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72 ドワーフの街づくり

「ノア。こんな具合で良いのか?」


「はい。ばっちりだと思います」


水船の仕組みはシンプルだ。


石でできた大きな四角い水槽が四つ並ぶ。

当初は三つの予定だったが、話し合いの結果、四段階にすることになった。


一つ目は井戸から汲み上げた水をためるための水槽。

二つ目は野菜や果物を洗うための水槽だ。

三つ目は食器や調理器具を洗うための水槽。

そして最後の四つ目は洗濯や掃除などに使うための水槽となる。


水は上流から下流へと順番に流れていき、役目を終えるごとに次の用途へ利用される。

もちろん、水を無駄なく使うことも目的の一つだ。

だが、それだけではない。


住民たちが自然と集まり、会話を交わし、顔を合わせる場所にもなる。

僕は前世の知識から、こうした何気ない交流の場が衛生意識や地域の文化を育てることを知っていた。


「場所はどうする? 井戸の隣か?」


「はい。井戸の隣にお願いします」


僕は頷く。


「井戸から汲み上げた水を、そのまま最初の水槽へ流せるようにしたいんです」


「了解だ」


ガンズは豪快そうに見えて、実はとても几帳面だった。


石材の切り出し。

高低差の調整。

水の流れ。

どれも正確で無駄がない。


職人という言葉がこれほど似合う人物も珍しい。


「こんなもんだな」


ガンズは満足そうに頷いた。


「あとは水路か」


水船から流れ出た水は、水路を通って浄化池へ向かう。

ガンズの土魔法で水路の底を固め、必要な場所には石を敷く。

さらに少し深さを持たせた。


「魚も泳げそうですね」


「せっかくなら生き物も住めた方が面白いだろ」


ガンズは笑った。



「池はどうする?」


「あの池を使いましょう」


僕はニューセリアに元からあった池を指差した。


「すでに植物もありますし、改良しやすいと思います」


そこへフィーネ村から持ち帰ったミズクサを植える。

植物が栄養分を吸収し、その根に住み着く微生物たちが汚れを分解する。


さらに魚や貝も放流する予定だった。


「魚が食べ残しを食べる。貝が水をろ過する。植物が栄養を吸う。微生物が分解する。そして最後にクリアスライムが浄化する」


自然の力を組み合わせた循環だ。


「住民の憩いの場にもなりそうだね」


ミリスが池を見ながら言った。


「だね」


僕も頷く。


「水質も確認しやすいし、子どもたちも遊べると思う」


「うむ。なら水路はこの池へ繋げよう」


ガンズはそう言うと、すぐに作業へ取り掛かった。



こうして生活用水の仕組みが少しずつ形になっていく。


井戸はすでに二本目の掘削も進んでいた。

将来的には、そちらにも同じ水船を設置する予定だ。


「これで安心だね」


「うん!」


リノとマルも嬉しそうだった。


そして僕は別のことを考えていた。


ガンズが作る巨大な石の水槽。

その加工技術。

河原で見つけた白いマーブル。


(これなら作れるかもしれない)


僕の頭の中には、共同浴場の完成図が浮かんでいた。



「さて、次はトイレだな」


ガンズが腕を組む。


「お願いします」


僕は持参したスケッチを広げた。


「今あるトイレはそのまま使います」


「ほう」


「ただし、糞尿をためる部分を改良したいんです」


僕はフィーネ村で見た肥溜めの仕組みを説明した。


排泄物をただ地面へためるのではない。


安全に集める。

発酵させる。

肥料へ変える。


そのための施設だ。


「なるほどな」


ガンズは図面を見ながら頷いた。


「高低差を利用して流すわけか」


「はい」


「あと、回収もしやすくしたいです」


「悪くない」



さらに僕はもう一つ提案した。


「手洗い場も欲しいんです」


「手洗い場?」


ガンズが首を傾げる。


この世界では、まだトイレの後に手を洗う習慣がほとんどない。


「病気の予防になります」


「ふむ」


「じゃあ小さな石桶を作ってやろう」


「本当ですか?」


「余ったグラナイトがあるしな」


「ありがとうございます」


さらに僕は続けた。


「できれば、用を足した後に少量の水で流せるようにもしたいんです」


「面白いな」


ガンズはニヤリと笑った。


「考えてみよう」



翌日。


完成したトイレは以前とは別物になっていた。


個室。

排水機構。

手洗い場。

そして汲み取り設備。


僕は思わず感心する。


(これ、アルセリアの街中のトイレより高性能なんじゃ……)



「あとは肥溜めだな」


ガンズが言う。


「うむ。どうする?」


「フィーネ村と同じ方式でいきたいです」


僕は頷いた。


「落ち葉や藁と混ぜて発酵させます」


「発酵か」


「はい」


「ただ貯めるだけじゃありません」


「病気の原因になる寄生虫を減らせます」


「肥料にもなります」


「そして畑の収穫量も増えます」


ガンズは腕を組んだ。


「なるほど」


「つまり、ゴミ処理施設であり、肥料工場でもあるわけだな」


「そういうことです」



「じゃあ場所は街の風下だな」


ガンズは即答した。


「匂いの問題がある」


「確かに」


「だが畑の近くが良い」


「運搬もしやすいですしね」


二人で地図を広げながら場所を決めていく。


そしてニューセリアの外れ。


将来の農地予定地の近くに、肥溜め建設地が決定した。



「面白くなってきたな」


ガンズが笑う。


「家を建てるだけじゃない」


「街を作ってるんだな」


その言葉に、僕も自然と笑顔になった。


井戸。

水船。

水路。

浄化池。

トイレ。

肥溜め。


少しずつだが、ニューセリアは確実に街へと変わり始めていた。


読んでいただきありがとうございます!

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次回もよろしくお願いします。

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