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68 土の魔法と井戸水

昼食を終えた僕たちは、再びニューセリアへ向かっていた。


「結局、ゆっくり休む暇なかったね」


ミリスが苦笑する。


「ノアが何か思いつくと大体こうなるのよ」


ケイトも呆れたように言う。


「いやいや、水は大事だからね」


僕は肩をすくめた。


ルルたちは朝から池の浄化を続けている。

その成果も確認したかった。



「プギュ!」


池へ到着すると、真っ先にルルが飛び跳ねた。


「ぷゅ〜」


ナギは相変わらず池に浮いている。


「……ぷゅ」


コロは静かにこちらを見ていた。


僕はさっそくスキルを発動する。


「《水質解析》」


ーーーーーーーーーー

場所:新天地の池(仮称)


・透明度:B

・魔力含有:D

・微生物:D

・有毒性:D


総合評価:B

ーーーーーーーーーー


「おお」


思わず声が漏れた。


「昨日より良くなってる」


「そんなに違うの?」


ミリスが覗き込む。


「かなり違うよ」


「一晩も経ってないのに?」


「クリアスライム、すごいな……」


そんなことを話していると、


「よう、来たか」


聞き覚えのある声がした。


ドラムだった。


そして、その隣には見慣れない男が立っている。


背はそこまで高くない。

だが横幅が異様だった。

太い腕。

立派な髭。

大きなハンマー。


いかにも職人という雰囲気だ。


「紹介しよう」


ドラムが言った。


「ガンズだ」


男は短く答える。


「ニューセリア建設の責任者をやってもらってる」


「よろしくお願いします」


僕が頭を下げる。


「おう」


返事は一言だけだった。


(無口な人だな……)


「では、俺は仕事にかかるとする」


「よろしく頼む、ガンズ」


ドラムが返事して少しして、ガンズが地面へ手を向ける。


「《アースロード》」


ゴゴゴゴゴ……


地面が盛り上がった。


柔らかかった土が締まり、平らになっていく。


わずか数十秒。


道が一本完成した。


「すごっ!」


ミリスが目を丸くする。


「土魔法ですか?」


「そうだ」


ガンズは頷いた。


「道路づくりくらいなら朝飯前だ」


「さすがガンズだろ?」


ドラムが笑う。


「アルセリアでも指折りの土魔法使いだからな」


(これは頼もしいな……)



「で、次は井戸だな」


ガンズが言った。


「井戸ですか?」


「ああ」


ドラムが頷く。


「ニューセリアで一番重要なのは水だからな」


それは僕も同意だった。


ただそこには問題があった。


「場所が決まらん」


ガンズが腕を組んだ。


地下水脈がどこを流れているかは、運任せの部分が大きい。


「掘るのは簡単だが、外したらやり直しだからな」


(なるほど。前世でも井戸掘りは適当にやるものではなかった)


「候補地は何カ所かあるんだが」


ドラムも困った顔をする。


その時だった。


「……ぷゅ」


コロが動いた。


珍しい。


普段は一番大人しいスライムだ。


コロはゆっくり歩き出す。


そして少し離れた場所で止まった。


ぷにぷに。


地面を叩く。


「ん?」


僕は近寄った。


するとコロの身体が淡く光り始める。


(天の声)


《クリアスライム・コロのユニークスキル《みえざる》が発動しています》


《ビジョン連携を行いますか?》


「えっ?」


思わず声が出た。


「どうした?」


ドラムが尋ねる。


「いや……ちょっと」


僕は意識を集中する。


《ビジョン連携》


次の瞬間だった。


視界が変わる。

コロの視界。


そして――


地面の奥。

遥か地下。


青い流れが見えた。


(ビジョン連携って、こちらから伝えるだけでなく、相手側からも伝えることができるのか……)


その青い流れはーー


一本。


二本。


三本。


まるで地下を流れる巨大な川。


(これが……地下水脈!?)


僕は息を呑む。


「見える……」


「何が見えるんだ?」


ガンズが聞く。


僕は街から続く流れではなく、街の外から続く太い流れの真上を指差した。


「ここです」


「本当か?」


「はい」


僕は断言した。


「あります」


「よし」


ガンズが前へ出る。


「外れたらエール1杯だな」


「もちろんです」


僕は答えた。


ガンズが少しだけ口元を緩める。


「気に入った」


そして地面へ手をついた。


「《アースボア》」


ゴゴゴゴゴ!!


土が螺旋状に掘り進められていく。


五メートル。


十メートル。


さらに深く。


そして――


ドバァァァァァ!!


水が噴き上がった。


「出たー!!」


ミリスが叫ぶ。


「本当に出た!」


ケイトも驚いている。


僕はとっさにスキルを使う。


「《水質解析》」


ーーーーーーーーーー

場所:新天地の井戸①


・透明度:A

・魔力含有:C

・微生物:D

・有毒性:D


総合評価:A

ーーーーーーーーーー


「うん、大丈夫」


(街を通る水脈にしなくて正解だったな)


水質も予想以上に良いことが分かった。


ガンズは井戸を見つめていた。

やがて小さく頷く。


「坊主」


「はい?」


「面白いな」


どうやら認めてもらえたらしい。


(天の声)

《連携スキル《水脈探査》を取得しました》



井戸の完成を確認した後、僕たちはその場へ集まった。


「さて」


ドラムが言う。


「水は確保した」


「次はどうする?」


僕は地面へしゃがみ込み、小枝を拾った。

そして図を書き始める。


「まず、この井戸があります」


一本線を引く。


「ここから飲み水を確保します」


さらに線を伸ばす。


「その近くに木製の水船を作ります――」


「みずぶね?」


リノとマルは僕の顔を見ている。


「三段構造の水をためておく大きな桶のようなもの。

上段で野菜を洗い、中段で食器を洗う。下段で洗濯ができる想定です」


「なるほど水の再利用か!」


ガンズは頷いている。


「それいいね」


ミリスやケイトも頷いている。


「ちなみに木で作らないといけないのか?」


ガンズが質問した。


「腐るぞ」


「あっ……確かに」


(言われてみればそうだ。ずっと水を入れておくとなるとそうか……)


ガンズは地面へ新しい図を書く。


「石で作るのはどうだ?」


「石ですか?」


「俺の魔法で削り出す」


(なるほど……前世の常識に引っ張られた)


この世界には魔法がある。

石を削り出すのも、できることを知った。


「それ採用です」


僕は即答した。


ガンズは満足そうに髭を撫でる。



僕はさらに図を描き足す。


石の水船。

水路。

浄化池。

川。


「使った水はすぐには捨てません」


ふむふむ。皆が聞いている。


「水路を通して浄化池へ流します」


「浄化池って、フィーネ村で見たやつよね?」


ケイトが言った。


「そう」


僕は頷く。


「あの植物が生えてた池だよ」


「ああ、お風呂の排水が流れてた場所!」


ミリスも思い出したようだった。


「ミズクサを植えます。根に住む微生物が汚れを分解してくれるんです」


「なるほどな」


ドラムが感心したように言う。


「そして最後は川へ戻すのか」


「はい」


僕は頷く。


「浄化池については普段は植物と微生物」


「月に一度くらいはルルたちにも手伝ってもらいます」


「プギュ!」


「ぷゅ〜」


「……ぷゅ」


三匹が返事をした。


「クリアスライムの定期検査です」



そして僕はさらに図を書き足した。


「あと、もう一つ」


「まだあるの?」


ミリスが驚く。


僕は頷いた。


「トイレです」


リノとマルが首を傾げる。


「トイレ?」


「排泄物を集めて発酵させるんです」


「発酵?」


今度はマルが聞き返した。


「フィーネ村で見たやつね」


ケイトが説明する。


「糞や尿を落ち葉や藁と混ぜるんだっけ?」


「うん。そうすると肥料になるんだよ」


ミリスも続けた。


「しかも寄生虫もいなくなるんだったね」


「そうなのか……」


ガンズが感心した声を出す。


「そんなことできるんだ」


「うん」


僕は頷いた。


「作物もよく育つ。フィーネ村では三倍くらい違うって言ってた」


「三倍!?」


ドラムも驚いた。



井戸。

生活。

浄化池。

川。


そこに加えてーー


トイレ。

肥溜め。

畑。

食料。


二つの循環ができあがる。

全員が地面の図を見つめていた。



「なるほどな」


ドラムが呟く。


「水も循環する。土も循環する。街そのものが循環するわけか」


「はい」


僕は頷いた。


「クリアスライムだけじゃありません。

人の知恵もありますし、自然の力もあります」


みんなを見る。


「全部、組み合わせなんです」


読んでいただきありがとうございます!

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次回もよろしくお願いします。

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