07 賢者の書との出会い
「ノア様、そろそろ行かれたほうが・・・」
「もう少しだけ読んだら行くから・・・」
朝食の前に行う日課は図書室で本を読むことだ。
つい夢中になってしまい、遅れて怒られたこともある。
フィルド家では、朝食と夕食は家族全員で取るのが決まりになっている。
そこには、教育的な意味も大きい。
朝食では「今日は何をするのか」
夕食では「一日どうだったか」
それぞれを家族の前で報告する必要がある。
辺境国家セレノアの地方領主である父は、決して豊かとは言えない土地を収めていることもあり、厳格な性格の持ち主だ。
ーーさて、話を図書室に戻そう。
図書室には、ある程度の年齢になってから頼み込んで入れるようになった。
最初は絵本の読み聞かせだったが、今では自分で本を選んで読める。
三人いる兄たちに比べて、僕は本を読むのが早かったらしい。
そのせいか、父や母からは、魔法使いや軍師、あるいは賢者の素質があるのではないかと、少し的外れな期待を向けられている。
フィルド家のこれまでの役割を見れば、長男が家督を継ぐのは当然として、次男以降は財務を担う助役や騎士団の統括など、それぞれの立場で領地を支えてきた。
その意味でも、父と母は四男である僕にも、このグレイヴェルを支える一員になってほしいと考えているのだろう。
「僕は、ただ本が読みたいだけなんだけどね・・・」
そんなわけで、僕は着実にこの世界のことを理解を深めていた。
この大陸には五つの国がある。
一つは、魔法国家「ルミナリア」。魔法使いが中心となる国。
一つは、軍事国家「ドラクス」。戦いを重んじる民が集まる国。
一つは、商業国家「ヴェルディア」。商才に長けた者たちの国。
一つは、宗教国家「エルメリア」。神への信仰が重んじられる国。
そして最後が、我が国「セレノア」。
発展は道半ばで、良い意味でのどかな雰囲気を残した国だ。
これらの国々は、かつて魔王を討伐した勇者パーティの五人が移り住んだ国であり、現在も、その血筋は王族として受け継がれているらしい。
そのため、国ごとの特色にも、彼らの性質が色濃く反映されている。
セレノアは、賢者を祖先にもつ国だが、その「賢者らしさ」が何なのかは、正直よく分からない。
それでも、王家の血筋には確かに賢者の血が流れている。
――『秘伝セレノア家系図大全』には、そう記されていた。
父アルヴェルト・フィルドをはじめとした各領主は、王家の分家として、それぞれの土地を任されている。
つまり――
四男である僕にも、薄いながら賢者の血が流れている、ということになる。
「今日も、この本から読むか」
何十回も読み返している本。
その名は――『賢者の書』。
その名の通り、始祖である賢者が記したとされる書物で、この世界の理について書かれている。
もっとも、どこかのゲームのように、読むだけで賢者になれるわけではない。
内容はいたって真面目な、世界の仕組みを解説した書に近い。
だが、それが逆に面白い。
ページをめくる。
そこには、こう記されていた。
⸻
我らは剣と魔法で世界を分けたのではない。
ただ、流れるものの違いに従ったに過ぎぬ。
……とは、流れの中にあり、流れの中に還るもので……
……とは、壊れたものを――
流れを正すことに――
⸻
難解な文章だ。
正直、完全に理解できているとは言いがたい。
それでも、なぜか腑に落ちる。
そして、自分が何かをしなければならないような、不思議な感覚にさせられる。
何度も読み返しているうちに、内容の大半は頭に入っていた。
最近では、お気に入りの一文を書き写して持ち歩くほどだ。
「これで僕も、いつかは賢者に……」
心の中で思うだけなら自由だ。
誰もが憧れる賢者。
だが、そこに至るには日々の鍛錬が欠かせない。
生まれ持った才能やスキルも、きっと重要なのだろう。
「結局、鍛錬しかないんだよね……」
12歳になると、スキル鑑定の儀式が行われる。
生まれた時点でスキルが決まっているのかもしれない。
少しでも良い結果を得たいという思いから、僕は3歳から探検という鍛錬を日々重ねている。
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