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71 空飛ぶ運搬屋

アルセリア川の源流で知り合いになった元竜騎士の冒険者リュシアと紅翼竜ラグナは、源流への滞在の後、交易の要所である港町ヴァレストで過ごしていた。


さまざまな海の幸や外国からの貿易品が扱われるその街は、人や物が絶えず行き交う賑やかな場所である。


リュシアたちは、海を眺めながらさまざまな酒を味わうことを楽しみに、この街を訪れていた。


ただ、状況はいつもとは全く違っていた。


海の神様の祟りという話が広がり、多くの酒場は休業をしていた。

原因はさておき、リュシアにとっては想定外の状況であったのだ。


「ラグナ、どうしようか?」


「そんなの知らん。お前が海を見ながら酒が飲みたいと言い出したのだぞ」


「まぁ、そうなんだけどな……」


「それなら、こないだの若造たちの街へ行けば、何か良い酒でも薦めてくれるのではないか?」


「確かに!ラグナたまにはいいこと言うじゃない」


「たまにはとは辛亥な。いつも真っ当なことしか言わん」


「まぁそれはさておき、しょうがないヴァレストのお酒は一旦我慢するか」


「それでどうするんだ?」


「とりあえず連絡してみることにする」



そんな流れで、突然のリュシアからの連絡だった。


「じゃあ、とりあえずもうすぐアルセリア着くので、美味しいお酒があるお店お願いね」


ツーツーツー。


一方的に切れた。

普段はしっかりとTPOを意識した人物であるはずのリュシアは、お酒のこととなるとタガか外れるのが欠点だ。


「よく分からないけど、リュシアさん来るらしい…」


「それってやっぱり竜に乗ってくるわけよね?」


「たぶん」


「まずくない?」


「大騒ぎになりそうな気がする」


ケイトもミリスも、ラグナと戦った経験からその見た目の強烈さを危惧している。


(住民の中には、下手したら失神する人も出るんじゃないか……)


ただ、今、目の前にあるグラナイト鉱石の運搬には最高のタイミングでもあった。


「とりあえずドラムさんへ連絡を入れようか」


「それが良いと思う」


「僕も賛成」


そんなわけで冒険者カードの通信機能で連絡した。



「ドラムさん、ノアです」


「おう。どうした?石材は確保できたか?」


「まぁ、それは見つけたんですが、別の問題がありまして……」


「問題?まぁ大抵のことでは驚かんがな。どうした?」


「実は、竜がアルセリアに向かってるようでして……」


「はっ!!!?」


「で竜がですね…」


「なんでそうなる!どうしてそうなった?」


(驚かないと言ったのに…)


「まぁどうせ、リュシアが酒が飲みたいと騒ぎ出したとかそんな辺りか」


「よく分かりましたね」


(ドラムさん、リュシアさんと親しいのかな)


「今連絡がありまして、こちらに向かってるようです。問題ないでしょうか?」


「もちろん問題はある。だが、どうしようもないだろうな。とりあえず、いきなり街の中はありえないので、この新天地に降りるように伝えてくれ」


「分かりました」


通信越しにドラムが大きなため息をついた。


「あいつ、また酒蔵周りしているのか。変わらねぇなまったく」



大きな風圧と共に、その赤い竜は僕らの前に降りたった。


「竜初めてみたー!!」


「すごー!!」


リノとマルは怖がりもせず、むしろ喜んでいる雰囲気だ。


(子供たちはやっぱり違うのか、それともこの2人だからか)


ただ僕もこの世界では13歳であることを忘れていた。


「リュシアさん、こんなにすぐに会えるとは思わなかったです。それとラグナさんもお世話になっています」


「そうだな。突然押しかけたみたいですまんな」


(自覚あるんですね、リュシアさん)


「おっ、若造たちも元気そうで何よりだ。また一戦でもやるか?」


ラグナは相変わらずのようだ。


「あっ……ええっと……」


「ラグナ!今度こそ、そんなことしたら街が火の海よ」


「すまんすまん。ほんの冗談だ」


「・・・」


ケイトとミリスも苦笑いだった。


(彼らの冗談は冗談になっていない)


「でリュシアさん、お酒飲みたくて立ち寄ったんですか?」


「さすがノア君だな。そうなんだ。どこか良い場所あるか?」


「もちろんです。お店にお連れしますよ。ただ、、、」


「ん?何だね?」


「1つお願いがあるのですが良いですか?」


「もちろんだ。源流での一件もあるしな」


「実はですね、今、街の住民が住める新しい場所を作っておりまして、、、」


「ふむふむ。まさか別の竜が街を燃やしたのか?」


「いやいや!そんなわけがないですよ。そうではなくて、新しい住まいのための材料集めで、ラグナさんにお手伝いいただけないかなと思いまして・・・」


「ん?全然いいんじゃないかな」


「リュシア!なんでお主が決めるんだ!」


「えっ、ダメだったの?」


「いや、ダメじゃないが」


いつもの夫婦漫才風の掛け合いが始まった。


「とにかく、私がアルセリアに滞在している間は、ラグナは好きに使っていいわよ。ねぇラグナ?」


「まぁ、手伝わなくもない」


(いいのだろうか笑)


「では、是非お願いします。ラグナさんよろしくお願いします!」


「うむ。分かった。魔獣でもなんでもやっつけてやるぞ」


「いや、討伐の手伝いではないのですが・・・」


「あっ、そうなのか。まぁ良いだろう」


若干、不安もあるが、手伝ってもらえることになった。

これで、岩を運ぶという課題は解決できる。



「まずはこちらです」


僕はリノとマルが発見したグラナイトを指差した。


「ふむ」


ラグナは一瞥する。


「確かにグラナイトだな」


そして、もう一つの場所へ向かう。


「もう一つは地中です」


「ほう」


ラグナは前足で地面を軽く叩いた。


ドゴォン!!


地面が大きく揺れる。


「きゃっ!」


「うわっ!」


土が崩れ落ち、その下から巨大な岩が顔を出した。


「これか」


「早っ!」


思わず声が出た。


僕たちなら何日もかかる作業だ。

それを一撃で掘り出してしまった。


「竜って便利ね……」


ケイトが呟く。


「便利って言うな」


ラグナが少し不満そうだった。



続いて向かったのは川の中にあるグラナイトだった。


「ミリス、お願い」


「任せて」


ミリスが杖を構える。


次の瞬間。


ザバーーーッ!


川の水が左右へ割れた。


川底が姿を現す。


そこには確かに巨大な岩が埋まっていた。


「おお」


ラグナが少し感心したような声を出す。


そして前足を伸ばす。


ゴリッ。


ミシミシミシ。


川底から岩が引き剥がされる。


そのまま持ち上がった。


「これもか」


運搬という大きな課題はこうして竜の力によって解決した。


僕は改めて思う。


竜という存在は、戦うだけではない。

街づくりにおいても、とてつもない戦力なのだと。



「では運ぶぞ」


ラグナは三つのグラナイトを器用に抱え上げた。


「えっ、一度にですか?」


「当たり前だ」


ラグナは呆れたように言う。


「我を誰だと思っている」


次の瞬間。


バサァァァァッ!!


巨大な翼が広がる。


突風が吹き荒れた。


リノとマルが歓声を上げる。


「すごーー!!」


「飛んだーー!!」


紅翼竜は三つの巨岩を抱えたまま空へ舞い上がった。



僕たちがニューセリアへ戻った頃には、すでにラグナは到着していた。

そして、当然ながら大騒ぎになっていた。


「竜だーー!!」


「逃げろーー!!」


「いや待て、襲ってないぞ!」


「でも竜だぞ!?」


現場は混乱している。


そんな中、一人だけ目を輝かせている男がいた。


ガンズである。


「おいおい……」


彼は空から降ろされたグラナイトを見上げる。


「最高じゃねぇか。運搬の問題が一瞬で解決したぞ」


ドワーフらしい反応だった。



「久しぶりだな」


ドラムが歩いてくる。

リュシアは片手を上げた。


「おう」


「生きてたか」


「お前もな」


二人は軽く笑った。


(やっぱり知り合いだったんだ)

(しかも、かなり昔からの)


僕は納得した。


「相変わらず酒ばかり飲んでいるのか?」


ドラムが言う。


「お前こそ相変わらず真面目だな」


リュシアは肩をすくめた。


「少しは人生を楽しめ」


「お前が楽しみすぎなんだ」


二人のやり取りを見る限り、かなり昔からの仲らしい。



その後、僕は銀鉱石の話をドラムとガンズにした。


「実は川底で銀鉱石も見つかりまして」


「銀だと?」


ガンズの表情が変わる。


ドラムも腕を組んだ。


「規模は分かりませんが、かなり大きな反応でした。地下へも続く大きな反応のようでした」


しばらく沈黙。


「もし本当に銀鉱脈なら……」


「大事件だな」


ドラムが口を開く。


「今の話、スラムの連中にはまだ言うな」


「えっ?」


「期待だけ膨らませるのは良くない」


ドラムらしい判断だった。


「まずは確認だ」


「本当に鉱脈なのか。採掘できるのか。利益になるのか全部調べてからだ」


そしてガンズが口を開いた。


「銀は逃げねぇ」


ドラムも頷く。


「まずは街だな」


「住む場所と水の確保が先だ」


「そうですね」


僕も同意した。


銀鉱石は魅力的だ。

だが、今はニューセリアの方が重要だった。



ガンズは運ばれてきたグラナイトを叩いた。


コン。


澄んだ音が響く。


「上物だな」


そして笑う。


「よし」


ガンズは大きく頷いた。


「今日から加工を始める」


周囲の人々も集まり始めている。


ニューセリア最初の公共設備。

最初のインフラ整備。


「まずは水船だ」


ドラムも頷いた。


「水だな。街づくりはそこから始まる」


僕は巨大なグラナイトを見る。


(いよいよ始まる)


アルセリアの新たな居住地「ニューセリア」。

その未来は、今まさに動き始めていた。

読んでいただきありがとうございます!

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次回もよろしくお願いします。

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