表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/34

09 小さな事件

あれから数日が経ち、いよいよ明日、家を発つ。


準備の合間に、スキル《臨床検査》について、いくつか試してみたが――何も起きなかった。


両手を前に出して「臨床検査」と唱えてみる。

石や本に向けて試してみる。

地面を這う蟻に対しても発動を試みた。


「……何も起きない」


自分でも笑ってしまうほど、何の反応もない。


(本当に……スキルなのか?)


無力感だけが、じわじわと胸に広がる。


明日には、この家を出るというのに――。


(どうするんだ、これから……)


そんな不安を抱えていたときだった。



使用人の一人が、突然倒れた。


「大丈夫ですか!」


周囲が慌てて声をかけるが、返事はない。


一緒にいた使用人が言うには、頭痛を訴えた直後に嘔吐し、ろれつも回らなくなり、そのまま倒れたという。


「ノア様……どうしましょう……」


たまたま近くにいた僕は、すぐに駆け寄った。


「とりあえず、セドリック先生を呼んできて。部屋にいるはずだ」


「は、はい!」


使用人が駆け出す。


僕は倒れている使用人のそばにしゃがみ込み、顔色を確認する。


――そのときだった。


「……なんだ、これ」


言葉にできない違和感。


視界の奥に、何かが“見えた”。


倒れている使用人の頭のあたりを流れる、青白い流れ。

その流れが、一か所に集まっているような――そんなイメージ。


(これ……まさか……)


一瞬、思考が止まる。


「ノア様。連れてまいりました」


声に振り返ると、セドリック医師が到着していた。


「先生、お願いします!」


「はい!」


その瞬間、さっきの“イメージ”は消えていた。


セドリック医師は迅速に状態を確認し、周囲に指示を出す。


やがて、使用人は運ばれていった。


「……これで、ひとまず安心か」


そう口にしながらも、胸のざわつきは消えない。


(今のは……何だったんだ)



その後――


その使用人は、帰らぬ人となった。


治療の甲斐もなく、亡くなったという。


セドリック医師の診断は、「頭の病」。

非常に珍しい症例とのことだった。


「……頭の病気、か」


あのとき見えた“流れ”を思い出す。


(あれが……原因だったのか?)



この世界のヒト族の平均寿命は、50歳に満たない。


死因の多くは、高熱、止まらない咳、下痢――だと、『病の手引き』というこの世界の医学書に記されていた。


「……つまり、感染症か」


転生前の世界でいえば、平均寿命50歳前後は、発展途上国の一部や日本でいえば戦後すぐの時代に近い。


だが、戦後すぐの日本ですら、大病院が存在し、顕微鏡やX線、ワクチン、外科手術といった医療がすでに存在していた。


それと比べると、この世界の医療水準は――明らかに低い。


(医学が、体系化されていない……)


むしろ。


魔法があるがゆえに、“それで治す”という考えが優先されているのかもしれない。


この世界における医学は、セドリック医師のように、個人から個人へと受け継がれる“技術”に近い。


体系だった知識ではなく、経験則。


ましてや、「感染症」という概念すら、一般には知られていない。


「……魔法の弊害、か」


小さく、そう呟いた。


魔法で“治す”とは、どういうことなのか。

それは、想像以上に奥深いテーマなのかもしれない。


そして、この世界にはエリクサーという万能薬があるらしい。

寿命が極めて長いとされるエルフやドワーフといった種族もいる。

そして、モンスターという存在。


――いったい、それらは何なのか。


「……なんだか、不思議なものばかりだな」


気づけば、少し楽しくなっていた。


知らないことばかりのこの世界。

解き明かしたい謎が、いくつもある。


「……悪くないかもしれない」


そんなことを考えている自分に、思わず苦笑する。


――どうやら、オタク気質と中二病は、転生しても治らないらしい。


読んでいただきありがとうございます!

面白かったらブックマーク・評価いただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ