表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
53/82

52 まさかの旅立ち?

外はすっかり暗くなっていて、冒険者協会の酒場スペースは冒険者たちで賑わっていた。


「あっ、どうも」


剣士ザック、弓使いケイト、魔法使いミリスのパーティも、依頼後の打ち上げをしていた。


「ノア、なんか面白い人たちと一緒にいるね。フェルミナとレインさんと組んでたの?」


ケイトが尋ねた。


「あっ、はい」


ちらっとフェルミナとレインを見る。


フェルミナはケイトに対して少し怪訝そうな表情を浮かべ、レインはいつも通り落ち着いた様子だった。


「ノア、あなたケイトと知り合いだったの?」


フェルミナが質問する。


「あっ、はい」


(なんだ、この二人……犬猿の仲みたいな空気を感じるぞ……)


「ええっと……」


「おい、二人とも。ノア君が困っているじゃないか。ライバル視するのは良いが、ノア君を巻き込まないでくれ」


(ありがとう、レインさん)


二人はどうやら冒険者になった時期が近く、同期のような関係らしい。

もちろん仲は悪くないのだが、お互いを強くライバル視している。

何かあるたびに周囲が仲裁へ入る間柄だ。


僕とフェルミナ、レインの三人は、ザックたちの隣のテーブルへ座り、一緒に打ち上げをすることになった。


「ノアは、フェルミナさんとレインさんと、どんな依頼を受けてたの?」


ミリスが興味津々に聞いてきた。


ザックはあまり興味なさそうにエールを飲んでいるが、ケイトはこちらを凝視し、どんな答えが返ってくるか待っているようだった。


「今回は指名依頼があってね。支部長から、三人で組むように指示があったんだ」


「指名依頼!?」


ザックもエールを机へ置き、驚きを見せる。

ミリスとケイトも同じく目を丸くした。


「そうなんだ。スラムで広がっている寄生虫を駆除する依頼で、住民を治療する内容だったんだよ。だから、治癒師のフェルミナさんと、付与術師のレインさんとパーティを組んだってわけ」


「なるほどね。支部長も面白い人選するわね」


フェルミナの言葉に、ザックとミリスも頷いた。


「で、依頼は終わったの?」


「うん。一応って感じかな。寄生虫は思った以上に広がっていて、とりあえず緊急性の高い部分だけ対処したんだ。だから、引き続き対応することになった」


「そっかー。なんか忙しそうね」


「……」


フェルミナとミリスは、少し残念そうな表情を浮かべている。


「ケイト、何かあるわけ?」


フェルミナが尋ねた。


「いや、ノアをうちのパーティに誘おうって話をしてたのよ」


(えっ――あっ、そっか。そんな話あったの忘れてた……)


「それで、次はいつ空く?」


ミリスがこちらをじっと見つめながら尋ねる。


「あっ、うん。明日は調査もあるし、その後もまた支部長から指名依頼が入りそうな感じで……」


「ノアのばか……」


突然のミリスの発言。


(えぇ!? そんなこと言われても……)


「まぁまぁ、ミリス。ノアが困ってるじゃない。ノアだって、支部長の依頼は断れないでしょ」


さすがにフェルミナもフォローを入れた。


「そだね。わかった。ごめんノア」


(ふぅ……)


「なんだ、ノア君も意外とすみに置けないんだな」


「レインさんまで……」


ワハハハハハ。

ククククク。

フフフフフ。


たわいのない会話は、時間が過ぎるのも早い。

気づけば、かなり良い時間になっていた。


ミリスはすでにうとうとし始めていて、ケイトが送っていくらしい。

ザックは「家庭の時間だ」と言って、少し早めに帰っていった。

その後、フェルミナとレインも宿へ戻ることになった。


「あっ、そうだった。まだフレンド登録してなかったわね。しておきましょう」


フェルミナが言った。


「スラムの寄生虫の件、おそらくまだ続くでしょうし」


「はい、ぜひお願いします。レインさんも、いいですか?」


「もちろんだ。次もよろしく頼む」


(これでフレンド登録が二人……。

というか、ミリスとケイトにも聞くの忘れてた。あっ、あとザックも……)


(まぁ、明日また協会で会えるか。その時にしよう)


僕たちは協会を後にし、それぞれの宿へ帰って行った。



チュンチュン。


チュンチュン。


「今日も良い天気だなぁ」


宿の窓から広場を眺めながら、朝の空気を吸う。


支度を済ませ、一階の食堂で朝食をとると、僕は早速スラムへ向かった。



「おはよう、リノちゃん。変わりはなかった?」


「うん、元気!」


「マルも元気!」


(二人とも生命力ゲージは緑色……寄生虫反応もなさそうだ)


リノの視力も回復している。


経過は順調だったため、僕は昨日まで赤表示だった25人の住民を順番に見て回った。


ただ、25人全員が緑色かと思っていたが、黄色表示になっている人もいた。

寄生虫自体は駆除されているようだったので、原因は別にあるということだ。


目の下のクマ。

細い腕。

減少した筋肉量。


さらに、時々頭痛もあるらしい。


おそらく、栄養失調状態だ。


(やはり、スラムの食糧問題の解決が必要だな……)


「《エリア臨床検査》!」


スラム全体の生命力ゲージは、昨日から大きく変化していた。


それは、僕とフェルミナ、レインの三人の活動成果でもある。


緑色:38人 → 48人

黄色:140人 → 154人

赤色:25人 → 1人


ただ、昨日帰る時点では赤色はゼロになっていたのだ。


つまり、その後に重症化した人がいるということ。

さらに、緑から黄色へ移行した人も少なくないという事実だった。


(緑ゲージの人たちにも、寄生虫駆除は必要か)


(スラムの残りの感染者、それに中央区や北区の保有者まで含めると……)


寄生虫を駆逐するためには、新たな策が必要と言える。

もっと手軽で、自分たち自身でもできる方法がないかと感じていた。



続いて僕は、スラムと南区全体の水質調査へ移行する。


スラムの住民たちは、主に三つの井戸と、川、そして池の水を利用している可能性があった。


僕はまず、目の前の池へ左手をかざし、《微生物検査》のスキルを発動した。


「なんだこれは!」


スキルを使った瞬間、左手をかざした周辺一メートル四方が真っ赤に染まる。

しかも、チカチカと点滅していた。


それは、一つ一つの微生物がミクロレベルで動いている証だった。


(これって、もしかして大腸菌の一種では?)


前世の記憶が蘇る。


人や動物の糞尿が混じった水には大腸菌が検出される。

それは汚染の指標だった。

ただ、大腸菌そのものの危険性よりも、糞便由来の病原菌、ウイルス、寄生虫が存在するリスクが高いことを意味している。


(やはり池の水は危険だな)


リノ曰く、池の水は飲み水はもちろん、食材や食器洗いにも使っていないらしい。


(ひとまず、このまま使用禁止を徹底する必要がありそうだな)


(でも、ずっと禁止するわけにもいかない。浄化する仕組みか……)


その後、リノに頼んで、スラム住民が利用する三つの井戸へ案内してもらう。


「ノアさん、ここだよ」


「ありがとう」


一つ目の井戸は、池の南側に位置していた。

利用者はそこまで多くないらしい。


ただ、「井戸水は安全」という認識はスラムでも根強く、飲み水として使う人もいるとのことだった。


チャプン。


桶を井戸へ落とし、引き上げる。


比較的深い井戸らしく、かなり力が必要だった。


見た目は透明ーー

だが、それだけでは安全かどうかは分からない。


わずかに臭いもある。


「《微生物検査》!」


ブワン。


桶の中の水には、池ほどではないが、赤い小さな点が確認できた。


(やはりか……)


池の南側という位置から考えて、池の水が地中へ浸透している可能性が高い。

さらに、周囲へ放置された汚染物質の影響もあるのだろう。



続いて、比較的多くの住民が利用する、池の北側の井戸。


こちらは南側より深さが浅い。


それもあってか――

微生物反応は、さらに強かった。



最後の井戸を調べる。


池から離れている代わりに、川と共同トイレに近かった。


そして、ここでも、やはり強い反応が出た。


(全部の井戸が汚染されてるじゃないか……)


改めて、スラム環境の過酷さを痛感した。


このままでは、いくら寄生虫を駆除しても、また感染する。

あるいは、別の病気が流行する可能性も高い。


住民移動。

水の浄化。

綺麗な水の供給。


頭の中で、いくつもの案が巡っていく。


(どうする……?)


ピコン!


その時、冒険者カードが光った。


フェルミナからのメッセージだ。


『スラムの指定依頼が出たので、打ち合わせしましょう。正午空いてる? レインはOK取れた』


(ナイスタイミングじゃないか)


(その時に、スラムの現状を相談しよう。あと、赤色ゲージの住民一名の対応も)


僕はリノとマルへ、「井戸水も飲まないように」と伝え、自分が持っていた飲み物とパンを全部渡した。


(早くどうにかしないと……)



「お待たせしました!」


正午を少し回った頃、僕は遅れて冒険者協会二階の会議室へ到着した。


「遅いぞ、ノア。君待ちだ」


「すみません」


「まぁまぁ、ノアのことだから、依頼関連でしょう」


「あっ、はい。ちょっと色々と深刻なことが分かりまして……」


「そうなの?」


ドラム、フェルミナ、レインが息を呑む。


「スラムなんですが……」


僕は、水質調査の結果を説明した。


そして、対策案として三つを提案した。


住民移動。

浄化設備。

上水路整備。


「そうか……これはかなり深刻だな」


ドラムはすぐに理解した。


住民移動を行う場合、アルセリアの壁内には空き地がほとんどない。

つまり、現状では壁の外へ移住してもらう必要があるということを。


「報告ありがとう、ノア。提案の三つ、どれも素晴らしいと思う。もちろん課題はあるが――」


ゴクリ。


……


……


……


「全部だな」


「んっ?」


「それは、どういう意味でしょうか?」


レインが聞き返した。


「全部だ。三つとも、やる必要がある」


「……」


確かに、僕もフェルミナもレインも、心のどこかではそう思っていた。


だが、現実的にはどれか一つに絞るものだと考えていたのだ。


(これが……支部長というものなのか)


「住民移動については、街側との交渉が必要だ。そこは俺が動く。

問題は、浄化設備と上水路整備だが――」


ドラムは、こちらを見た。


「ノア。これはお前に頼みたい」


「へっ? 僕ですか?」


「そうだ。実はな、『浄化』について、一つアイデアがあるんだ」


(なんか、支部長……悪い顔してるな)


「この街を流れる川の源流付近に、《クリアスライム》っていうモンスターが生息している」


「なるほど!」


レインが先に気づいた。


「クリアスライムは特殊個体でな。《浄化》スキルを持っているんだ」


「ということは、クリアスライムを利用して水を浄化するんですね!」


フェルミナも理解した。


「そういうことだ。上手くいくかは分からん。だが、成功すれば、この街は変わる」


(確かに……水問題が一気に解決し得る。でも、どうやってそのスライムを?)


「まぁ、とにかくそういうわけだ。ノア、あとは色々任せた」


「へっ!?」


「私たちは何をすれば良いですか?」


レインが尋ねる。


「レインとフェルミナは、俺と一緒に住民移動を手伝ってくれ。

ノアの調査結果だと、スラムにはまだ体調不良の住民が大勢いるんだろ?」


「はい」


「なら、お前たちの付与魔法による鎮静と、治癒魔法による回復は必須だ」


「そうですね。分かりました」


「そんなわけで、ノア。改めてよろしくな! 明日には旅立てるよう準備しておいてくれ」


「へっ!?」


(てっきり、三人で行く流れだと思ってたんだけど!?)



会議が終わり、僕は少し放心状態になっていた。


「まぁ、ノア君。これも一つの経験だよ。レベルアップ間違いないさ」


「そうね。ノアなら大丈夫だと思うわ。何かあったらメッセージちょうだい」


(急に二人の先輩に突き放された気がする……どうなるんだろ僕……)

読んでいただきありがとうございます!

面白かったらブックマーク・評価いただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ