スマイル、所によりサンダー⑤
「わ、私は平気なんですけど……幾ら龍の姿になったからって薫平さんには無理なんじゃ」
「だ、だよね!?」
アオイの言葉に縋り付く。
言ってやって! このアホ鼠にもっと言ってやって!
こいつわかってないんだよ!
俺がどこにでもいるか弱い男子高校生だってこと、すっかり忘れてんだよ!
「大丈夫。さっきも言ったろ? 多少は痛いけど充分耐えられる筈さ。頑張れ!」
「なぁ、お前今楽しんでるだろ」
人の頭の上で嬉しそうな声出しやがって。
「そんなことある訳ないだろ? こう見えても君のことを信頼してるんだよ?」
「よく言うよ……この胡散臭ネズミ」
この自称……いや一応他称されてはいるが、とりあえず賢者を名乗るげっ歯類様には一度人間の常識と言うものをとっくり教えてならねばならないようだな。
「いいか!? 普通の人間ってのは、雷に打たれて平気で居られるような強キャラじゃないんだ! 下手すりゃ一発で心臓止まるし、下手しなくても大火傷なんだよ!」
「だからそれも知ってるんだって。大丈夫、火傷程度なら龍化した君の回復力で数分で治るだろうし、心臓にはなんの負担も無いよ」
「それを信じて雷に撃たれてやるほどの馬鹿じゃねぇぞ俺は……」
幾ら何でもみくびりすぎだろ。
ベースは只の人間に、なんて無茶を言いやがるんだよ。
「これが一番手っ取り早くて安全なんだって。本当だよ? 時間経過で薬の効果切れを待つのも一つの手だけど、それだと待ってる間にナナ自身が怪我をしてしまうかも知れないだろ?」
「……ちょっと待て。覚悟を決めるから」
ナナの事出されたら何も言えなくなるじゃん。
「んじゃあ、その間にアオイに説明しておこうかな」
ナナのためだってんなら、頑張るしかないのは分かってんだけどさ。
でもやっぱり雷に撃たれろってのは、難易度高くないか?
「アオイには大龍の姿になって、この精霊達の力を使い果たしてもらいたいんだ」
「私が、ですか?」
ビビりまくって考えこむ俺を放置して、アオイとアルバが作戦会議をし始めた。
「そう。いくらナナの力が薬のせいで強くなってるからと言っても、本気の君より強いってことはないからね。この精霊達は嫌がるだろうけど、ナナの蓄えた力を君が外部から全部発散させてやればいいんだよ。出来るだろ?」
「で、できないことはないですけど……加減が難しそうです」
「そうだろうね。だからこそ不器用くんには龍になってもらったんだよ。多少威力が出すぎても問題ないようね」
「でもナナは大丈夫なんですか? 私達は雷や風に強い種族ですけど、まだナナじゃ耐えられないんじゃ」
「大丈夫さ。ナナもジャジャも小さいけれど立派な空龍だ。それに大龍の姿の君なら雷を遮断できる風の結界を張れるだろう? 不器用くんも無意識だけど、自分の体を保護する龍気の結界を張れるしね。それはユールとの件で確認済みさ」
「……おじさま、なんだか怖いです」
よっし!
覚悟を決めた!
「おう! 腹括ったぞクソネズミ! 矢でも鉄砲でも持って来いってんだ!」
なんか色々話し合ってたみたいだけど、待たせたな!
「雷が降るんだってば」
頭の上から杖で額を小突かれた。
分かってんだよ! ちょっとした言い回しにいちいちケチつけんじゃねぇよ!
「んで、どうすんの?」
「聞いてなかったのかい?」
覚悟を決めるのに忙しかったんでね。
「あぅ、だぁ」
「ん?」
胸の中のナナがもぞもぞと動き出した。
見ると、鼻先に止まっている白い蝶、天の精霊を捕まえようと頑張っている。
「ナナ、びっくりしないでね?」
「んだぁ?」
ナナに顔を近ずけてそのやんわりほっぺをモニモニと揉むアオイ。
不思議そうなナナににっこりと微笑む。びっくりって、なんの話?
「んしょ」
「アオイ!?」
なんで急に上着を脱ぎ出した!?
びっくりってこういうこと!?
「あの姿になったらお洋服、破れちゃいますから」
そう言いながら薄ピンクで厚手のブラを外す。
授乳のせいで擦れて痛いって言うから買ったママ用の授乳下着だ。
「よいしょ」
続いてパジャマのズボンを脱ぎ出した。最初は尻尾を尻尾穴から取り出し、続いて片足づつ。
あれ、ちょっと。本当に真っ裸になるつもり?
「……な、なんか目が怖いですよ薫平さん」
気がつけばアオイが脱ぐのをガン見してた俺。
ブラとお揃いの色のショーツに手をかけた時に、アオイが困ったように笑って俺を見た。
「ご、ごごごご、ごめん!」
アオイの裸なんて、結構な頻度で見てるじゃないか。何を今更狼狽えてんだ俺は。
いや、違うんだ。風呂上がりとかさ。あと着替えの時とか、たまに鉢合わせることがあるんだよ。
上半身ぐらいなら毎晩の共同授乳作業の時に否が応でも見えちゃうし。嫌って訳でもないけど! 実際、ちょっと嬉しかったりするし!
ああん? 高校生男子の性だよ! しょうがねぇだろ!
「よし、じゃあ始めますね。おじさま」
「ああ、頼んだよ」
あ、あれ?
始めるって、何を?
「スゥ……」
困惑する俺を置いて、アオイは目を閉じて大きく息を吸い込む。
その小さな小さな胸を反らしながら、天を仰ぎ、そしてーーーーーー。
「……ぅぅぅうううううっ、ガオオオオオオオオオオオオッ!!」
雄叫びを上げた。
「うぉっ!」
「ふやっ」
眩い光を放ち、そのシルエットがもの凄いスピードで膨れ上がっていく。
周りの風が逆巻き、上昇気流となって吹き荒れる。
ナナを守るように抱きかかえる。
あまりの眩しさと風の強さに目が開けていられない。
腕の中で体を強張らせるナナ。
やっぱりちょっとびっくりしたのか、必死に俺の服をぎゅっと掴んでいる。
「ふぇ、ふぇえええ」
「わっ、大丈夫大丈夫。ママだから」
未だに光続けるアオイを背に、少し泣き始めたナナをあやす。
びっくりするなってのが無理な話だもんなー。ごめんなー?
「グォオオオオッ!」
一際大きな風と光、そして高らかな雄叫びが響く。
振り返ると、全身を青いフサフサした体毛で覆われた、見上げるような巨体の龍がそこにいた。
大きな翼を一度羽ばたかせ、周りの木々をザワザワと揺らし、大きな尻尾をブンッと地面に叩きつけ、小さな池の水面を荒立たせる、雄々しい姿の空の龍。
久しぶりに見た、アオイの龍の姿だ。
「グルルっ」
喉を鳴らしながら、蒼の空龍は俺とナナを優しげな目で見下ろした。
どんな姿になろうと、娘を見るその眼差しは変わらない。
「あぅう」
その姿を見上げるナナの目には、若干の怯えが混じっている。
そういえば、ナナとジャジャがアオイのこの姿を近くでちゃんと見たのって、これが初めてじゃないか?
牙岩の上だと親父と一緒に避難してて遠くから見ていたし、そのあとは眠った状態で家まで運んでいたから、結局最後までアオイのこの姿は見ていない。
「グゥウウ」
「う?」
大きな体を丸めて、アオイはその鼻先をナナに近ずける。
その姿を見たナナがきょとんと首を傾げた。
「ほらナナ、ママだぞ?」
「だぁ?」
右手を伸ばして、龍の鼻の頭をてしてしと叩く。
理解してるかどうかはまだ分からないけど、どうやら怖がるのはやめたようだ。
「アオイ、さっさと始めちゃおうか。君のその姿はやっぱり目立つからね。今はまだ気づかれていないけど、用心するに越したことはないしね」
「ガァ」
大きく頷いたアオイがナナから顔を離して、体ごと俺たちに覆いかぶさった。
一応、ここはアトルの屋敷の奥の奥。
広大な敷地面積を持つ王族の土地だ。
この国の国民、ましてやこの街の人間なら誰でも知ってることだから、わざわざここまで騒ぎを見に来る人も居ないだろう。
だけど目立つことには変わりないか。
林の中でその巨体を丸めているから、隠れられてはいるんだけどな。
「不器用くん、準備は良いかい?」
「お、おう」
背中の羽をばさりと揺らし、尻尾を腰に巻きつける。
普段は存在しない器官を動かす感覚のなんて奇妙なことか。
「だ?」
胸の中のナナはさっきから不思議そうに俺を見上げている。
「大丈夫だナナ。パパとママに任せなさいって」
「うだぁ!」
両手を上げて答えるナナ。
角が生えてても俺って認識してくれて、実はちょっとだけ嬉しい。
「グルルゥ」
低いうなり声と同時に、アオイのこめかみ(?)の部分に生えた立派な黒い角が眩く発光する。
「不器用くん、ナナをしっかり抱いて居てくれ。激しい光と衝撃が来るから、顔を隠しておきなさい」
「お、おう」
言われた通りナナの後頭部に手を添えて、胸元に顔を押し付ける。
口と鼻を塞がないように気をつけながら、ナナの小さなうなじに俺の鼻を押し付けた。
「あうぅだぁ」
「我慢我慢っ、もう少しだからな?」
イヤイヤと首を振るナナを宥めながら、俺も目を瞑った。
「ゥウウウウウウウウッ! ガァアアアアアアッ!」
空気ごと振動させるかのようなアオイの雄叫びが鼓膜をビリビリと刺激する。
びっくりしたナナがブルリと身体を震わせて、肩を竦めた。
「来るぞ! 耐えろ!」
アルバの叫び声と同時に、肌の表面にゾワゾワと不快な感覚が走り抜けた。
蝶達が一斉に羽を擦り始め、静電気が急速に発生し始めたのだろう。
身体中の毛という毛が逆立ち始めた。
地面からパチパチという音が鳴り、そしてそれは次第に増え、重なり、大きくなっていく。
「んぇええ」
「大丈夫大丈夫、大丈夫だから」
背中を優しく撫でながらナナに語り続ける。
こんなこと言ってる俺だが、ぶっちゃけ緊張と恐怖で心臓がバクバクしっぱなしだ。
ナナに言い聞かせていると同時に、自分を騙しているのだ。
当たり前だ。
本来、雷に当たってどうなるかなんて、常識と照らし合わせれば容易に想像できてしまうから。
良くて大火傷。
悪くて即死亡。
それ以外の結果が俺には想像できない。
今ここで逃げずに踏ん張れるのは、アルバ・ジェルマンの言葉を一応信頼していることと、アオイを信じているからだ。
この胡散臭い選手権世界代表ネズミは、一応これまでの実績を考えれば信頼するに値する。
それに本当に悔しいけれど、龍の不調や病気についてはこいつ以外に頼れる存在を俺達は知らない。
公的な機関や病院に駆け込む事が出来ない俺達にとって、こいつの言葉に縋ることしか出来ないのだ。
大丈夫だよな?
俺は多少怪我しても、まぁ文句は言うだろうが構わないんだ。
だけどナナ。ナナだけは、お願いだから傷つけないでくれ。
頼んだぞ。アルバ!
「ガァッ!!」
アオイの短い咆哮が、一気に状況を変えた。
閉じて居てもなお眩しさを伝える光量で、周囲が一気に白く染まる。
同時に耐えられないほどの轟音で脳が揺さぶられた。
ほとんど同時に発生した耳鳴りが、とても気持ち悪い。
できる限り両腕でナナの耳を塞いではいるが、俺の耳は無防備だ。
頭の中で反響する高音で、地面がまるで揺れているかのような錯覚を催す。
歯を食いしばって、それら全てを耐える。
時間にしたら、多分ほんの一瞬。
数秒、下手したら一秒もない。
時間感覚すら曖昧な、腕の中の守るべき温もりだけしか感じ取れない世界。
生きた心地を失った身体が、その全てで異常を知らせて来る。
ピクピクと勝手に動く腕や脚や腹の筋肉。
鼻にこびりつく、何かが焼けたような匂い。
覚えてるぞ。これは牙岩の頂上で、ユールのあの一撃を受けた時に嗅いだ匂い。
自分自身の肉が焦げ、血が沸騰し、空気すら焼き尽くした時の、あの匂いだ。
怖い。
正直怖くて堪らない。
ナナの存在がここになければ、みっともなく叫びのたうち回って居たかも知れない。
耐えろ。
耐えてみせろ俺。
ナナが居る。ナナが俺の腕の中で俺を頼って居るんだ。
情けない姿は、絶対に見せられない。見せてはいけない!
不意に、背中に暖かくて柔らかいモノを感じた。
目を閉じたまま開けないけれど、なんとなくアオイなんだろうって事は分かる。
俺とナナを心配して、寄り添ってくれているんだろうか。
フサフサとした肌触りが良いであろうその体毛が、背中から俺達を包み込む。
『薫平さん、大丈夫です。私が居ますから』
聞こえるはずの無いアオイの声が脳裏に響く。
『頑張ってください。ナナのためにも』
ああ、分かってる。
お前はママで、俺はパパだもんな?
娘の為なら、なんだって耐えられる。
それが、親ってもんなんだよな?
瞼の裏が暗闇を取り戻して、もうどれぐらい経っただろうか。
未だ鳴り止まない耳鳴りだけを残して、俺はそっと目を開けた。
甲高い音が目眩として現れ、少しだけ姿勢を崩した。
右足に力を込めて踏ん張り、体勢を元に戻す。
「熱っ!」
熱い!
脚に感じた異常な熱に目をやると、ジーパンの裾が少しだけ黒い煙を吹き出して燃えていた。
バタバタと地団駄を踏んで火を消そうとしてみるが、なかなか消えない。
「大丈夫だよ」
収まり始めた耳鳴りの向こうで、アルバが静かな声で俺の語りかけた。
頭の先から、弱い勢いの水が落ちてきた。
その水は俺の足をズボンごと濡らし、燃え始めていた火を鎮火させる。
あー、びっくりした。
足首辺り、少し火傷したみたいだ。ちょっと痛い。
「足元だけ結界が弱かったみたいだね。ナナは……うん、大丈夫だ」
その言葉に慌てた俺は、すぐにナナの両脇に手を差し込んで持ち上げた。
「ナナ!?」
俯いた顔を多少無理やり覗き込むと、ポカンとした可愛らしい目でナナは俺を見た。
良かった。
怪我らしい怪我は見当たらない。
「ふえっ、ふぇえええ」
俺のシャツから引き剥がされた両手が、ギュッと固く握られた。
あ、泣く。これはもう大泣きする姿勢だ。
事態についていけずにショートしていたナナの思考がようやく追いつき、涙となって欠壊しだしたのだろう。
「んびっ、んぎゃあああああっ!」
「あーごめんごめん。怖かったなぁ。びっくりしたもんなあ。もう大丈夫だぞー。ほーら、泣き止んでお姫様ー」
「んぎゃあああああっ! ふびゃあああああああっ!」
変顔したり、全身を優しく揺らしたりしながらなんとか宥めようとするも、ナナは一向に泣き止んでくれない。
困った。
ガチ泣きモードだ。
これを収めらることができるのはアオイだけだ。
ジャジャなら俺でもなんとかできるんだけど、ナナはママっ子だからなぁ。
ナナを胸に抱き直して、頭上に居るであろうアオイを見る。
未だ龍の姿のままのアオイは、恐らく困ったように笑ったのだろう。
その目を細めて俺とナナを見下ろして居る。
「グァア……」
小さく喉を鳴らしながら、アオイはその太くてフサフサな尻尾を器用に動かしてナナの頬を撫でた。
「んびぃいいいいいいっ!」
大粒の涙を流しながらギャンギャン泣くナナの頬を、アオイは何回も何回も尻尾で撫でる。
「ひっく……えっく」
気の済むまで泣き喚いたのだろうか、ナナは嗚咽を残しながら目をグニグニと擦る。
「アオイ、まだ傷が癒えてないんだろう? しばらくその姿で居なさい。龍の姿の方が治りが早いからね」
「そうなのか?」
俺の頭の上で杖を振り回すアルバイに問いかける。
ていうかお前、何してんの?
「少しだけね?」
そう言いながらも、アルバは杖をブンブンと振り回す。
「雷を発散してすっかり落ち着いた精霊たちを追い払ってるのさ。集まりすぎると良くないからね」
俺の無言の問いに応えてくれた。
そうなのかと思い周りを見ると、天の精霊達がゆっくりと四方に散らばっていく。
良かった。
よく分からないけれど、事態は沈静化したみたいだな。
「んじゅ」
頬に流れた涙をアオイの尻尾で拭ってもらったナナが、変な声を出した。
「もう終わったよナナ。部屋に帰ってりんごジュース飲もうな?」
俺達もまだ昼飯食ってないしな。
こんだけ大はしゃぎしたから、ナナも眠ってくれるだろう。
ジャジャはもう眠ったかな?
あとで顔を見てこないと。
「……んだぁ」
ナナが頭の上のアオイをしばらく見上げて、おもむろに両手を差し出した。
「んー、んー!」
「あれ?」
抱っこして貰いたがってる?
目の前の大きいのがママだって、理解してるのか?
「グルゥ」
困ったように唸るアオイが、大きい手で頬をぽりぽりと掻いた。
元の姿に戻りたいけど、まだ戻れないってことか。
「ナナ、もうちょい待ってな?」
龍の体から赤い煙が所々上がっている。
あれは龍の治癒能力だ。俺の脚からも少しだけ立ち昇っていて、みるみる内に痛みが消えていく。
多分さっき受けた火傷はもう跡形も無いはずだ。
「んー! ばぁ!」
ジタバタと暴れるナナをなんとか抑える。
ナナ、そういうのパパ傷ついちゃうから。
パパよりママが良いのは知ってるけど、やっぱり傷ついちゃうから。
「まー!」
え?
「グゥ!?」
小さく発したその言葉に、俺とアオイが固まる。
「まぁま! まぁ!」
「な、なななななっ!」
「グァ!?」
待って!
ちょっと待ってナナ!
今、なんて言った!?
「まぁま! まぁま!」
「グォオオッ!」
アオイが突然唸り出し、発光を伴って急速に縮み始めた。
「うぉっ」
「ナナ!? もう一回言って!?」
少しだけ眩しくて目を閉じたら、開いた時には全裸のアオイが必死の形相で俺の肩越に縋りついてた。
まだ所々傷が残っているが、気にしてる余裕が無いのだろう。
「ばぁ!」
いつものアオイの姿を確認したナナが大きく笑った。
「まぁま! まぁま!」
「う、うん! ほら、ママだよ!? まぁまっ!」
感極まったアオイが泣きそうになってる。
両手を差し出して、俺からナナを奪い取ってしまった。
服を着る事すら忘れて。
「まぁ!」
「うん! うんうん!」
……いいなぁ。
スリスリとナナに頬ずりをしながら、アオイは顔を綻ばせながら泣いている。
そっかぁ。
おしゃべりはナナが先だったかぁ。
飛ぶのも尻尾ハイハイもジャジャが先だったけど、これは予想外だったなぁ。
そして、記念すべき第一声は『ママ』かぁ。
……パパは?
お互い楽しそうに頬をすり合わせているアオイとナナに向かって、空いた右手を虚しく差し出す俺。
そんな俺の頭の上で、鼠の賢者が楽しそうに笑った。
「寂しそうだね。君」
「うるせぇ」
ちょっとほっといてくれよ!
「まぁま!」





