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56 水魔法と剣弓と臨床検査

農村フィーネから山村ドルガまでの道のりは、アルセリア川沿いを進むことになる。


フィーネを越えると、風景は一気に山と森へ変わった。


川幅はさらに細くなり、水の流れも速い。

左右には深い森が広がり、ところどころ崖のような斜面も見える。


空気もひんやりとしていた。


「道、だいぶ荒れてきたね」


ケイトが周囲を見回しながら言った。


「道幅も細くなってきたし、並んで歩くのは難しそうかな」


「どうだろうね」


ミリスも少し警戒している。


フィーネ周辺の穏やかな空気とは違う。

ここから先は、モンスターが出てもおかしくない雰囲気だった。


(……一度、《生命反応感知》を使ってみるか)


僕は小さく息を吐き、スキルを発動した。


「生命反応感知」


ポワン――。


目の前に半透明の簡易マップが広がる。

周囲の生命反応が白い光として表示されていく。


小動物。

鳥。

虫。


そして――


(いた)


少し離れた森の中に、大きな反応が三つ。

しかも、こちらへ近づいてきている。


「ケイト、一度止まって」


「ん? どうしたの?」


「モンスターがいる。3匹。多分、フォレストウルフかな」


「えっ、なんで分かるの?」


「生命反応の大きさと動き方かな。犬系っぽい」


「いや、それ分かる時点でおかしいからね?」


ケイトが呆れたように言う。

ミリスも苦笑していた。


(あっ、そうか)


僕は二人の方へ振り返った。


そういえば、改めて自分のスキルについて詳しく話したことがなかった。


レムナ村で一緒に戦った時は、状況が状況だった。

細かい説明をする余裕なんてなかったのだ。


「ごめん。ちゃんと説明してなかった」


僕は簡単に説明する。


《生命反応感知》で周囲の生物反応を把握できること。

《臨床検査》で魔力の流れを見られること。

《循環遮断》で魔力へ干渉できること。


話を聞き終えたケイトは、完全に引いていた。


「んっと……つまり、ノアって戦闘中に敵の内部見えてるの?」


「まあ、そんな感じ……かな?」


「それ、普通じゃないからね?」


「僕も聞いたことないよ。普通、魔力って感覚でしか分からないから」


ミリスも真面目な顔で頷く。


(そうなんだ……)


この世界では、魔力を見るという感覚そのものが珍しいのかもしれない。


「とにかく実戦で見てもらった方が早いかな」


ケイトが弓を構える。


「連携は戦いながら合わせましょう!」


「だね!」


ミリスも杖を握り直した。


「来るよ!!」


その直後だった。


ガサッ!!


森の茂みをかき分けるように、3匹の狼型モンスターが飛び出してきた。


灰色の毛並み。

鋭い牙。

赤い目。


「フォレストウルフ!」


先頭の一匹は真正面。


残り二匹は左右へ広がるように動く。


(囲む気か!)


「左はミリス側!右にも一匹回る!」


僕は即座に叫んだ。


「了解!」


ケイトが反応する。


ヒュン!!


放たれた矢が、真正面のフォレストウルフの肩へ突き刺さった。


ギャウッ!?


だが、止まらない。


「ミリス!」


「うん!」


ミリスが杖を前へ突き出した。


「ウォーターボール!」


ブオン――。


空中に巨大な水球が出現する。


高速回転する水球は、そのまま真正面のフォレストウルフへ直撃した。


ドゴォッ!!


先頭の一匹が吹き飛ばされ、後方の木へぶつかった。


「今!」


「ウォーターアロー!」


空中に三本の水の矢が生成される。


ズドッ!!

ズドドッ!!


次は左へ回り込もうとしていたフォレストウルフの肩と脚へ突き刺さった。


(すごい……)


僕は思わず見入ってしまった。


水魔法というから、もっと補助寄りだと思っていた。


だが違う。


ミリスは、水そのものを武器として扱っている。


「ノア!」


ケイトの声。


右側のフォレストウルフが、すでに僕の目の前まで迫っていた。


「っ!」


反射的に《臨床検査》を重ねる。


その瞬間――


フォレストウルフの身体を巡る青白い魔力の流れが浮かび上がった。


全身を循環する流れ。

筋肉の動きに合わせて、魔力も収縮している。


(これが……生き物の循環)


そして、その中に一箇所だけ、小さな滞りも見えた。


(首元か……!)


「循環遮断!」


だが、動きが速く完全な《循環遮断》は難しい。


なら――


「循環遮断改!」


ピシッ!!


首元の流れへ干渉する。


すると、青白い魔力の流れに、小さな歪みが生まれた。


さらに――


ピシッ!!


右前脚。


ピシッ!!


腹部。


フォレストウルフの魔力の流れに複数の歪みができ、身体の動きが乱れ体勢を崩した。


(いける!)


「完全に止められなくても、流れを乱せる! ケイト! 右前脚と首元に滞り!」


「了解!」


ケイトは弓を背へ回し、今度は腰の剣を抜いた。


(剣も使えるのか!?)


ケイトはそのまま一気に踏み込む。


ザシュッ!!


まずは右前脚。


すると、青白い魔力の流れが大きく乱れ、フォレストウルフの速度が落ちた。


「次、首!」


ズバァッ!!


首元の滞りを正確に斬り裂く。


ギャウッ!?


フォレストウルフの身体が大きく揺らいで倒れた。


(クリティカルだ!)


滞りを攻撃された部分だけ、明らかに魔力の循環が崩れている。


「ミリス!」


「ウォーターランス!」


ゴォォォッ!!


槍のように圧縮された水流。


一直線に放たれた水の槍が、倒れたフォレストウルフを後追いした。


一匹目が絶命する。


(今の連携……)


僕は少し興奮していた。


僕が滞りを作る。

ケイトがそこを崩す。

ミリスが高火力で仕留める。


役割が噛み合っている。


「後ろ!」


今度は吹き飛ばされていた一匹と左に回っていた個体が同時に突進してきた。


一匹はミリス狙い。


もう一匹は、ケイトへ飛びかかる。


(速い……!)


僕は再び《臨床検査》を使う。


青白い魔力の流れ。

左の個体は腹部。右は左肩。


しかも――


(左の方、脚の流れが強い。跳ぶ気だ!)


「ミリス! 左のやつ、腹と後ろ脚!そして飛ぶよ」


「了解!」


ミリスが横へ回避しながら、水の矢を放つ。


「ウォーターアロー!」


ズドッ!!


腹部の滞りへ命中。


さらに――


ズドッ!!


後ろ脚にも刺さる。


すると、フォレストウルフの跳躍が明らかに鈍った。


「ケイト! 右のやつ、左肩!」


「任せて!」


ケイトが低く踏み込む。


ズバァッ!!


左肩を斬り抜く。


すると、青白い魔力の流れが崩れ、フォレストウルフの前脚が沈み込んだ。


(今だ!)


「首元にも追加!」


「了解!」


ケイトは止まらない。


流れるように剣筋を変え――


ズバァッ!!


首元の滞りを斬り裂く。


ギャウッ!?


フォレストウルフが怯んだ。


そこへ――


「ウォーターランス!」


ミリスの水槍が直撃する。


ドォォン!!


二匹目が吹き飛んだ。


残る最後の一匹。


だが、その動きも、僕には見えていた。


青白い魔力の流れ。

筋肉の収縮。

重心移動。


(次、右へ逃げる!)


「ケイト、右へ逃げる!」


「了解!」


ヒュン!!


今度は剣ではなく弓。


放たれた矢が、逃走方向へ先回りする。


ギャウッ!?


驚いたフォレストウルフが一瞬止まった。


(そこ!)


「循環遮断改!」


ピシッピシッ!!


右後ろ脚ほか複数の滞りを追加。


フォレストウルフの体勢が崩れる。


「ミリス!」


「ウォーターアロー!」


ズドッ!!

ズドッ!!


水の矢が脚と腹部へ命中。


完全に動きが止まった。


「ケイト、首!」


「了解!」


最後は一直線だった。


ズバァッ!!


首元の滞りを斬り裂く。


フォレストウルフは、そのまま地面へ崩れ落ちた。


静寂。


森に風の音だけが残る。


「……なんか、すごい連携だったね」


ミリスがぽつりと呟いた。


ケイトも剣を納めながら頷く。


「正直、ノアの指示めちゃくちゃ分かりやすい」


「えっ、そう?」


「うん。どこ狙えばいいか明確だもん」


「しかも、攻撃した瞬間に敵の動き変わるしね」


二人とも、かなり戦いやすそうだった。


(これが……僕の役割なのかもしれない)


今までは、一人で何とかしようとしていた。


でも違う。


見つける。

分析する。

共有する。

弱点を作る。


そして、仲間がそこを撃ち抜く。


それは、今まで経験したことのない戦い方だった。


(もしかして……)


(僕のスキルって、本当はパーティ向けなのか?)


そんなことを考えながら、僕たちはフォレストウルフから素材を回収する。


「それにしても、ノア便利」


「便利って言い方ひどくない?」


ハハハハハ!


クスクスクス……。

読んでいただきありがとうございます!

面白かったらブックマーク・評価いただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。

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