06 違和感の芽
自らの足で歩けるようになって1年ちょっとが経ち、新たな世界における興味関心は尽きることがない。
最近はとにかく、家の中と庭を歩き回っては、一日が終わる毎日を送っている。
最初は領主の息子と言っても全く実感がなかったが、最近はその凄さを実感していた。
まずは家が広すぎる。
部屋の数が多過ぎて、いまだに入ったことのない部屋がいくつもある。
イメージとしては、前世で見たヨーロッパの城に近い。
しかも、敷地内の建物は一つではない。
兵士や使用人の宿舎。畑や馬小屋。鶏、羊、牛といった家畜もいる。
塀の内側だけで、一つの小さな村のようだ。
(東京ドーム何個分なんだ……)
正確に測る手段はないが、相当な広さであることだけは分かる。
だから、退屈する暇なんてない。毎日が、体力との勝負だ。
◇
そんな3歳児の僕は、庭――というより林のような場所で、虫取りや探検をして過ごすことが増えていた。
この世界には、モンスターと呼ばれる危険な生物が存在する。
だが屋敷の塀には特殊な結界が張られており、外敵は侵入できない。
つまり、ここは安全圏だ。
「今日はあの森に行ってみよう」
いつものように、執事のジャンを連れて外へ出る。
ジャンは20歳。この屋敷で最も若い執事だ。
彼の家は代々フィルド家に仕えており、父親は執事長を務めている。
その関係もあり、ジャンは僕の付き人となった。
若さもあってか、僕の相手役としてはちょうどいいらしい。
本人も嫌がる様子はなく、何かと面倒を見てくれている。
「ノア様、今日は何を捕まえますか?」
「昨日より大きいカブトムシかな」
「承知しました。では、参りましょう」
よく考えてみれば、僕の中身は40歳のおっさんだ。
だが、身体が子どもになると、感覚まで引き戻されるのかもしれない。
虫取りを純粋に楽しいと思っている自分がいる。
(そういえば、YouTubeで大人が虫取りする動画の再生数結構伸びてたっけ・・・と遠い記憶)
ちなみに前世では、休日といえばアニメを見て過ごすのが常だった。
それが今では、走り回って虫を追いかけている。
(結局、楽しいものは年齢じゃないってことか)
妙に納得していた。
◇
「この森は大物がいそうな気がするよ、ジャン」
「わかるんですか、ノア様?」
「なんかそんな気がするんだ!」
この世界では、すべての生き物に魔力が宿るとされている。
優れた魔法使いは、その微かな魔力を感じ取り、探索や戦闘に役立てるという。
正直、僕にはまだ“魔力”というものがよく分からない。
だが――
(……なんか、流れみたいなものを感じる気がする)
うまく言葉にはできないが、何かが「そこにある」と分かる感覚。
(もしかして……これ、才能ってやつ?)
少しだけ、期待してしまう自分がいた。
「あの木の根元……いる気がする」
「では、そちらを探ってみましょう」
この国では、十二歳になるとスキル鑑定の儀を受けることができる。
それが、今から待ち遠しくて仕方がない。
ちなみにジャンは、執事でありながら「剣術」のスキルを持っている。
そのため、護衛の役割も兼ねているのだ。
「――やっぱりいた!」
「これは……大きいですね! しかも羽が虹色です!」
「珍しい虫かもしれない。帰ったら調べよう」
「図書室ですね。承知しました」
興奮しながら、カブトムシを虫かごに入れる。
そのとき――
(天の声)「七色オオカブトムシを獲得しました」
(……まただ)
最近、特別なものを手に入れると、どこからともなく声が聞こえる。
ジャンには聞こえないらしい。
つまり、これは僕だけの現象だ。
(転生者だから? それとも……スキル?)
分からない。
だが、この“声”があるおかげで、収集が妙に楽しくなっているのも事実だ。
(もし領主の子じゃなかったら、冒険者になってたかもな……)
そんなことを考える。
「それにしても、ノア様は見つけるのがお上手ですね。大人顔負けですよ」
「うん、好きだからね」
◇
――まだ、このときの僕は知らなかった。
この「違和感」こそが、自分の運命を大きく変える力であることを。
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