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53 循環遮断「改」

結局、翌日には川の源流へ向かうことになった。


そのため、新たに設定された指名依頼《寄生虫症患者の回復2》については、会議後の午後を使って、できる限り進めることとなった。


ーーーーーー

依頼名:寄生虫症患者の回復2

達成目標:南区・スラムに住まう住民のうち、寄生虫症で要注意状態以上の者から寄生虫を駆除する。

達成ボーナス:支部長からの信頼度が上がる、三十万ゼニー

内容:先の依頼《寄生虫症患者の回復》と同様。アルセリア冒険者協会支部

ーーーーーー



「フェルミナさん、午後って予定あるんですか?」


「ごめんね。今日は先に予定を入れちゃってて……午後は動けないの」


「しょうがないか」


レインも納得したように頷いた。


そんなわけで、午後は僕とレインの二人でスラムへ向かうことになった。


今回は、緊急性の高い赤色ゲージの住民は一人だけ。

残りは黄色ゲージの住民だ。


(まぁ……フェルミナさんの治癒魔法がなくても、今回はどうにかなるか)


中央区を歩きながら、僕はレインへ尋ねる。


「レインさん」


「なんだい?」


「源流って、どんな場所なんですか?」


「私も実際に行ったことはない。ただ、かなり神聖な場所だとは聞いているな」


レインは少し視線を遠くへ向けた。


「冒険者はもちろん、現地の住民ですら、あまり近づかない場所らしい」


「だ、大丈夫でしょうか……」


「一人なら厳しいだろうな」


レインは即答した。


「だから、パーティを組む必要がある。誰か心当たりはないのか?」


「あっ、いるにはいるんですが……予定が空いてるかですよね」


「ザック達のパーティか?」


「あっ、はい!」


「討伐系の依頼をこなしている連中だ。依頼内容的には問題ないと思うが……まぁ、予定次第だな」


レインは少し考えたあと、口を開く。


「私の方からメッセージで聞いてみようか?」


「えっ!? いいんですか!? ぜひお願いしたいです!」


僕は思わず身を乗り出した。


「まだフレンド登録ができてなくて、連絡が取れなくて……」


「パーティに誘いたいと言われておいて、まだフレンド登録していないのか」


「うっ……すみません」


レインは小さく笑った。


「まぁ、返信が来たら教えるよ」


「ありがとうございます!」


(レインさん、本当にいい人だな……)


(こういう人とパーティを組めたら安心感すごそう)



スラムへ到着する。


「《エリア臨床検査》!」


目の前にマップが広がり、生命反応が色分けされて表示される。


緑色:23人

黄色:120人

赤色:1人

計:144人


日中だからか、仕事や物資集めで別の地区へ出ている住民も多いようだった。


「ノア君。まずは緊急性が高い人から行こうか」


「はい!」


昨日と同様に、


《臨床検査》

《寄生異物検査》

レインの減弱系付与魔法

《循環遮断》


という流れで処置を行う。


もう互いに動きが分かっている。


かなりスムーズだった。



「ようやくこれで二十人ですね……やっぱり時間かかりますね」


「そうだな」


レインは腕を組む。


「本来なら、こちらから回るより、住民に集まってもらった方が効率は良いのだが……」


「そこなんですよね」


僕も頷いた。


「ただ、元気な人ばかり来て、本当に要注意の人が来ないとか普通にありそうで……」


(完全に前世の在宅医療か外来診療の感覚だ……)


そんなことを考えていた時だった。


ピコン。


レインの冒険者カードが淡く光る。


「ノア君。ケイトから返事が来たぞ」


「えっ!?」


「行けるそうだ」


「ほんとですか!? 良かったぁ……!」


(これで犬死にする可能性がかなり減った……!)


「夕方、協会で打ち合わせしようとのことだ」


「ありがとうございます!」


僕は心底ほっとした。



だが、安心してばかりもいられない。


まだスラムには大量の黄色ゲージ住民が残っている。


「レインさん。このペースだと、今日あと二十人くらいが限界ですよね」


「そうだな」


レインも真面目な顔になる。


「今の五倍くらいの速度がないと、全員対応は難しい」


「ですよね……」


僕は少し考え込む。


そして、ある考えが浮かんだ。


「レインさんって、付与魔法を何人まで同時にかけられますか?」


「同じ魔法を複数人に、という意味なら……三人くらいまではやったことがある」


「その時って、どうやって対象指定してるんです?」


「ん?」


「例えば、“個人名”なのか、“仲間全員”なのか」


「そう言われると……“パーティ全員”という感覚だな」


(やっぱり……!)


「だったら!」


僕は勢いよく顔を上げた。


「建物の中にいる“全員”を対象にすれば、一気に効率化できるかもしれません」


「……なるほど」


レインの目が細くなる。


「スラムには三十近い建物があります。一人一人じゃなく、“建物単位”で処置するんです」


単純計算でも、六倍以上の高速化になる。


レインもすぐに理解した。


「確かに、付与魔法側はそれでかなり効率化できるな。ただし、その分、消費魔力は増える」


「だから、弱めの付与で良いと思うんです」


僕は続ける。


「《臨床検査》で状態は見えるので、不足してる人だけ個別で強めればいいのではと」


「そうだな、それでいこう」


レインは頷いた。


「問題は、《循環遮断》の方か」


「はい……」


僕は続ける。


「今までは、寄生虫一匹ずつを対象にしてたので……複数同時にできるか試したことなくて」


「だが、対象を“人”ではなく“寄生虫”に絞れば、いけそうな気はするが」


「ですよね」


「問題は、ノア君の魔力が持つかどうかだな」


「あっ……」


(それ忘れてた)



僕たちは、さっそく試すことにした。


建物へ入り、住民へ説明を行う。


「《エリア臨床検査》!」


「《寄生異物検査》!」


建物全体へスキルを展開。


続けて、レインが付与魔法を放つ。


淡い魔力が建物内へ広がる。


住民たちの動きがゆっくりと穏やかになっていく。


そして――


僕の番だ。


(人じゃない)


(寄生虫にフォーカスする……!)


(この建物内にいる寄生虫は……13匹!)


一人で複数匹保有している住民もいる。


僕は集中した。


13本の魔力の流れへ、同時に意識を伸ばす。


(いけるか……!?)


――パツン。


パツ。


パツ、パツッ。


パツパツパツパツ……


線香花火のような、小さな断裂音が連続した。


「ノア君!」


「確認します!」


「《臨床検査》!」


寄生虫たちの魔力が、一斉に弱まっていく。


それと同時に、住民たちの体内の滞りも正常化していくのが見えた。


「成功です!」


「おしっ!」


レインが拳を握る。


「これで一気に進められるな!」


「はい!」


しかも今回は、人だけではない。


同じ建物で暮らしていた猫や犬の寄生虫まで、一緒に駆除されていた。


(だから十三匹も反応があったのか……!)



その後も、僕とレインはスラムの建物を一軒ずつ回った。


《エリア臨床検査》

《寄生異物検査》

《減弱系付与魔法》

《循環遮断》


それを繰り返す。


そして――


(天の声)


《スキル《循環遮断改》を獲得しました》


「あっ!?」


「どうした?」


「い、いや、何でもないです!」


突然のスキル取得に驚く。


だが、《循環遮断》を複数対象へ同時使用していたことで、新たな段階へ進化したのだろう。


(これで正式に複数同時発動スキルになったってことか……!)



日が沈んだ頃には、最後の一軒へ到達していた。


「ノア君。これで最後だな」


「はい……僕、もう立ってるのがやっとです」


「魔力を使いすぎなんだろうな」


レインは苦笑した。


「あと一踏ん張りだ」


「はい!」


最後の建物も、無事に処置を終える。


(頑張った自分。というか魔力よく持ったな)



冒険者協会へ戻る途中。


僕はレインへ声をかけた。


「あの、レインさん。一つお願いがあるんですが」


「なんだい?」


「遠征中、リノとマルのことを見てもらえませんか?」


「……そういうことか」


レインはすぐに頷いた。


「もちろん構わない」


「ありがとうございます!」


「ノア君も面倒見がいいな」


レインは少し笑う。


「普通の冒険者なら、そこまで首を突っ込まない」


(……かもしれない)


前世の僕には、少し離れた妹と弟がいた。


たぶん、どこかで重ねているのだと思う。



結局、この午後だけで、スラムに建つ三十近い小屋をほぼ全て回り終えた。


厳密には、不在だった住民には対応できていないが、不在ということは、少なくとも自力で動ける程度には健康ということでもある。


そういう意味で――


短期的な寄生虫問題は、ほぼ制圧できたと言って良かった。


「レインさん。あとは住民移動の大掛かりな環境整備ですね」


「そうだな」


レインは静かに頷く。


「でも、この午後の活動のおかげで変な心配をせずにできることは大きい。助かったよ」


「いえいえ、こちらこそレインさんと一緒にできてよかったです」



そして僕たちは、冒険者協会へ到着する。


(源流へ向けての打ち合わせの時間だな)

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次回もよろしくお願いします。

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