61 竜と剣士とクリアスライム
「ラグナ。あなた、療養に来ていたんじゃなかったの? なんでボスみたいな顔して戦ってるのよ!」
リュシアが額を押さえる。
「いや……これは、その……」
ラグナが目を逸らした。
「ノリで」
「ノリで!?」
リュシアの声が滝に響く。
「ノリで森が燃えたり、街が消し飛んだらどうするのよ!」
「いや、そこまではやらんぞ」
「やるかやらないかじゃないの!」
「すっ、すまん……」
(謝った……)
僕は思わず目を見開いた。
あの圧倒的な赤竜が。
さっきまで僕たちを追い詰めていた存在が。
まるで怒られた子どものように縮こまっている。
「ごめんな、君たち」
リュシアがこちらを向いた。
「うちのラグナが迷惑をかけた」
「うちの……?」
「ラグナって飼われてるの?」
ミリスがぽつりと呟く。
「誰が飼われている!」
ラグナが反応した。
「相棒だ!」
「そこは否定するのね」
ケイトが呆れたように言う。
◇
改めて自己紹介が始まった。
「私はリュシア・アークライト」
胸に手を当てる。
「ドラクス出身だ。昔は竜騎士をやっていた」
「竜騎士……」
聞いたことがある。
竜と共に戦う特別な騎士。
伝説や物語の中の存在だ。
「今は引退して、ラグナと一緒に旅をしている」
「旅?」
「そう。気ままな放浪だ」
ラグナが鼻を鳴らす。
「我はラグナ」
翼を少し広げた。
「見ての通り紅翼竜だ」
「いや、見ての通りではあるけど……」
「年齢は五百歳くらいだった気がする」
「気がする?」
「細かいことは忘れた」
「忘れるんだ……」
僕たちは完全に呆気に取られていた。
◇
その後も二人の会話は続いた。
「で、ラグナ」
「うむ」
「終わったの?」
「いや、途中だ」
「戦闘じゃなくて療養の方!」
「そっちか」
「そっちよ!」
「我はてっきり、戦いの続きかと」
「だから戦うなって言ってるの!」
ラグナは少ししょんぼりした。
だがよく見ると、全然反省していない顔だった。
(この竜、絶対またやるな)
僕は確信した。
◇
その時だった。
ピョコン。
透明な何かが滝壺から飛び出した。
ピョコン。
ピョコン。
ピョコン。
次々と現れる。
透明で。
丸くて。
少しだけ光っている。
「クリアスライム!」
僕は思わず叫んだ。
「うわぁ……」
ミリスが目を輝かせる。
「こんな数初めて見た」
ケイトも驚いている。
気付けば数10匹。
いや、100匹近くいる。
滝壺全体がクリアスライムで埋まり始めていた。
「ほら」
リュシアがラグナを睨む。
「出てきちゃったじゃない」
「ほんとだな」
「ほんとだな、じゃないわよ」
◇
その時だった。
ザバァァァァン!!
滝壺が大きく揺れた。
空気が変わる。
クリアスライムたちが一斉に道を開く。
そして現れた巨大なクリアスライム。
ラグナと同じくらい大きい。
けれど恐ろしさはない。
むしろ神聖だった。
柔らかな光をまと、静かに水面へ浮かんでいる。
「プラムまで出てきちゃったわよ……」
リュシアが苦笑する。
「プラム?」
僕が聞き返す。
「ああ」
リュシアが頷いた。
「クリアスライムの長だ」
「この源流の主でもある」
巨大なスライムは静かにこちらを見つめていた。
その瞳は不思議と温かく、まるで全てを見透かしているようだった。
そしてーー
「ようやく静かになったのぉ」
「「「えっ、喋るの!?」」」
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