49 連携スキル《寄生虫症治療の極意》
「ちょっといいですか?」
スラムを回る前に、目の前にいるリノの寄生虫を駆除したいことを、レインとフェルミナへ伝えた。
もちろん、二人から反対はなかった。
◇
「臨床検査!」
リノの魔力の流れには、やはり腹部と目の周辺に滞りが見える。
《寄生異物検査》のスキルでは、腹部に一つ、目の周辺に一つ、反応があった。
生命力ゲージは黄色だ。
腹部については、マルの寄生虫を駆除した時と同様、《循環遮断》で問題ないと思う。
ただ、課題は目の周辺だった。
まずは、リノの腹部に左手をかざし、寄生虫にフォーカスする。
「循環遮断!」
……
寄生虫の魔力の流れが少しずつ変化し、対象は若干の前後運動をした後――
ブチッ。
魔力が断ち切れた。
寄生虫は動かなくなり、魔力も徐々に弱まっていく。
一方で、リノの腹部の魔力の流れは、少しずつ滞りが解消されつつあった。
「結構な音がしたけれど、大丈夫なの?」
フェルミナが尋ねた。
「リノの魔力の流れは解消されてきています。大丈夫だと思います」
「そうなのね。なら良かったけど」
不安げに尋ねたフェルミナも、とりあえず納得したようだった。
「ノア君。次は目の部分を行うのかね?」
今度はレインが尋ねた。
「そうですね。リノちゃんの視力低下は寄生虫が原因だと思うので、駆除する必要があると思います」
「確かにそうだな。了解した」
そんなわけで、次は目の部分の寄生虫を駆除することにした。
リノの全身の魔力の流れは、目の部分を除いて落ち着いている。
寄生虫の場所を正確に把握するため、改めてリノの目元に左手を当てた。
(まぶたの上の部分に反応が一つあるな。目の中ではなくて良かった)
気持ちを新たに、今度は目の部分の寄生虫へフォーカスする。
「循環遮断!」
寄生虫の魔力の流れが変化していく。
魔力自体へ介入しているため、寄生虫の身体を物理的に攻撃しているわけではない――
だが、寄生虫は抵抗するかのように激しく動き始めた。
「えっ!?」
そして、それは一瞬だった。
魔力が断ち切られることを拒むように、寄生虫は身体を大きくねじらせ――
リノの上まぶたを引き裂き、そのまま飛び出したのだ。
思わずリノが悲鳴を上げる。
それを囲んでいた僕とフェルミナ、レインも声を失った。
突然の出来事に、僕は完全に制止してしまう。
「ノア、しっかりしろ!」
レインの声が飛ぶ。
「フェルミナ、ヒールだ! リノちゃんの目の部分へヒールをかけろ!」
レインは冷静に指示を出した。
こうした場面に、モンスターとの戦闘で何度も直面してきたのだろう。
Bランク付与術師という肩書きは伊達ではなかった。
「ヒール!」
フェルミナの魔法によって、リノの目の傷はすぐに治癒し、リノも平静を取り戻した。
フェルミナもまた、一端の冒険者だった。
戦闘では、突発的な出来事によって回復魔法が必要になることなど日常茶飯事なのだろう。
想定できていなかったのは、僕だけだった。
「リノちゃん、大丈夫?」
僕は少し震えた声で問いかける。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
リノの言葉に、救われた気がした。
僕は完全に動揺していた。
注意が足りなかった。
リスクを想定できていなかったのだ。
「フェルミナさん、レインさん、すみませんでした」
「ノア。リノちゃんも大丈夫って言ってるんだから、大丈夫よ」
「ノア君。戦闘では、こういう想定外のこともよく起きる。次に起きないよう考えよう」
二人とも、とても大人だった。
僕は余計に情けなくなったが、この二人が近くにいてくれて良かったとも思った。
《臨床検査》でリノの魔力の流れを見る。
滞りは解消され、正常な流れへ戻っていた。
生命力ゲージも、黄色から緑色へ変わっている。
とにかく、大事には至らなかった。
結果的には成功と言える。
「ノア君。少し提案なのだが……」
レインが口を開く。
「今回の一連の流れを見ていて思いついたのだが、寄生虫を直接駆除すること自体は、方針通りノア君の《循環遮断》で良いと思う」
「はい」
「だが、今回のように、魔力の流れへ介入することで反応する個体もいると考えると、私の付与術を使った後に《循環遮断》を行うのはどうだろうか?」
思わぬ提案だった。
「つまり、私の付与術で、寄生虫を持った住人自身を一時的に減弱させ、安静状態へ置く。そうすれば、本人が突然動いたり騒いだりすることを防げると思う」
(確かにそうだ)
「さらに、寄生虫そのものにも減弱系の付与術をかければ、今回のように急激に暴れることも抑えられると思うのだが」
「なるほど! それは名案よ」
フェルミナがすぐに反応した。
僕も、レインの思考の速さに感心してしまう。
前世で一般的だった患者への鎮静処置。
そして、ハンティングさながらに対象を安全に捕獲するための鎮静。
それに近い流れだ。
非常に合理的だと、僕も感じた。
「あと……」
今度はフェルミナが話し始めた。
「今回みたいなケースがあり得るなら、私も常にそばについていた方が良いと思うの」
(もちろん、僕もそう思っている)
「それで気になったのは、リノちゃんの回復速度が異常に早かったことよ」
フェルミナは真剣な顔をしていた。
「さっきノアは、寄生虫を駆除する前は要注意状態だったって言っていたわよね? それが、駆除後すぐに全快したように言っていたわ。自然回復だけでは、ちょっと考えにくい気がしてね」
(たしかに。いくら子どもの回復力が高いと言っても、少し異常かもしれない)
……
「そうか!」
僕は思いついた内容を共有する。
「まぶたの治療のためにフェルミナさんが使った《ヒール》ですが、その効果は傷だけじゃなく、全身の生命力そのものも回復させたんじゃないでしょうか」
「なるほど……!」
「それなら、要注意状態だった生命力が、すぐ正常へ戻ったのも説明がつきます」
「確かに」
二人も納得している。
「じゃあ、寄生虫の駆除をした人には、傷の有無は関係なく、もれなくヒールもかけるというのでどうでしょうか」
「それがいいだろうね」
レインは頷いた。
「それで行きましょう。問題は、私の魔力が持つかだけどね」
フェルミナは、笑いながらも、その責任にしっかり向き合おうという雰囲気だった。
「あと、もう一つだけあるのですが……」
僕は切り出した。
「お腹の中の寄生虫で、翌日排泄される場合は良いのですが、今回のまぶたのように、自然と排出されない場所にいる場合はどうしようかと思いまして。僕には、切開して取り出すようなことはできないので……」
「確かにそうね。今回のリノちゃんの場合は、結果的にまぶたが裂けたことで寄生虫を取り出せたわけだけど、本来なら切開が必要だったものね」
「なるほど。確かにそうだな。であれば、やはり切開するしかないだろう。もちろん、寄生している場所によるとは思うが、身体の内部ではなく、表面的な部分であれば可能だと思う」
「あっ、レインならそれができるわね!」
フェルミナが何かに気づいた。
「えっ、そうなんですか!?」
僕は驚く。
「ああ、できる。何せ、私は元々は前衛の剣士だったからな。刃物は得意だ」
(知らなかった。レインさん、元剣士だったのか。でも、なぜ今は……)
レインが付与術師へ転職した理由が気になった。
ここまで頭が回り、優秀な冒険者が、なぜ付与術師になったのか。
左手の手袋も関係しているのだろうかと思った。
(脱線した)
「あとは、切開した部分を私が魔法で治癒すればOKね」
フェルミナの役割が増えた。
「ああ、頼んだ」
「はい、お願いします」
こうして、寄生虫症に対する治療方針が決まった。
三人は率直に意見を交わし、より合理的で、より効果的なプランへ辿り着けたことに満足している様子だった。
「なんか三人とも楽しそうだね」
リノとマルはそんな三人を見てつぶやき、自分たちも笑っていた。
(天の声)
《連携スキル《寄生虫症治療の極意》を取得しました》
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