81 地下の街
「人ではない反応がある、か」
ドラムが坑道の奥を見つめる。
「引き返しますか?」
僕が尋ねると、ゴルドは即答した。
「進む」
「ですよね」
僕は苦笑した。
ガンズはため息を吐く。
「聞くだけ無駄だったな」
「そうかもしれません」
結局、誰も引き返す気はなかった。
◇
たいまつに火を灯す。
坑道の中は想像以上に暗かった。
入口付近はまだ外の光が届く。
だが数十歩も進むと、頼れるのは炎だけになる。
壁は荒々しく削られていた。
自然の洞窟ではない。
誰かが掘った跡だ。
「かなり古いな」
ガンズが壁を撫でる。
「少なくとも数十年では済まん」
「そんなにですか?」
「ああ」
ゴルドも頷いた。
「俺でもいつ頃のものか分からん」
ドワーフがそう言うのだから相当だろう。
◇
しばらく進むと、地面に奇妙なものが見えた。
「これ……」
僕はしゃがみ込む。
二本の金属が平行に伸びている。
錆びているが、形は残っていた。
「レールだな」
ゴルドが答える。
「鉱石を運ぶための台車用だ」
「やっぱり鉱山だったんですね」
「ああ」
ゴルドは嬉しそうだった。
「しかも相当大規模なやつだ」
◇
さらに奥へ進む。
壁には無数の水の跡が残っていた。
「川ですね」
僕は言った。
「長い間、水が流れ込んでいたみたいです」
「だろうな」
ガンズが頷く。
「だから入口も埋まった」
今は違う。
川の流れを変えたことで、水は直接流れ込まなくなった。
だからこうして入れる。
もし数日前だったら、この坑道は永遠に見つからなかったかもしれない。
◇
やがて坑道は大きく開けた。
「うおっ……」
思わず声が漏れる。
巨大な空間だった。
天井は見えない。
たいまつの光では届かないほど高い。
床には古いレール。
朽ちた木材。
崩れた足場。
錆びた工具。
まるで時間だけが止まったような場所だった。
「すごい……」
ミリスも見上げている。
「こんな場所が地下にあるなんて」
「生命反応は?」
ドラムが尋ねる。
「まだ奥です」
僕は答えた。
反応はもっと先。
さらに深い場所にある。
◇
一本道だった。
分岐はない。
ただ闇だけが続いている。
足音だけが響く。
コツ。
コツ。
コツ。
妙に静かだった。
静かすぎる。だからこそ。
少しの音でもよく聞こえる。
◇
その時だった。
「止まれ」
ドラムが低い声を出した。
全員が足を止める。
僕も耳を澄ます。
……ミシ。
かすかな音。
天井の方だった。
「まずい」
ガンズの顔色が変わる。
「崩れるぞ!」
◇
ゴゴゴゴゴゴ!!
轟音が響いた。
天井から岩が落ちてくる。
「伏せろ!」
ドラムが叫ぶ。
巨大な岩塊が降ってくる。
◇
「《アースウォール》!」
ガンズが咄嗟に魔法を発動した。
地面が盛り上がる。
分厚い土壁。
だが。
バキッ!!
岩の重さで亀裂が走る。
「重い!」
ガンズが歯を食いしばった。
◇
「《ウォーターウォール》!」
今度はミリス。
水の壁が展開される。
落下の勢いを弱める。
ドガァァン!!
岩が激突する。
土壁と水壁。
二重の防御。
◇
その隙にドラムが動いた。
「ノア!」
「はい!」
僕は引きずられるように後ろへ下がる。
直後。
ズドォォォン!!
巨大な岩が落下した。
土煙が舞う。
視界が真っ白になる。
◇
静寂。
やがてーー
「全員無事か?」
ドラムが声を上げる。
「大丈夫だ」
「問題ない」
「生きてます」
次々と返事が返る。
◇
土煙が晴れていく。
そして。
最初に気付いたのはミリスだった。
「あれ?」
「どうした?」
「向こう」
指差した先を見る。
◇
そこには光があった。
青白い光。
崩落した岩盤の向こう側から漏れている。
「なんだ……?」
ゴルドが呟く。
僕たちは慎重に近付いた。
そして。
全員が息を呑んだ。
◇
巨大だった。
あまりにも巨大だった。
小さな町なら丸ごと入る。
そんな空間が地下に広がっていた。
天井は遥か上。
岩壁一面に青白い結晶が埋まっている。
それが空間全体を照らしていた。
まるで地下の星空だった。
◇
「これは……」
僕は反射的にスキルを発動する。
「《鉱石解析》」
最も近い青白い結晶を調べる。
ーーーーーーーーーー
名称:魔光石
品質:高
ーーーーーーーーーー
「魔光石です」
「魔光石?」
ミリスが反応した。
「だから光ってるんだ」
◇
僕は周囲の岩壁へ視線を向ける。
「《鉱石解析》」
次々と情報が表示される。
ーーーーーーーーーー
名称:銀鉱石
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
名称:鉄鉱石
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
名称:銅鉱石
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
名称:石灰岩
ーーーーーーーーーー
さらに。
ーーーーーーーーーー
名称:???
解析不能
ーーーーーーーーーー
「すごい……」
思わず呟く。
「地下資源の宝庫だ」
◇
ゴルドは完全に職人の顔になっていた。
「銀だけじゃない」
「鉄も銅もあるのか」
「こんな場所が埋もれていたとはな……」
ガンズも珍しく驚いていた。
「これは鉱山都市が作れる規模だぞ」
◇
だが僕が気になったのは別のものだった。
空間の中央。
そこに建物があった。
石造り。
巨大な柱。
崩れかけたアーチ。
見たことのない紋様。
神殿にも見える。
だが違うようにも見える。
「人工物だな」
ガンズが言う。
「間違いなく」
ゴルドも真剣な顔になる。
◇
僕は目を閉じた。
「《生命反応感知》」
静寂。
そして。
ポツン。
反応。
一つ。
さらに。
ポツン。
ポツン。
ポツン。
増えていく。
◇
「います」
「何がだ?」
ドラムが尋ねる。
「分かりません」
僕は正直に答えた。
「ただ、人ではありません」
空気が変わる。
ドラムの手が自然と剣へ伸びる。
◇
その時だった。
「ねぇ」
ミリスが建物を見つめたまま言う。
「気付かない?」
「何がです?」
「魔力」
◇
僕も意識を集中する。
すると確かに感じる。
建物の奥。
中心部。
そこから大きな魔力が漏れていた。
まるで灯台のように。
静かに。だが確実に。
「大きい……」
ミリスが呟く。
「これ、普通じゃないよ。建物そのものから感じるような……」
◇
僕は建物を見つめた。
銀鉱石。
鉄鉱石。
銅鉱石。
それらも確かに魅力的だ。
だがそれ以上に。
誰が作ったのか。
なぜ地下にあるのか。
そして。
なぜ、建物から魔力を感じるのか。
そちらの方が気になって仕方がなかった。
◇
「ノア」
ケイトが呆れたように言う。
「また変な顔してる」
「え?」
「銀より建物の方が気になってるでしょ」
「うん」
即答だった。
◇
地下鉱山の奥。
そこには銀よりも遥かに大きな謎が眠っていた。
そして、その建物の中には確かに何かがいる。
僕たちは地下の街の入り口に立っている。
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