48 生命力ゲージ
「なるほど。スラムとは、こういう場所だったのか……」
「レイン、初めてだったの?」
「そうだが、フェルミナは来たことがあったのか?」
「もちろんよ。私は治癒師だからね。怪我などで困っている人がいれば、どこでも赴くわ」
(やはりフェルミナさんは、献身的な人なんだな)
一行は、南区の池のほとりに広がるスラムへ到着した。
まずは、スラムに住むリノとマルのもとへ向かう。
◇
「リノちゃん、いる?」
「あっ、ノアさん」
「また来てごめんね。マルくんの様子を見に来たよ。今日は少し人数が多くてごめんね」
「ううん、大丈夫。こっち……」
「ありがとう」
建物の中へ入ると、そこにはマルが座っていた。
もう起き上がれるようになったらしい。
「レインさん、フェルミナさん。先ほど話した、リノちゃんとマルくんです」
「こんにちは、リノちゃん、マルくん。フェルミナよ」
「レインだ。よろしく」
リノとマルは少し驚いた様子だった。
だが、スラムに住む人たちを助けるために冒険者協会から来たのだと伝えると、嬉しそうな表情へ変わった。
「突然押しかけてごめんね。リノちゃん、マルくん」
僕は、マルの体調を尋ねた。
「マルくん。だいぶ良くなったみたいだけど、調子はどう?」
「うん! ノアさんのおかげで、お腹が痛いのはなくなったよ。リノが歩き回っちゃダメって言うから、まだ家にいるけどね」
(リノはしっかり看病しているんだな。良い子だ)
「何か変わったことはないかな?」
「あっ、リノには黙っててほしいんだけど、うんちで白いのが出たんだー」
「悪さしてたのが出たんだね」
(寄生虫か。無事に排出されたということだな)
「ちょっと、身体を見せてくれる?」
僕はスキルを使った。
「臨床検査」
マルの体内の魔力の流れは、以前のように腹部で滞ってはいない。
別の怪しい流れも確認されなかった。
(寄生異物検査)
寄生虫も体内には確認されない。
加えて、《エリア臨床検査》を覚えた影響なのか、臨床検査を行った対象の上に生命力ゲージが見えるようになっていた。
(もう緑色のゲージか)
午前中に最後に見た時、マルのゲージは黄色だった。
それがすでに緑色に変化している。
子どもならではの回復力なのだろうか。
どうやら、もう大きな問題はなさそうだった。
僕は、マルの体調変化について、レインさんとフェルミナさんへ情報を共有する。
「なるほど。それでノア、マルくんの中にいた寄生虫だけど、何匹かいて、それが腹痛の原因になっていたのは分かったわ。体調も回復した。ところで、それをどうやって退治したの?」
フェルミナが尋ねた。
「本来なら、寄生虫をお腹の中から取り出す必要があると思いました。ただ、さすがにそれは僕にはできません。なので、寄生虫の魔力に干渉して、魔力の循環を遮断しました」
「えっ!?」
レインとフェルミナは、互いに顔を見合わせて驚いていた。
「ノア君。もしかしたら、それは付与術師が行う魔法にかなり近いかもしれない。いや、どちらが応用という話でもないか……」
レインが考え込むように言う。
「とにかく、私は魔力の流れを見ることはできないから、あくまで想像だが、付与術師の魔法にもいろいろあってだな」
「詳しく教えてもらえますか?」
レインは頷いた。
「付与術師の魔法は、大きく分けると、増強させるものと減弱させるものの二つに分かれる」
「増強と減弱……」
「例えば、攻撃力、防御力、足の速さを上げるといった具合に、身体の動きを活発にさせるものがある。もちろん、その逆も可能だ」
レインは続ける。
「加えて、魔法使いに対しては、魔法攻撃の威力を上げる魔法や、魔法に対する防御力を上げる魔法もある。当然、ここでも威力を下げたり、防御力を下げたりする逆の使い方も可能だ」
「なるほど……」
「このような付与術師の魔法は、詳しい原理までは分かっていない。だが、ノア君の話を聞いて、少し理解できた気がする」
レインは少しだけ楽しそうだった。
「人体の魔力、あるいは生命エネルギーに干渉して、その量を一時的に増やしたり減らしたりする。それが付与術師の魔法の理屈ではないか、とね」
レインの説明は、とても合理的だった。
僕の魔力に介入するスキルは、付与術師の魔法と近い部類なのかもしれない。
「レインさん。もし良かったら後で、付与術を使っているところを見せてもらえますか? それを僕のスキル《臨床検査》で可視化すれば、もっと詳しいことが分かる気がします」
「確かにそうだな。ぜひやってみよう。これは付与術師にとっても大きなゲームチェンジかもしれない」
(おおー)
「とにかく、ノア君の魔力の循環遮断は、今回の寄生虫駆除においては、間違いなく主戦力と言えるな」
「そうね」
フェルミナも頷く。
「根本原因である寄生虫は、これでどうにかできるとして……問題は、200人全員に行うのはさすがに時間がかかりすぎることね。優先順位が必要だわ」
「それと、衰弱していたり、身体に不自由な部分があったりすれば、そっちは私やレインの魔法でどうにかなると思うし」
(エリア臨床検査の出番ですね)
「優先順位ですが、僕のスキルを使えば、生命力がどのような状態かを見ることができます。エリア単位で把握できるので、それで危険そうな状態の人を先に見る、というのはどうでしょうか」
「ノア君のスキルは、そんなことまで見えるのかい!?」
レインが驚いた。
「それは、モンスターとの戦闘でもかなり画期的ではないか」
「確かにそうね」
フェルミナも目を細める。
「私たち治癒師は、戦闘や治療院で、怪我をした人に治癒魔法を使うの。見える傷なら、治癒師が判断して治療できるからいいわ」
そこで一度、フェルミナは言葉を切った。
「でも戦闘では、多くの場合、本人の自己申告に頼ることになる。例えば、前衛で戦っている仲間から『回復頼む!』という声があって、そこでヒールをかける、という具合ね」
「なるほど……」
「だから、生命力がどのような状態にあるのかが見えるなら、かなり有利なのは間違いないわ」
(そういうことか)
RPGゲームなどでは、プレイヤーの体力ゲージを見て、減ってきたら回復する。
よくある光景だ。
だが、この世界では通常、体力ゲージなど見えない。
だから、どのタイミングで回復するかは、本人の申告や仲間同士の意思疎通に頼るしかない。
つまり、感覚なのだ。
(臨床検査は戦闘でもなかなか使えるのでは)
「とにかく、方針は決まったわね。それで行きましょう」
フェルミナの言葉に、全員が頷いた。
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