53 循環遮断「改」
結局、翌日には川の源流へ向かうことになった。
そのため、新たに設定された指名依頼《寄生虫症患者の回復2》については、会議後の午後を使って、できる限り進めることとなった。
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依頼名:寄生虫症患者の回復2
達成目標:南区・スラムに住まう住民のうち、寄生虫症で要注意状態以上の者から寄生虫を駆除する。
達成ボーナス:支部長からの信頼度が上がる、三十万ゼニー
内容:先の依頼《寄生虫症患者の回復》と同様。アルセリア冒険者協会支部
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◇
「フェルミナさん、午後って予定あるんですか?」
「ごめんね。今日は先に予定を入れちゃってて……午後は動けないの」
「しょうがないか」
レインも納得したように頷いた。
そんなわけで、午後は僕とレインの二人でスラムへ向かうことになった。
今回は、緊急性の高い赤色ゲージの住民は一人だけ。
残りは黄色ゲージの住民だ。
(まぁ……フェルミナさんの治癒魔法がなくても、今回はどうにかなるか)
中央区を歩きながら、僕はレインへ尋ねる。
「レインさん」
「なんだい?」
「源流って、どんな場所なんですか?」
「私も実際に行ったことはない。ただ、かなり神聖な場所だとは聞いているな」
レインは少し視線を遠くへ向けた。
「冒険者はもちろん、現地の住民ですら、あまり近づかない場所らしい」
「だ、大丈夫でしょうか……」
「一人なら厳しいだろうな」
レインは即答した。
「だから、パーティを組む必要がある。誰か心当たりはないのか?」
「あっ、いるにはいるんですが……予定が空いてるかですよね」
「ザック達のパーティか?」
「あっ、はい!」
「討伐系の依頼をこなしている連中だ。依頼内容的には問題ないと思うが……まぁ、予定次第だな」
レインは少し考えたあと、口を開く。
「私の方からメッセージで聞いてみようか?」
「えっ!? いいんですか!? ぜひお願いしたいです!」
僕は思わず身を乗り出した。
「まだフレンド登録ができてなくて、連絡が取れなくて……」
「パーティに誘いたいと言われておいて、まだフレンド登録していないのか」
「うっ……すみません」
レインは小さく笑った。
「まぁ、返信が来たら教えるよ」
「ありがとうございます!」
(レインさん、本当にいい人だな……)
(こういう人とパーティを組めたら安心感すごそう)
◇
スラムへ到着する。
「《エリア臨床検査》!」
目の前にマップが広がり、生命反応が色分けされて表示される。
緑色:23人
黄色:120人
赤色:1人
計:144人
日中だからか、仕事や物資集めで別の地区へ出ている住民も多いようだった。
「ノア君。まずは緊急性が高い人から行こうか」
「はい!」
昨日と同様に、
《臨床検査》
↓
《寄生異物検査》
↓
レインの減弱系付与魔法
↓
《循環遮断》
という流れで処置を行う。
もう互いに動きが分かっている。
かなりスムーズだった。
◇
「ようやくこれで二十人ですね……やっぱり時間かかりますね」
「そうだな」
レインは腕を組む。
「本来なら、こちらから回るより、住民に集まってもらった方が効率は良いのだが……」
「そこなんですよね」
僕も頷いた。
「ただ、元気な人ばかり来て、本当に要注意の人が来ないとか普通にありそうで……」
(完全に前世の在宅医療か外来診療の感覚だ……)
そんなことを考えていた時だった。
ピコン。
レインの冒険者カードが淡く光る。
「ノア君。ケイトから返事が来たぞ」
「えっ!?」
「行けるそうだ」
「ほんとですか!? 良かったぁ……!」
(これで犬死にする可能性がかなり減った……!)
「夕方、協会で打ち合わせしようとのことだ」
「ありがとうございます!」
僕は心底ほっとした。
◇
だが、安心してばかりもいられない。
まだスラムには大量の黄色ゲージ住民が残っている。
「レインさん。このペースだと、今日あと二十人くらいが限界ですよね」
「そうだな」
レインも真面目な顔になる。
「今の五倍くらいの速度がないと、全員対応は難しい」
「ですよね……」
僕は少し考え込む。
そして、ある考えが浮かんだ。
「レインさんって、付与魔法を何人まで同時にかけられますか?」
「同じ魔法を複数人に、という意味なら……三人くらいまではやったことがある」
「その時って、どうやって対象指定してるんです?」
「ん?」
「例えば、“個人名”なのか、“仲間全員”なのか」
「そう言われると……“パーティ全員”という感覚だな」
(やっぱり……!)
「だったら!」
僕は勢いよく顔を上げた。
「建物の中にいる“全員”を対象にすれば、一気に効率化できるかもしれません」
「……なるほど」
レインの目が細くなる。
「スラムには三十近い建物があります。一人一人じゃなく、“建物単位”で処置するんです」
単純計算でも、六倍以上の高速化になる。
レインもすぐに理解した。
「確かに、付与魔法側はそれでかなり効率化できるな。ただし、その分、消費魔力は増える」
「だから、弱めの付与で良いと思うんです」
僕は続ける。
「《臨床検査》で状態は見えるので、不足してる人だけ個別で強めればいいのではと」
「そうだな、それでいこう」
レインは頷いた。
「問題は、《循環遮断》の方か」
「はい……」
僕は続ける。
「今までは、寄生虫一匹ずつを対象にしてたので……複数同時にできるか試したことなくて」
「だが、対象を“人”ではなく“寄生虫”に絞れば、いけそうな気はするが」
「ですよね」
「問題は、ノア君の魔力が持つかどうかだな」
「あっ……」
(それ忘れてた)
◇
僕たちは、さっそく試すことにした。
建物へ入り、住民へ説明を行う。
「《エリア臨床検査》!」
「《寄生異物検査》!」
建物全体へスキルを展開。
続けて、レインが付与魔法を放つ。
淡い魔力が建物内へ広がる。
住民たちの動きがゆっくりと穏やかになっていく。
そして――
僕の番だ。
(人じゃない)
(寄生虫にフォーカスする……!)
(この建物内にいる寄生虫は……13匹!)
一人で複数匹保有している住民もいる。
僕は集中した。
13本の魔力の流れへ、同時に意識を伸ばす。
(いけるか……!?)
――パツン。
パツ。
パツ、パツッ。
パツパツパツパツ……
線香花火のような、小さな断裂音が連続した。
「ノア君!」
「確認します!」
「《臨床検査》!」
寄生虫たちの魔力が、一斉に弱まっていく。
それと同時に、住民たちの体内の滞りも正常化していくのが見えた。
「成功です!」
「おしっ!」
レインが拳を握る。
「これで一気に進められるな!」
「はい!」
しかも今回は、人だけではない。
同じ建物で暮らしていた猫や犬の寄生虫まで、一緒に駆除されていた。
(だから十三匹も反応があったのか……!)
◇
その後も、僕とレインはスラムの建物を一軒ずつ回った。
《エリア臨床検査》
《寄生異物検査》
《減弱系付与魔法》
《循環遮断》
それを繰り返す。
そして――
(天の声)
《スキル《循環遮断改》を獲得しました》
「あっ!?」
「どうした?」
「い、いや、何でもないです!」
突然のスキル取得に驚く。
だが、《循環遮断》を複数対象へ同時使用していたことで、新たな段階へ進化したのだろう。
(これで正式に複数同時発動スキルになったってことか……!)
◇
日が沈んだ頃には、最後の一軒へ到達していた。
「ノア君。これで最後だな」
「はい……僕、もう立ってるのがやっとです」
「魔力を使いすぎなんだろうな」
レインは苦笑した。
「あと一踏ん張りだ」
「はい!」
最後の建物も、無事に処置を終える。
(頑張った自分。というか魔力よく持ったな)
◇
冒険者協会へ戻る途中。
僕はレインへ声をかけた。
「あの、レインさん。一つお願いがあるんですが」
「なんだい?」
「遠征中、リノとマルのことを見てもらえませんか?」
「……そういうことか」
レインはすぐに頷いた。
「もちろん構わない」
「ありがとうございます!」
「ノア君も面倒見がいいな」
レインは少し笑う。
「普通の冒険者なら、そこまで首を突っ込まない」
(……かもしれない)
前世の僕には、少し離れた妹と弟がいた。
たぶん、どこかで重ねているのだと思う。
◇
結局、この午後だけで、スラムに建つ三十近い小屋をほぼ全て回り終えた。
厳密には、不在だった住民には対応できていないが、不在ということは、少なくとも自力で動ける程度には健康ということでもある。
そういう意味で――
短期的な寄生虫問題は、ほぼ制圧できたと言って良かった。
「レインさん。あとは住民移動の大掛かりな環境整備ですね」
「そうだな」
レインは静かに頷く。
「でも、この午後の活動のおかげで変な心配をせずにできることは大きい。助かったよ」
「いえいえ、こちらこそレインさんと一緒にできてよかったです」
◇
そして僕たちは、冒険者協会へ到着する。
(源流へ向けての打ち合わせの時間だな)
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