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クラーラ・レインティア②



 煌々とした不思議な板は、祭壇の上にことりと落ちると産声をあげた。


『あーびっくりした。転送先の座標がズレて“いしのなかにいる”まま出られなくなったのかと思いましたよぉー……っと、そんなことより。えー、もしもし! 聞こえてますかぁー? まずはあなたのお名前を教えて下さい! あ、申し遅れましたが、僕は――』


「も、もしや……オリフィルヴァ様ですか!? マリアヘラ様の心臓から産まれた聖なる輝き……あなた様はオリフィルヴァ様なんですね!?」


 がたがたがったん! と祭壇を倒しかねない音を立てながら、クラーラは勢いよく光る板に顔を近付けた。

 話を遮られ、接触しそうなほど接近されて、光る板はどことなく困惑しているようにもみえる。

 板なので気のせいかもしれないが。


『えーっと……ちょっと待ってくださいね、アーカイブ検索しますのでー。んんー、なるほどぉー……この世界における宗教ですか。血の神ニルカヴァラと愛の女神マリアヘラから産まれた、豊潤の神オリフィルヴァ。うーん、これはこれで興味深いですが、残念ながら違います! 僕は“箱の精霊”イプスです。あなたのお話を聞かせてくださぁーい!』


「………………」


 精霊()が名乗りを上げた途端、クラーラは興味がなくなったとばかりに精霊から視線を外した。

 そして再び頭を垂れると、女神像に向かって熱心に祈り始める。


「そんなことよりマリアヘラ様、今日こそ私に結婚相手をお恵みください!!」


 先程と同じ、鬼気迫る勢いで。


『えー、あれぇー? 精霊ですよー? お話聞かせてくださったらお礼もしますよぉー? あのー、ねえ、ちょっとー、無視しないでくださいよぉー! えー、こういうときどうしたらいいのか……マニュアルマニュアルっ!』


 精霊は明滅を繰り返しながらクラーラに話し続けるが、クラーラは一切見向きもしない。

 ただただ必死に、目の前のマリアヘラ像へ祈りを捧げるだけだ。


『うーん、困ったなぁ。これじゃサンプルが取れないんだけどなぁー……』


『あははっ、じゃあチェンジね』


 どこからともなく、別の声が聞こえた。

 クラーラはぐっと深くなった眉間のしわを隠すこともせず、険しい顔を上げる。

 精霊の次は何が、自分の大切な祈りの時間を邪魔だてするのか。

 苛立ちながら声の主を探そうとして――。

 そうして目にした光景に、クラーラは呆然としてしまった。


 彼女の見ている前で、敬愛するマリアヘラ像の滑らかな手のひらが眩く光った。

 軽く掲げられた手の中で、神々しい何かが生み出されたように見える。

 温かい聖なる光と共に、清らかな天使の歌声までもが降ってきた。

 囁くような美しく透き通った声は、静かなさざ波のごとく広がりクラーラを優しく包み込む。


 やがて音と光が収束し、マリアヘラ像の手には小さな薄い板だけが残った。

 先ほど祭壇に落ちてきた鋼に似た黒光りする板とは違い、マリアヘラ像の手の中にある板は白金に輝いている。

 どちらも滑らかで艶があり、人の世のものとは到底思えない美しさだ。

 しかし、神の持つ白金の板には大きな意味がある。


 クラーラの目には、その手に聖板を持ったマリアヘラが微笑んでいるようにしか見えなかった。

 神々しい奇跡を目の当たりにして、クラーラは言葉も出ない。


『憐れな地上の娘よ、我は愛の女神マリアヘラ。そなたの祈り、我が聞き届けよう。まずはそなたの名前と、生い立ちから話を聞かせよ』


「……っ! はい、はい……っ、マリアヘラ様……!」


 クラーラは感動にうち震え、女神像に深く頭を下げて己に降って湧いた幸運を噛み締めていた。


 だから、彼女の耳には全く入っていなかった。

 二枚の薄い光る板から漏れている、遠くで話すような微かな声が。


『ちょっとちょっと、愛の女神だなんてどういうつもりですかザイナ。それに、ここは僕の管轄ですよぉ』


『AIの判断よ。この子はとっても貴重なサンプルだから、あたしが女神のフリして話を聞き出せって。イプスはさ、異世界人とのファーストコンタクトが下手くそなのよね。もっと演出効かせなきゃ、あの子みたいに喋ってくれない人だっているわよ』


『ええー、そんなぁ。マニュアルにはそんなこと書いてないですよぉー』


『バカね。マニュアルにばっかり頼ってないで、少しは工夫しなさい。効果音とか光のエフェクトなんか、とっても有効よ?』



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