51 スラムでの活動報告
「スラムの救済依頼の報告に来ました」
僕は受付嬢に告げた。
「えっ、もうですか? すぐに支部長へ確認してきます」
受付嬢は二階へ駆け上がっていく。
しばらく時間がかかりそうだったので、僕たち三人は酒場スペースで待つことにした。
「ところでレインさん、少し教えてほしいんですけど」
「私にかい? なんだい?」
「かなり初心者の質問なんですが、職業って、どうやってレベルを上げるんですか?」
「ああ、そういうことか。実は、職業そのものにはレベルとかランクという概念はないんだよ」
「そうなんですか!? てっきり……」
「職業については、極端な話、名乗ったもの勝ちな部分がある。
ただし、職業に応じた《職業スキル》というものは存在するから、その職業に就いた状態で一定の経験を積むことで取得できるんだ」
ふむふむ。
「例えば私なら、スキル鑑定で得たスキルに加えて、以前の剣士時代に覚えたスキル、そして今の付与術師とパン屋のスキルが使える」
「ということは、転職しても以前のスキルはそのまま使えるんですね」
「そうだ。だから、ある程度スキルを取得したタイミングで転職するのは、一つの戦略とも言える。
あとは、セカンドジョブの仕組みもうまく活用するといい」
「職業スキルって、どのくらいで取得できるんですか?」
「それは職業にもスキルにもよるな。
正直、一つの職業にどれだけスキルが潜在していて、どこまで取得できるのかは正確には分かっていないんだ。
だからこそ、一つの職業を極めるっていうのも面白い道だと思うよ」
(そうか……極めた先に、伝説級のスキルを取得するなんてこともあり得るのか)
「だからノア君も、スキルを取得していく中で、自分のタイミングで転職するなり、自由にやればいい。私自身も剣士から転職している人間だしな」
「ちなみに僕、今は武闘家と風呂屋なんですが、最初の方に取得できるスキルとか、何か知る方法ってあるんですか? それとも完全に手探りなんでしょうか」
「それなら、同じ職業の冒険者に相談するといいかな。普通に教えてくれるはずだ。
もちろん、レアスキルやユニークスキルについては別だろうけどね」
(確かに、同じ職業の先輩に聞くのが一番早そうだ)
「受付で聞けば、同じ職業の人を紹介してくれるはずだよ。まぁ、風呂屋は見つからないかもしれないが」
(風呂屋、やっぱり人気ないのかー……まぁ、そうだよね)
「ノアさん、フェルミナさん、レインさん。二階の会議室へお願いします」
受付嬢が階段を下りてきて、僕たちへ声をかけた。
◇
「スラムの依頼、ご苦労だったな。じゃあ聞かせてもらおうか」
支部長のドラムが尋ねた。
「はい。では、僕から代表してご報告します」
僕は一度息を整える。
「まず、スラムに住む人ですが、厳密には203人いることが確認できました。そして、その全員が寄生虫を保有していました」
「203人か……」
ドラムが眉をひそめる。
「その203人を、症状や栄養状態などを踏まえて、緑、黄色、赤の三段階に分類しています」
「ほう?」
「緑は経過観察で問題ない人で38人。
黄色は要注意だが、緊急対応までは必要ない人で140名人。
最後の赤は、急を要するため、すぐに対処すべき人が25人です」
「なるほど。つまり、その25人へ優先的に対応したということだな」
「はい。その25人については、全員、寄生虫の駆除を完了できたと思います」
「よくやった。だが、半日で終わらせるとは思わなかったぞ。どうやってそこまで早く対処したんだ?」
「それについては、私から説明します」
レインが口を開いた。
「正直、小屋の数自体はそこまで多くないので、移動距離は短かいです。
ですが、25人という数字は、私たちとしても決して少なくはなかったです」
レインは続ける。
「そこで、イレギュラーな事態も考慮し、三人で役割を分担したのです。
まず、ノア君が寄生虫を特定する。
次に、私が付与魔法で対象者を鎮静化する。
その後、ノア君が《循環遮断》で寄生虫を駆除する。
最後にフェルミナが治癒魔法で全身状態を回復させる。
これを、一軒ずつ回りながら赤の住民へ行ったわけです」
「さらに、ノア君のスキルで、赤だった生命力ゲージが緑へ回復したことも確認済みです」
「それは素晴らしいチームワークだな! 付与術師と治癒師、そしてノア君を指名した俺の判断は正しかったってわけか! ガハハハハ!」
(この支部長、最後は全部持っていったな……)
「で、一旦、急を要する住民についてはこれで良いとして、まだ黄色や緑の住民もスラムには残っています。そこはどうしましょうか?」
フェルミナが尋ねた。
「そうだな。緑の住民は経過観察でいいとして、黄色の住民については対処した方が良いだろう。ノア君、どう思う?」
「はい。正直、黄色からどのくらいの期間で赤へ移行するかは、まだ分かりません。
ただ、猫に寄生していたものと違い、人間に寄生している寄生虫は、同種だとしてもかなり大きく成長していました。成長速度も速い可能性があります」
「なるほど。であれば、黄色の住民についても寄生虫駆除の依頼を出そうと思う。三人に引き続きお願いしたいが、問題ないか?」
「はい!」
「もちろんです!」
「よろしくお願いします!」
「あとは、ノア君へ個別に依頼した、この街全域の寄生虫保有調査だが、進捗はどうだ?」
「はい。スラムを優先していたので、まだ十分ではありませんが、取り急ぎ北区の動物調査は完了しています」
「では、聞かせてくれ」
「北区には、ペットとして飼われている猫や犬、それに野良猫、そしてネズミが生息していることが確認できました」
「ふむ」
「まず、飼育されている猫と犬については、明らかな寄生虫反応はありませんでした。
一方で、野良猫については、数は少ないものの寄生虫反応が確認されています」
「しっかり管理された動物なら問題ない、ということか」
レインが呟いた。
「はい。ですが、問題はネズミです」
場の空気が少し変わる。
「北区にも相当数のネズミが生息していることが分かりました。そして、そのほとんどに寄生虫反応がありました」
「なんと……! ということは、人間にも感染する可能性があるのか?」
「否定はできません。
ただ、飼い猫や飼い犬に反応がなかったことを考えると、生活環境次第では防げる可能性も高いと思います」
「何か懸念点はあるのか?」
「一つは、ネズミを家の中へ侵入させないこと。
もう一つは、野菜などをしっかり洗うか、火を通して食べることです」
「なるほど。北区の住宅は石造りが多いから、ネズミの侵入自体は少ないのかもしれないわね」
フェルミナが頷く。
「はい。実際、ペットへの感染反応はありませんでした」
「つまり、問題は食べ物や水を介した感染ってことかしら」
「そう考えています。
北区の生活用水は、井戸水と、川の水を利用した上水路です。北区に限れば、水質はそこまで悪くないと思います。
しっかり洗浄し、火を通せば、大きな問題にはなりにくいはずです。
ただ、この街全体の水については、引き続き調査したいと思っています」
「そうだな。水は生活の根幹だ。ぜひ頼む。
あとは、残っている中央区の調査もよろしく頼むぞ」
「近日中に行います!」
僕は力強く頷いた。
「あとは、俺の方で進めていた街の責任者との交渉だが……」
ドラムが腕を組む。
「具体的な進め方については、ノアの調査結果を改めて街側へ提出した上で決定することになった。
だが、とりあえず、街側も衛生環境改善のための予算をつける方向で動くらしい」
(さすが、冒険者協会支部長……街の責任者とも対等に渡り合うのか)
「というわけで、ノアには引き続き調査をお願いしたい。
そして、その先には街の整備も視野に入ってくるだろう。
別の形で依頼を出すことになると思う。その時はまた協力してくれ」
「もちろんです。よろしくお願いします」
僕たち三人は頷いた。
◇
僕たち三人は受付で、今回の報酬30万ゼニーを受け取り、三等分した。
その後、依頼達成の打ち上げも兼ねて、酒場スペースへ移動する。
「おっ、ノアじゃねぇか!」
そこには、見慣れた三人組の冒険者パーティーが座っていた。
(救済チームとの相性大丈夫だろうか…)
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