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47 治癒師と付与術師と僕

「俺がこのアルセリア支部の支部長をしているドラムだ。皆、知っているとは思うが、まあ、よろしく頼みたい」


(いや、正直あまり知らないんだけどね)


受付嬢の話では、ドラムは元冒険者らしい。しかも元Aランク冒険者。

今はすっかり雑務に振り回されているとのことだったが、凄腕であることは間違いない。

今日は、この指名依頼を立ち上げた冒険者協会側の責任者として同席するようだ。


「私の名前はフェルミナよ。治癒師をやっているわ。現在はCランク。よろしくね」


若い女性だった。


身長は百七十センチくらいだろうか。

淡い金髪に、緑の瞳。

前世であれば、モデルになれそうな雰囲気だ。

白と緑を基調としたローブを着ていて、ひと目で治癒師だと分かる。


「私の名前はレインだ。Bランクで、付与術師をやっている。よろしく頼む」


若そうだが、落ち着いた雰囲気がある。


細身で黒髪。

銀縁の眼鏡。

黒いコート。

そして、左手だけ手袋をしているのが気になった。

いかにも付与術師、という感じのイケメンだ。


「僕の名前はノアです。現在Dランクで、メイン職業は武闘家なんですが、スキルが少し特殊なので、今回の依頼に参加することになりました。よろしくお願いします」


Dランクと言った瞬間、フェルミナとレインの視線が少し鋭くなった気がした。


(あからさまじゃないですか……)


ただ、「スキルが少し特殊」と続けた瞬間、二人の空気が少し変わる。


なるほど、という雰囲気だ。


(ふぅ……)


「よし。では始めようか」


ドラムの仕切りで、ミーティングが始まった。



「すでに依頼内容は伝えている通りだ。大きな目的は、南区にあるスラムの住民を救うことだ。そのために、専門性の違うメンバーでチームを組みたいと思っている。何か質問はあるか?」


フェルミナが手を挙げた。


「ドラムさん、今回の依頼内容は理解しています。ただ、私は治癒師です。怪我などは治せると思いますが、依頼書には“寄生虫”と書いてありました。そもそも寄生虫がどのようなもので、どのように駆除できるのかが分かっていません。だから、私が貢献できるのかも分からないのです」


「もっともな質問だな。ノア君、説明をお願いできるか?」


(やはり回ってくるよね……)


「はい。実は、先の探索依頼で捕まえた寄生虫を今日持ってきました。これは北区の飼い猫のお腹の中から出てきたものです」


「うっ……」


三人は少し嫌そうな顔をした。


だが、その後はすぐに、興味深そうにその物体を観察し始める。


「僕は、特殊なユニークスキルを持っています。そのスキルで、これを見つけました。今回はドラム支部長から紹介された方々ですので、僕のスキル情報も先に共有しようと思います」


(うかつにスキル情報を出すなとは言われているけど、今回は仕方ない)


「僕の《臨床検査》というスキルを使うと、生物の中の異変を見つけることができます。それで、猫の中にいた寄生虫を発見しました」


「生物の中の異変を見つける!?」


フェルミナが声を上げる。


レインも驚いているようだった。


「はい。厳密にはいくつか派生スキルがあるので、応用しながら使っています」


「そんなの聞いたことないわ」


「私も聞いたことがないな。ノア君、それはどのように見えるのかね?」


レインも、僕のスキルに興味を持ったようだ。


「んー、表現が難しいのですが……体内に“流れ”のようなものが見えるんです。それが滞っていると、そこに何か異常がある、という感じですね。なので、猫を見た時におかしなものがあると分かりました」


「なんか抽象的で分かりにくいなぁ」


レインが率直に突っ込む。


「正直、僕も魔法の原理を学んだわけではないので、あくまで僕の理解なのですが……魔力の流れが見えているのかな、と考えています」


「魔力の流れ!?」


三人の反応が揃った。


フェルミナが続けて質問する。


「魔力の流れが見えること自体、聞いたことないけど……その流れが滞っていたら、そこに異常があるって、どうして分かるの?」


(まっとうなご質問で……)


「いや、普通に考えれば、流れが滞っているならおかしいと感じるのではないか」


思わぬところで、レインがコメントした。


「はい。なので、その怪しい部分をさらに深掘りして、何か別のものが寄生していると分かりました。体内にある魔力の流れの中に、別の流れが混じっていた、という感じです」


「まあ、一応筋は通るわね」


フェルミナもレインも、ひとまず納得したようだった。


一方のドラムは、そんなものか、という雰囲気だ。


(フェルミナもレインも魔法を使うからか、理解が早いな。ドラムは……まあ、うん)


「ノア君。というか、ノアと呼んでもいい?」


フェルミナが念のため確認する。


「はい」


「で、ノアが持っている“異常を見つけるスキル”は分かったとして、どうしてスラムの子どもたちなの? まさかとは思うけど……」


「はい。そのまさかです」


僕は静かに頷く。


「すでに、僕が直接会った二人の子どもには、寄生虫が寄生していることを確認しています。そして、スラム全体をスキルで探索したところ、200人近い住民のほぼ全員に同じような反応がありました」


「えっ!?」


三人は再び驚きの声を上げた。


「ノア君。スラムに200人も住んでいるということも、分かったのかい?」


今度はレインが質問した。


「あっ、はい。スキルで、ですが……」


(あれ? シーフとかなら、探索系のスキルで分かるものではないのか……?)


「なるほど。色々と規格外なのかもしれないな」


「私もそう感じてきたわ」


レインとフェルミナが呟いた。


後から聞いた話では、この世界にはシーフという職業があり、《索敵》というスキルでモンスターの位置を特定できるらしい。


しかし、そのスキルは限定的で、基本的にはモンスターにしか使えないとのことだった。


「ではつまり、スラムに住む子どもも含めた200人の寄生虫保有者のうち、命に関わる急ぎの治療が必要な者を助ける、ということでいいのですね」


レインが話を整理する。


「そういうことだな」


ドラムが答えた。


「なるほど、分かりました」


(さすがレインさん。付与術師はサポート職でもあるからか、状況理解が早い)


「内容は分かってきたけど、そもそも寄生虫にかかると、どう命に関わるの?」


フェルミナが首を傾げる。


「レインみたいな付与術師なら、“何かしら”増強して元気にできそうだけど、治癒師の私には何ができるのかしら……」


「“何かしら”とは失礼だな、フェルミナ」


フェルミナに悪気はなさそうだが、レインは意外と神経質な部分があるらしい。


「ただ、フェルミナの言うことにも一理ある」


レインは話を続ける。


「付与術師である私の場合、人間やモンスターにかかわらず、生き物の身体能力を向上させたり、逆に減弱させたりして、戦闘を有利にすることを主に行う。そういう意味では、弱った身体を一時的に強めることはできるかもしれない」


少し間を置き、レインはフェルミナへ視線を向けた。


「一方で、治癒師は切り傷や骨折など、目に見える損傷を治すことはできても、病そのものを治すのは難しいというのが通例だ」


「そうよ。治癒師は万能じゃないの。救いたくても、救えないものがある……」


(何かを経験してきたからこそ出せる言葉だ)


それぞれが持つ思いや背景を、少しだけ感じた。


「そうですね」


僕は二人を見ながら言った。


「僕はまだ、治癒師や付与術師が行う魔法やスキルをよく知りません。なので、どのように一緒に活動できるかは、分からない部分が多いです」


フェルミナとレインがこちらを見る。


「ですが、苦しんでいる人を救いたいという思いは、共通していると思っています。まずは、その方向性で、できることを一緒に模索していくのはどうでしょうか」


「そんなこと言われたら、やるしかないじゃない……」


フェルミナが小さく呟く。


(綺麗ごとを並べすぎたかな……)


それでも、その言葉を否定する者はいなかった。


こうして、指名依頼《寄生虫症患者の回復》の顔合わせを兼ねた最初のミーティングは、目的を無事に共有して終了した。


そして三人は、それぞれの視点で南区のスラムを観察するため、現地へ向かうことになった。

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