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10 出発の日

いよいよ、出発の日だ。


スキル鑑定の前までは、まさか自分が住み慣れたこの家を出ることになるとは、思ってもみなかった。


ーー人生は、何があるかわからない。


「これは持っていこう」


賢者の書の写し。

僕のバイブルであり、毎日図書室に通って読み込んできた一冊だ。

これがないと、どうにも落ち着かない。


「これも持っていこう」


『病の手引き』。

さすがにこれは写しではなく、図書室にあった原本を父に頼んで譲ってもらった。


転生前の医学を知る僕にとって、この本の内容は決して画期的とは言えない。

だが、この世界の医療水準を理解するには、非常に役立つ。


「あとは……数日分の着替えとナイフ。それに、お金も忘れずに」


昨日の夜、父から渡されたのはナイフと金貨だった。


剣ではなくナイフだったのはーー

僕には剣を扱う力がないと判断されたのだろう。


だが、そのナイフにはフィルド家の家紋が刻まれている。

ただの道具ではない。

きっと、何かの証になるはずだ。


「このお金……どのくらいの価値なんだろうな」


持たされたのは、10万ゼニー。


塀の外を知らない僕には、それで何が買えて、どのような暮らしができるかは見当もつかない。

せめて、すぐに路頭に迷うようなことだけは避けたいところだ。


「そして……同行者は、いない」


一人増えれば、その分だけ金も手間もかかる。

そう考えれば、この判断は合理的だ。


――そう、頭では分かっている。


「……まあ、気楽でいいか」


そう自分に言い聞かせた。



部屋は、いつもと変わらない。


まるで、これからもここで暮らし続けるかのように。


だが――明日から、ここに僕はいない。


窓から差し込む光。その向こうに広がる青空。


静かな朝だった。



屋敷の大階段を降りると、エントランスには執事たちが並んでいた。

その中に、ジャンの姿もある。


ジャンは最後まで同行を願い出てくれていたらしい。

だが、それを父が許さなかった。


どこか、寂しそうな顔をしている。


(……そんな顔、するなよ)


心の中でそう呟きながら、視線を外す。



そのまま外へ向かい、扉を開ける。


フィルド家の敷地は広い。


外門までは一本道。だが、そこまでの距離は、おそらく二キロほどある。


はるか遠くに、小さく見えていた。


「行ってきます」


「気をつけてね」


母の声に背中を押され、歩き出す。


父の姿はない。

兄たちの姿も見えない。


嫌われているわけではない――そう思いたい。

おそらく、父なりの配慮なのだろう。



しばらく歩いて、外門へたどり着く。


衛兵に声をかけ、ついに塀の外へ出る。


振り返る。


12年過ごした家が、変わらずそこにあった。


人の姿はもう見えない距離だ。

それでも、母がまだそこに立っているかのような気がした。


「……行こう」


新たな一歩だ。


そのとき――


(天の声)「新たに独自クエストを受けられるようになりました」


「ん!? なんだろう、独自クエスト?」


よく意味は分からなかったが、ここから冒険が始まるということなのかもしれない。


心地よい風が吹き抜け、花びらが静かに舞っていた。


(この世界で……僕は、何を見つけるんだろうか)

読んでいただきありがとうございます!

面白かったらブックマーク・評価いただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。


いよいよ第2章に入ります。

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