46 救済チーム結成
「はい、お待ちどうさま。今日もパンとスープ、いるかい?」
「お願いします!」
宿の食堂で朝食を食べながら、昼食用にもパンとスープをもらう。
ただ、このパンとスープは、リノへ渡すことになるのだと思う。
今日は正午から、冒険者協会の依頼《寄生虫症患者の回復》について、チームメンバーとなる治癒師と付与術師との打ち合わせが予定されている。
初顔合わせなので、少し緊張している。
とりあえず、円滑な打ち合わせにしたい。
そのためにも、午前中のうちにスラムの状況を調べておくつもりだ。
改めて依頼内容を確認する。
「クエスト閲覧!」
ーーーーーー
現在進行中のクエスト・依頼
□ ワイルドボアを狩る(独自)
□ 世界の野菜図鑑(独自)
□ 世界の料理図鑑(独自)
□ 世界の生き物図鑑(独自)
□ セレノア風呂プロジェクト(独自)
□ 寄生虫保有調査(協会)
□ 寄生虫症患者の回復(協会)
ーーーーーー
(増えたな……)
「とりあえず、《寄生虫症患者の回復》っと」
ポチッ。
ーーーーーー
依頼名:寄生虫症患者の回復
達成目標:南区・スラムに住まう住民のうち、寄生虫症で重症となっている者を救う。
達成ボーナス:支部長からの信頼度が上がる、30万ゼニー
内容:南区およびスラム地区にて、寄生虫感染による重症患者が複数確認されている。特に栄養不足の子どもや負傷者を中心に、腹痛、衰弱、視力低下、発熱などの深刻な症状が広がっており、早急な対応が必要と判断された。本依頼では、治癒師・付与術師と協力し、重症患者の発見、症状の確認、応急処置、栄養支援、衛生指導などを行い、可能な限り命を救うことを目的とする。なお、感染拡大防止のため、水や食料の管理、生活環境への配慮も重要となる。アルセリア冒険者協会支部
ーーーーーー
依頼内容のポイントは、重症患者の発見。
そして、応急処置によって可能な限り命を救うことだ。
つまり、急ぎ命に関わる人へ対応し、経過観察でよい人は次へつなぐ。
どちらにしても、まずはスラムの寄生虫の状況と、水や食糧の状況を把握したい。
そんなわけで、僕は一人スラムへ向かうことにした。
◇
スラムは、いつもと変わらず独特の匂いがする。
原因はいくつかあるが、主にはゴミと池の水、そして糞尿だと思われた。
これらは、この地域の衛生環境を脅かす大きな原因でもある。
「おはよう、リノちゃん」
「おはよう、ノアさん」
まずは、リノのもとへ向かった。
「変わったことはなかった?」
「う、うん……実は……」
どうやら、リノと同じように暮らしている一人の子が、昨日の夕方から寝込んでいるらしい。
リノに案内をお願いし、急いでその子のもとへ移動した。
「ここだよ」
そこは、今にも倒れそうな建物だった。
家と呼べるかも怪しい、木材を無理やり組み合わせただけの場所だ。
「大丈夫?」
「うっ……うぅ……」
横になっているその少年は、とても苦しそうにお腹を押さえていた。
栄養も足りていないのだろう。
痩せ細っていて、目の下のクマもひどい。
「ちょっと見せてね」
僕は早速、スキル《臨床検査》を使った。
魔力の流れは非常に弱い。
そして、不自然な流れの歪みが腹部に集中している。
「寄生異物検査!」
続けて、魔力の流れがおかしい部分へスキルを使う。
(やはり、寄生虫か。しかもサイズが大きい……)
昨日見た白猫ミルクちゃんの寄生虫とは、明らかに大きさが違う。
(人間に寄生すると、ここまで大きくなるのか? もしそうなら、これはかなりまずい……)
前世の記憶とは違う。
やはりここは異世界であり、モンスターが存在する世界だ。
一見同じように見えた寄生虫でも、やはり違うのかもしれない。
とにかく、この子の場合は、複数の寄生虫が腸内で成長していた。
そして、それらが絡み合い、腸を詰まらせている。
物理的に取り除くことができればいい。
だが当然、この世界に外科医がいるわけではない。
魔法の力でどうにかなるのかどうかも、まだ分からない。
そして、僕自身のスキル《循環遮断》で、白猫のミルクちゃんのときのようにうまくいくのか。
人間と猫では違いすぎる。
「リノちゃん。この子は最近、ご飯を食べてる?」
「うん。マルとは、昨日ノアさんからもらったパンを分けて食べたの」
(名前はマルというのか)
(そして、なるほど……)
この世界のパンは硬く、とにかく消化が良いとは言えない。
それも関係しているのかもしれない。
(とりあえず、やるしかないか……)
僕は《臨床検査》で寄生虫に対象を絞り、魔力の流れを捕捉する。
そして、その生物がもともと持つ魔力へ干渉する。
「循環遮断!」
寄生虫の魔力の流れの中にある歪みへ焦点を当て、そこへ力を込める。
ピシッ。
ピシピシッ。
歪みが強くなっている。
さらに力を込める。
……
ブチッ。
「できた……」
《臨床検査》で再度寄生虫の流れを確認すると、魔力が胴体の途中で断ち切られていた。
そして、全身の魔力が徐々に弱まっていくのが見える。
(なんとか成功か。あと二匹……)
マルのお腹には、まだ二つほど反応が残っていた。
僕はそれらにも《循環遮断》を試みる。
ブチッ。
ブチッ。
大きな何かが切れるような音とともに、寄生虫の魔力が弱まっていく。
どうやら、この方法は人間に寄生した寄生虫にも有効らしい。
マルの顔色は少しやわらぎ、お腹の痛みもおさまってきたようだった。
(峠は越えたか)
「お兄ちゃん、ありがとう」
リノは自分のことのように、僕へ礼を言った。
マルとはいつも一緒にいて、兄弟のように過ごしているらしい。
「リノちゃん。とりあえず、マル君は少し落ち着いたと思う。見ていてくれる?」
「うん。私、やる」
「えらいね」
「また来るから、お願いね」
僕はマルをリノに任せ、スラムを調べることにした。
◇
リノとマルが暮らす今にも崩れそうな小屋は、池の周りだけで30軒ほど建っていた。
おそらく、この30軒がこの街で最も貧しい場所なのだろう。
池の水は変色し、異様な臭いを放っている。
池のすぐ近くには、ゴミ捨て場なのだろう、大きな丘のようにゴミが積み上がっていた。
井戸は、池の近くに一つ。
そして、池から離れた南側に一つ、北側に一つ。
おそらく、スラムに住む人たちは、この三つの井戸を生活用水として使っているのだろう。
「生命反応感知!」
スラムを範囲にしてスキルを使うと、200人ほどの人の反応があった。
(小屋は30軒なのに、人の数は200人を超えるのか……)
単純に考えると、一軒あたり6、7人で住んでいることになる。
続けて、寄生虫設定を加えて再度行う。
結果は、ほぼ全員に寄生虫の反応あり。
(やはり、かなり深刻だ)
30軒であれば、1軒ずつ回って《臨床検査》を使えば、体調を確認することもできると思っていた。
だが、人数が200人となると、かなりの時間がかかってしまう。
さすがに正午の打ち合わせに間に合わない。
そう考えていたところ――
(あっ、スラム全体を範囲にして《臨床検査》を使えばいいのか)
一度に大勢を見ることもできるのではないか。
そう思い、スキルを試す。
「臨床検査、中範囲!」
ブオン。
目の前にマップが表示され、200人近い生命反応が浮かび上がる。
ここまでは、ある意味《生命反応感知》と同じだった。
だが、その反応の上に、緑色や黄色のゲージが表示されている。
中には赤色のゲージもあった。
(これは……住民の生命力ゲージか?)
おそらく、緑は安心。
黄色は注意。
赤は危険。
直感的にそう感じた。
そして、リノとマルが住む小屋の反応二つを見る。
黄色のゲージが一つ。
赤色のゲージが一つ。
ちょうど見ていたその時、赤色のゲージが黄色へ変わった。
(やはり、これはリノとマルだな。どうやら先ほどの《循環遮断》が機能したらしい)
(天の声)
《スキル《エリア臨床検査》を獲得しました》
(これで、寄生虫症で重症になっている人を簡単に探し出せる)
次の活動への方向性が見えた瞬間だった。
僕は一度スラムを後にし、中央区へ向かうことにした。
◇
冒険者協会の二階には、会議室がある。
普段はあまり使われない部屋らしい。
重要な依頼を決めるための会議や、人目を避けて報酬を渡す場合など、特別な時に使われるそうだ。
そして今回のスラム救援依頼のミーティングは、その会議室で行われた。
参加するのは、支部長ドラム。
治癒師のフェルミナ。
付与術師のレイン。
そして――風呂屋、もとい武闘家の僕。
合計四人だ。
時間ギリギリに到着した僕は、一番最後に部屋へ入り、椅子に座った。
少しピリッとした空気の中、ドラムの一声でミーティングが始まる。
「では、自己紹介から始めようか」
読んでいただきありがとうございます!
面白かったらブックマーク・評価いただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




