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06 違和感の芽

自らの足で歩けるようになって1年ちょっとが経ち、新たな世界における興味関心は尽きることがない。

最近はとにかく、家の中と庭を歩き回っては、一日が終わる毎日を送っている。


最初は領主の息子と言っても全く実感がなかったが、最近はその凄さを実感していた。


まずは家が広すぎる。


部屋の数が多過ぎて、いまだに入ったことのない部屋がいくつもある。

イメージとしては、前世で見たヨーロッパの城に近い。


しかも、敷地内の建物は一つではない。


兵士や使用人の宿舎。畑や馬小屋。鶏、羊、牛といった家畜もいる。


塀の内側だけで、一つの小さな村のようだ。


(東京ドーム何個分なんだ……)


正確に測る手段はないが、相当な広さであることだけは分かる。


だから、退屈する暇なんてない。毎日が、体力との勝負だ。



そんな3歳児の僕は、庭――というより林のような場所で、虫取りや探検をして過ごすことが増えていた。


この世界には、モンスターと呼ばれる危険な生物が存在する。

だが屋敷の塀には特殊な結界が張られており、外敵は侵入できない。


つまり、ここは安全圏だ。


「今日はあの森に行ってみよう」


いつものように、執事のジャンを連れて外へ出る。


ジャンは20歳。この屋敷で最も若い執事だ。


彼の家は代々フィルド家に仕えており、父親は執事長を務めている。

その関係もあり、ジャンは僕の付き人となった。


若さもあってか、僕の相手役としてはちょうどいいらしい。

本人も嫌がる様子はなく、何かと面倒を見てくれている。


「ノア様、今日は何を捕まえますか?」


「昨日より大きいカブトムシかな」


「承知しました。では、参りましょう」


よく考えてみれば、僕の中身は40歳のおっさんだ。


だが、身体が子どもになると、感覚まで引き戻されるのかもしれない。

虫取りを純粋に楽しいと思っている自分がいる。


(そういえば、YouTubeで大人が虫取りする動画の再生数結構伸びてたっけ・・・と遠い記憶)


ちなみに前世では、休日といえばアニメを見て過ごすのが常だった。

それが今では、走り回って虫を追いかけている。


(結局、楽しいものは年齢じゃないってことか)


妙に納得していた。




「この森は大物がいそうな気がするよ、ジャン」


「わかるんですか、ノア様?」


「なんかそんな気がするんだ!」


この世界では、すべての生き物に魔力が宿るとされている。


優れた魔法使いは、その微かな魔力を感じ取り、探索や戦闘に役立てるという。


正直、僕にはまだ“魔力”というものがよく分からない。


だが――


(……なんか、流れみたいなものを感じる気がする)


うまく言葉にはできないが、何かが「そこにある」と分かる感覚。


(もしかして……これ、才能ってやつ?)


少しだけ、期待してしまう自分がいた。


「あの木の根元……いる気がする」


「では、そちらを探ってみましょう」


この国では、十二歳になるとスキル鑑定の儀を受けることができる。

それが、今から待ち遠しくて仕方がない。


ちなみにジャンは、執事でありながら「剣術」のスキルを持っている。

そのため、護衛の役割も兼ねているのだ。


「――やっぱりいた!」


「これは……大きいですね! しかも羽が虹色です!」


「珍しい虫かもしれない。帰ったら調べよう」


「図書室ですね。承知しました」


興奮しながら、カブトムシを虫かごに入れる。


そのとき――


(天の声)「七色オオカブトムシを獲得しました」


(……まただ)


最近、特別なものを手に入れると、どこからともなく声が聞こえる。


ジャンには聞こえないらしい。

つまり、これは僕だけの現象だ。


(転生者だから? それとも……スキル?)


分からない。

だが、この“声”があるおかげで、収集が妙に楽しくなっているのも事実だ。


(もし領主の子じゃなかったら、冒険者になってたかもな……)


そんなことを考える。


「それにしても、ノア様は見つけるのがお上手ですね。大人顔負けですよ」


「うん、好きだからね」



――まだ、このときの僕は知らなかった。


この「違和感」こそが、自分の運命を大きく変える力であることを。


挿絵(By みてみん)

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