64 風呂屋スキルと山神の湯
ピョン、ピョン、ピョン――。
クリアスライムのルルは、僕たちの少し前を楽しそうに跳ねながら進んでいた。
まるで「こっちだよ!」と言っているみたいだ。
一方で、ナギはというと――。
「ぷゅ〜……」
僕の頭の上で気持ち良さそうに昼寝をしている。
(ちょっと首が重い……)
そして三匹目のコロは、少し離れた後ろから様子をうかがうようについて来ていた。
「なんか、三者三様で面白いわね」
ケイトが笑う。
「うん、かわいい」
ミリスもすっかり気に入ったようだ。
ドルガ村への帰り道は驚くほど平和だった。
モンスターの反応もない。
鳥の声も少しずつ戻ってきている。
(これもプラムやクリアスライムたちのおかげなんだろうな)
そんなことを考えながら、僕たちは村へ戻った。
◇
「おっ、お兄ちゃんたち!」
村へ入るなり、野菜を運んでいたおじさんが声をかけてきた。
「クリアスライム連れとるんか!?」
「あっ、はい」
「いやー、よかったよかった!」
おじさんは満面の笑みだ。
「しばらく姿を見んかったからなぁ」
「そんなに有名なんですか?」
「そりゃそうさ」
おじさんは当然という顔をした。
「クリアスライムがおらんと、この村は困るんや」
「困る?」
「温泉が休業しとるからな」
「えっ?」
僕たちは顔を見合わせた。
「温泉あるんですか?」
「もちろんさ!」
おじさんは笑う。
「ドルガ村は温泉でも有名なんやで」
「知らなかった……」
「村の一番下じゃ。川の近くにある」
そして少し真面目な顔になる。
「実はな、スライムたちがおらんようになってから池が濁り始めてな」
「池が?」
「温泉の排水を流す池や」
「魚も減ったし、水草も弱っとる」
僕は思わず頷いた。
(やっぱり浄化能力が関係している)
「ありがとう!行ってみます!」
◇
「温泉?」
ケイトが首を傾げる。
「何それ?」
「普通のお風呂と違うの?」
ミリスも興味津々だった。
「温泉はね、地面の奥から湧いてくる特別なお湯なんだ」
「へぇ」
「身体に良い成分がたくさん溶けているんだよ」
「じゃあ行く!」
ミリスが即答した。
「私も」
ケイトも乗り気だ。
ルルたちも何故かぴょんぴょん跳ねている。
◇
しばらく歩くと、それは現れた。
「わぁ……」
思わず声が漏れる。
大きな木造建築。
風格のある門。
川を見下ろす立地。
暖簾をくぐると庭園が広がっていた。
山野草。
小川。
石畳。
そして水車。
どこか神社にも似た神聖な空気が漂っている。
「なんか落ち着くね」
「うん」
僕たちは建物へ入った。
そして――。
「「わぁー!」」
ケイトとミリスが同時に声を上げる。
建物の中なのに、一面の渓流が見える。
大きな窓。
新緑。
川のせせらぎ。
山風。
まるで自然の中にいるようだった。
◇
受付にいた女性へ声をかける。
「あの、入れますか?」
女性は申し訳なさそうに笑った。
「ごめんなさいねぇ。実は今お休み中なの」
「えっ?」
「浄化池のクリアスライムちゃんたちがいなくなっちゃって」
そしてーー
ルルたちを見る。
「……あれ?その子たち、クリアスライムじゃない?」
「あっ、はい」
「ルルとナギとコロです」
女性の表情が明るくなった。
「お願いがあるんだけど……」
◇
温泉施設の仕組みは面白かった。
源泉。
↓
人間用の湯船。
↓
排水。
↓
浄化池。
↓
川。
という流れになっている。
「温泉のお湯をそのまま川へ流すとね」
女性が説明する。
「川の生き物や植物が少しずつ弱っていくの」
「でもスライムちゃんたちがいると違うのよ」
「池で遊んでるだけなのに、お湯が綺麗になってね……」
「なるほど……」
僕は感心した。
(この仕組み、そのままアルセリアで使えるじゃないか)
◇
「プギューーー!!」
ルルが真っ先に温泉で満たされた池に飛び込んだ。
バシャバシャ暴れている。
「ぷゅ〜……」
ナギはすでに浮いて寝ていた。
流されている。
「……ぷゅ」
コロは静かに池へ入り、黙々と浄化している。
性格がよく出ていた。
「面白いなぁ」
◇
僕も温泉へ浸かる。
「あぁぁ……」
思わず声が漏れた。
疲れが溶けていく。
気持ちいい。
その時。ふと気になった。
「臨床検査」
お湯の中に微細な魔力が見える。
それが皮膚から身体へ取り込まれていく。
(そういうことか)
温泉とは。
魔力を含んだ特殊な水なのだ。
その瞬間――。
(天の声)
《スキル《水質解析》を取得しました》
《スキル《温泉認定》を取得しました》
《スキル《温泉処方》を取得しました》
「えっ!?」
僕は思わず、温泉から飛び出た。
◇
「スキルツリー!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユニークスキルツリー
原理理解ー✔︎原理の理解向上(生活)
| ー✔︎小規模感染症の極意
|
体質ー✔︎学び体質
|
✔︎臨床検査ーStage1観測系ーーStage2介入系ーxxxーxxx
| ー✔︎弱点視認 ー✔︎循環遮断
| ー✔︎生命反応感知 ー✔︎循環遮断改
| ー✔︎寄生異物検査 ー✔︎ビジョン連携
| ー✔︎微生物検査
| ー✔︎エリア臨床検査
| ー✔︎水質解析(新)
|
植物検査ー✔︎薬草ポテンシャル検査ー✔︎薬草の極意1
|
生活検査ー✔︎料理の検査
連携スキル
✔︎寄生虫症治療の極意
✔︎槍弓の連環
職業スキル(1)
◆武闘家ーxxx
◆風呂屋ー✔︎灰汁石鹸づくり、✔︎温泉認定(新)、✔︎温泉処方(新)
ノーマルスキル(1)
✔︎虫取り名人
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今、取得した新しいスキルを確認する。
《水質解析》
水に含まれる成分と魔力を解析できる。
《温泉認定》
温泉を認定し、名称を与えられる。
《温泉処方》
対象者に最適な温泉を提案できる。
なお提案された者は、温泉を見たら入りたくて仕方なくなる。
「最後の一文だけ怖いな……」
思わず呟いた。
◇
そして僕は試しに発動した。
「《温泉認定》」
(天の声)
「認定可能な温泉を確認しました」
「名称を設定してください」
「えっ、本当に?」
僕は少し考える。
目の前には山。川。
そして温泉。
(あっ、プラム……)
「じゃあ――」
『山神の湯』
(天の声)
「温泉《山神の湯》を認定しました」
その瞬間。温泉全体が淡く光った気がした。
「認定された……」
僕は思わず笑う。
(これは使える)
風呂屋計画。
温泉事業。
観光。
全部繋がる。
◇
下の池を覗くと、ルルたちは相変わらずだった。
「プギュ!」
「ぷゅ〜」
「……ぷゅ」
《臨床検査》を発動する。
すると、お湯の中にあった魔力が少しずつ減っているのがわかった。
そして。
その魔力はクリアスライムたちの身体へ取り込まれていた。
(やっぱり……)
(浄化とは魔力を吸収して整える技なんだ)
プラムがラグナを浄化した時と同じ現象だった。
僕は静かに頷いた。
(この旅で、また一つ世界の仕組みが分かった気がする)
◇
僕は庭で涼んでいると、しばらくして。
「お待たせー」
ケイトとミリスがやって来た。
二人ともすっきりした顔をしている。
「気持ちよかったー!」
「うん」
僕は笑った。
「じゃあ宿へ戻ろうか」
夕暮れの風が心地良い。
クリアスライムたちも後ろをついてくる。
今日も色々あった。
でも。
アルセリアへ戻ったら、もっと忙しくなりそうだ。
そんな予感がしていた。
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