らずとも、我の前にはまだそなたが居るではないか』
『それこそ異なことを。私が欲しているのは血だけだ。愛など要らぬ。それとも、お前は愛で以って私に血を与えてくれるのか?』
『愛があれば、そなたに血を与えることなど造作もない』
『ほう! ならばやってみよ。血の神ニルカヴァラが満足するような血を与えてみよ、愛の女神マリアヘラ』




