08 スキル鑑定の儀
「どんなスキルなんだろうか……」
期待と不安が入り混じる感覚。それに加えて、領主の息子としてのプレッシャーが、わずかな吐き気となって込み上げてくる。
この国では、12歳になるとすべての子がスキル鑑定の儀を受ける権利を持つ。
逆に言えば、受けないという選択もできる。
それがセレノアという国の気質なのか。
あるいは、建国の祖である賢者の気まぐれなのか。
――それは誰にも分からない。
とにかく、今日で12歳になった僕は、その儀式を受ける。
「ノア様。壇上へお願いします」
神官に呼ばれ、僕は壇上へと上がった。
(この結果で……人生が決まる)
そう言っても、過言ではない。
僕には三人の兄がいる。
それぞれ、槍術・剣術・火魔法といった戦闘系スキルを持っていた。
モンスターが存在し、他国との戦争や野盗の討伐が求められるこの時代。
剣や魔法のスキルは“当たり”とされ、重宝されてきた。
フィルド家でも同様だ。
父は剣術、祖父は槍術のスキルを持っていた。
戦闘系スキルは、強さの証。
そして、フィルド家の象徴でもある。
「では、こちらのクリスタルに手をかざしてください」
「……はい」
僕は無言で手をかざした。
次の瞬間、強い光が弾ける。
クリスタルの中心に、ゆっくりと文字が浮かび上がった。
(……なんだ、これ?)
見慣れない単語。
「ん……? これは……」
神官が思わず声を漏らす。
そして、難しい顔のまま僕を見つめた。
やがて、同席していた母を呼び、何かを耳打ちする。
声は聞こえない。
だが、空気で分かる。
(……良くない内容だ)
神官は一度うなずくと、壇上へ戻り、声を張った。
「ノア様のスキルは――『臨床検査』です」
「……」
「……」
「……」
静寂が続いた。
誰も、何も言わない。
「……あの、もう一度よろしいですか?」
思わず、僕は聞き返していた。
「ノア様のスキルは、『臨床検査』であります」
「『臨床検査』……?」
その瞬間、理解した。
(――終わった)
フィルド家四男としての未来が、消えた。
どう生きていけばいいのか。
そんな不安が、頭の中をぐるぐると巡る。
そして何より
――父の、あの怒りに満ちた表情が脳裏に浮かんだ。
「……憂鬱だ」
隣に立つ母は、僕に微笑みかけていた。
だが、その表情はどこか寂しそうでもあった。
その日のスキル鑑定は、領主一族向けの非公開のものだった。
一般の領民とは違い、参列者は親族と側近に限られている。
万が一の事態に備え、情報の流出を防ぐためだ。
そして今回――
僕の結果は、まさにその“万が一”に該当した。
領主家から、正体不明のスキル保持者が出たとなれば、それは弱みになりかねない。
転生前の世界のように情報が瞬時に広がるわけではない。
この世界では、口伝えこそが主な情報伝達手段だ。
だからこそ、こうした統制は意味を持つ。
◇
その後、僕は母とともに父のもとへ向かった。
「ノアよ。すでに聞いておるが……お主のスキルは何と言ったか」
「はい、父上。『臨床検査』であります」
「そうか。そのスキルで、何ができるか分かるか?」
「……申し訳ありません。分かりません。書庫でスキルについては学んできましたが、聞いたことのないものです」
「……そうか」
父は静かにうなずいた。
怒ると思っていた。
だが、その表情はどこか寂しげだった。
それが、余計に胸に刺さる。
「ノアよ。お主には、自身のスキルについて研究する時間を与えようと思う」
「えっ!? それはあんまりです、アルヴェルト!」
母が声を上げる。
「待て、エリシア」
父は静かに続けた。
「ノアは大切な息子だ。それは変わらん。だが、我がフィルド家は代々、戦闘系スキルを持つ者が役割を担ってきた」
「……」
「補助系のスキルを持つ者もいた。だが今回は違う。聞いたことのないスキルだ。役割が見えぬ以上、見極める必要がある」
「……つまり?」
母の声が震える。
「この地を離れ、自らのスキルを探れ。――ノア、どうだ」
「あ……はい、父上。断る理由はありません」
不思議と、声は落ち着いていた。
「僕自身も、このスキルが何なのか知りたいと思っています。フィルド家とグレイヴェルのために、答えを見つけます」
「……よく言った」
父は短くそう言った。
「準備を始めよ」
「あなた……」
母は何か言いたげだったが、それ以上は言葉にしなかった。
◇
急な展開だった。
不安がないわけではない。
だが――
(追放、ってほどでもないよな……)
どちらかと言えば、“留学”に近い。
そう思えば、少しは気が楽になる。
「それにしても……初めての外の世界か」
何を準備すればいいのか。
そもそも、軍資金は出るのか。
「さすがに、いきなり野垂れ死にはないよな……」
そんなことを考えながら、僕は少しだけ笑った。
「……プランを立てるか」
不思議と、心は軽かった。
(僕って、こんな性格だったっけ……)
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