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54 頭に中の寄生虫と新たな可能性

「はい、こちらが報酬の30万ゼニーです。支部長へはこちらから報告しておきます」


「ありがとうございます」


「あと、ノアさんへは指名依頼が出ていますので、お受けいただく形でよろしいですよね?」


「ちなみにそれ、断れないやつですよね?」


「まぁ、そうなりますね」


(ですよね……)


僕とレインは受付で、スラムでの指名依頼完了を報告した。

そして僕は、明日から始まる源流へ向かう依頼を受諾した。


(なるほど、こういう内容なわけね)


ーーーーーー

依頼名:クリアスライムの確保

達成目標:クリアスライムを捕獲し、アルセリア冒険者協会支部まで連れ帰る

達成ボーナス:支部長からの信頼度が上がる、一匹あたり10万ゼニー、魔物の首輪×10

内容:アルセリア川の源流域には、古くから《クリアスライム》と呼ばれる希少なスライムが生息している。クリアスライムは周囲の穢れや汚染を浄化する性質を持ち、水質改善や衛生環境維持に役立つ可能性があると考えられている。特に近年、南区およびスラム地区における衛生問題が深刻化していることから、本個体群の確保と活用を目的として依頼を発令する。なお、クリアスライムは通常のスライムよりも警戒心が強く、環境変化に敏感であるため、捕獲後は速やかに保護・輸送すること。魔物使い以外の冒険者は、支給される《魔物の首輪》を用いた使役を推奨する。可能な限り多くの個体の確保を望む。アルセリア冒険者協会支部

ーーーーーー


「あっ、ちなみに魔物の首輪って、どうやって使うんですか?」


「すみません。私たち受付では詳しく分からないので、他の冒険者の方に聞いていただけますか?」


(依頼に含まれている道具なのに、“分からない”でもOKなわけね……)


「レインさん、使い方は分かります?」


「もちろんだ」


レインは、首輪に付いた緑色の宝石を指さした。


「この宝石に触れながら『キャプチャー』と唱える。すると宝石が白く変わり、捕獲準備が整う。その後は、モンスターへ向けて首輪を投げるだけだ」


「そうすると、どうなるんですか?」


「首輪が巨大化して、モンスターを縛り付ける」


(なんか、完全に某モンスター捕獲ゲームなんだけど……)


「ちなみに、何でも捕まえられるわけではないですよね?」


「そうだな。敵意むき出しのモンスターには難しい。ある程度落ち着いていて、こちらに敵意を持っていない状態だと成功しやすいと聞いている」


(それは、まさしくモ◯スターボールというやつでは?)


「なるほど、分かりました。その手のゲームなら僕の世代なので、問題なさそうです」


「ゲーム? 世代? よく分からないが、できそうなら何よりだ」


(あっ、つい前世感覚が……)



「ちなみにレインさん。スラムの寄生虫対応も一段落しましたし、源流へ同行できたりしませんか?」


僕は、あわよくばという気持ちで尋ねた。


だが、レインは苦笑する。


「残念だが難しいだろうな」


「やっぱりですか……」


「私の付与魔法は、建築作業でも重宝される。職人や作業員の能力向上に使われていてな。今後は住民移動や整備も始まるだろうし、支部長もおそらく私を街へ残すつもりだ」


「なるほど……」


(めちゃくちゃ社会インフラ系人材だった)


「ノア!」


酒場スペースからケイトが手を振っていた。


「こっちこっち!」


「あっ、はい!」


僕はレインへ頭を下げる。


「レインさん、二日間ありがとうございました。また戻ったらよろしくお願いします」


「ああ。またな」



「お疲れ様です。お待たせしました」


「全然大丈夫よ」


ケイトが笑う。


テーブルには、ザック、ケイト、ミリスの三人が座っていた。


「スラムの依頼、一旦終わったの?」


「うん。で、その流れで明日から源流へ行く依頼になってしまって……」


「なるほどな」


ザックがエールを置いた。


「それで、俺たちに声を掛けたってわけか」


「はい。一緒に来てもらえると助かります」


「ノア、敬語」


ミリスがぽつりと呟く。


その瞬間、ザックの眉がピクッと動いた。


「あっ、ごめんごめん。なかなか抜けなくてさ」


「ザックもいいよね?」


ケイトが確認する。


「ああ……まぁ、別に問題ない」


(あれ? なんか反応悪い……?)


「じゃあノア、詳しく聞かせて」


「うん」


僕は、今回の依頼の経緯と、源流まで一週間ほどの長旅になる可能性を説明した。


「――というわけなんだ。一緒に来てもらえる?」


「もちろん!」


「僕も大丈夫」


(そういえばミリスって僕っ子なんだった)


そして、残る一人。

ザックは、少しだけ視線を落とした。


「……俺は、難しいかもしれない」


「えっ!?」


ケイトとミリスが同時に声を上げる。


「ザック、予定あったの?」


「ああ……実は少し状況が変わってな」


ザックはボソリ言った。


「息子の体調が悪いんだ」


「えっ……」


「熱と頭痛があってな。あまり飯も食えてない。原因もよく分からん」


「それって、かなり大変じゃない……?」


「まぁな」


ザックは頭をかいた。


「ずっと家にいても、俺にできることは限られるから、ある程度は妻に任せてる」


「そうは言っても……」


「ザック、おうちにいた方がいいと思う」


ミリスが珍しく真面目な顔で言った。


「ありがとな、ミリス。でも、ノアからの頼みだって聞いたからな。まずは話くらい聞こうと思ってた」


(ザック……やっぱりいい奴だな……少しでも変なこと考えてごめん)


その時だった。


「ノア」


ケイトがこちらを見た。


「あなた、スラムで寄生虫を見つけて治療してたんでしょ?」


「う、うん」


「だったら、一回ザックの子を見てあげたら?」


「……!」


確かに。


「ザックさん。もしよければ、僕のスキルで一度見てみましょうか?」


ミリスもうんうんと頷く。


「……そうだな」


ザックはゆっくり頷いた。


「頼めるか?」


「もちろんです。今から行きましょう」



「ここだ。入ってくれ」


ザックの家は、南区にある木造住宅だった。

家族4人で住むのにはちょうど良いサイズと言っていい。

ただ、やはり気になる立地だ。


「「お邪魔します」」


ケイトとミリスは居間で待機。

僕だけがザックに案内され、奥の部屋へ向かった。


そこには、小さな男の子が横になっていた。


「息子のテオだ」


ザックが静かに言う。


「数日前からこの調子でな。薬草も試したし、治癒師にも相談したが、なかなか良くならない」


「分かりました。まずはスキルを試します」


(やっぱりザックにはタメ口慣れないな……)


「《臨床検査》!」


五、六歳ほどの小さな身体。

その内部の魔力の流れが可視化される。


生命力ゲージは――赤。

そして、予想通りの滞り。

場所は腹部。

そして――頭部。


「そうですね……かなり生命力が落ちています」


僕は慎重に言葉を選ぶ。


「頭のあたりの流れもあやしいです。続けて別のスキルを試します」


「頼む」


「《寄生異物検査》!」


――いた。


腹部。

そして頭部。


(……頭の中だ)


お腹の寄生虫なら、もう何十件も処理してきた。

だが、頭の寄生は初ケースだった。


「ザック」


「……」


「寄生虫がいます。そして問題は、その一部が頭にいることです」


「……っ」


ザックの顔が強張る。


「今まで対応したのは腹部ばかりでした。でも、今回は頭です」


「どうすればいい?」


「取り出すことは難しいのですが、寄生虫を殺すことはできます。今すぐ、フェルミナさんとレインさんを呼んで対処しましょう」


僕はすぐに冒険者カードを取り出した。


「おっおう、そうだな。わかった」


(この世界で頭の中の寄生虫を取り出すような技術的な方法はない。あるいはそういった魔法はあるかもしれないが、今この場にはない)



二人は、すぐに駆けつけてくれた。


「ノア君、状態は?」


「赤ゲージです。頭の中で寄生虫が動いています」


「分かった。まずは私の付与魔法だな」


「はい、お願いします」


レインが頷く。


僕は、《臨床検査》で頭部の魔力の流れを注視する。

レインの魔力が、テオ君の身体へ流れ込んでいく。


(もっと上……)


(頭部の流れへ……)


(そこの寄生虫の流れが減弱すれば……)


その時だった。


「ん?」


レインは違和感を覚えて付与魔法を止めた。


「どうしたの?」


フェルミナが尋ねる。


「いや……今、テオくんの頭の中の寄生虫が見えた気がして……」


(ん……?)


「レインさん、まだ付与魔法は効いてません。もう一度お願いできますか?」


「ああ、もちろんだ」


再び魔力が流れる。


そして次の瞬間――


「……なんだこれは」


レインが目を見開いた。


僕は、レインの魔力が、テオ君本人ではなく、寄生虫へピンポイントで流れ込んでいくのを確認した。


(あれ、いつもなら寄生虫に感染している本人も魔法の効果を受けてしまうんだけど……)


「ノア君。寄生虫は弱ったか?」


「あっ、はい。ちょっといつもとは違いますが、大丈夫だと思います。」


レインは何かに気づいたような様子で頷いた。


「では、行きます」


僕は集中する。


「《循環遮断》!」


頭部の寄生虫の魔力が急速に乱れ――


パツン。


小さな断裂音がした。

そして、数分後、寄生虫の魔力の流れは完全に止まった。


「成功です。あとは、フェルミナさんお願いします」


「あいよ。任せといて」


フェルミナが前へ出る。


「《ヒール》!」


淡い光がテオを包む。


生命力ゲージが、赤から黄色へ。

そして――緑へ。


「……助かった」


僕は、ようやく息を吐いた。



「ノア、本当にありがとう……!」


ザックは深く頭を下げた。


「レインさんも、フェルミナもありがとう」


「いやいや、間に合ってよかった」


「うん、ほんとよ」


ケイトもミリスも安心したようだった。

ザックの奥さんも、涙ぐみながら何度も頭を下げている。


「ザックさん。数日はテオ君のそばにいてあげてください」


「……ああ」


ケイトとミリスは頷いていた。



ほんの一時間弱の出来事だった。


しかし、今回の出来事は、僕たちに大きな達成感と信頼関係、そして一つの学びをもたらした。

特に、それに気づいたのはレインだと言える。


協会へ戻る途中、レインが僕に告げた。


「ノア君。さっきの付与魔法の時、いつもと違わなかったかい?」


「そうですね。確かに、テオくんに付与魔法がかかることなく、寄生虫だけにかかっていたように見えました」


「それなんだが、私にも頭の中の寄生虫が見えたんだ」


「えっ!? どういうことですか?」


「厳密には、見えたというより、どこにいるのかが分かったという感じなんだが。それで、寄生虫にピンポイントで付与魔法をかけられたのだと思う」


「それって、レインさんも《臨床検査》ができるようになったということですか?」

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次回もよろしくお願いします。

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