04 発症と死
「身体が重い……」
いつも通り、スマホのアラームで目を覚まして、起きようとするが、身体の異変に気づく。
「これはやってしまったかもしれない・・・」
感染症外来で働いていたのだから、当然ながら自身も感染したのではと頭をよぎった。
すぐに体温計を探し測る。
ーー38.5度。
「まだ思ったほど高くないが、これから上がりそうだ…」
スマホを手に取り、職場の先輩へLINEを送る。
朝七時。当直の技師が一人いる時間帯だ。
こういうときは、まず同僚へ連絡するのが暗黙のルールとなっている。
「おはようございます、先輩、LINEですみません」
「おっ、おはよう」
「どうやら、やっちゃったようです……(汗)」
「ん!?まさか陽性?」
「いや、検査キットでは判定してませんが、発熱中です」
「高い?」
「まだ38度台ですが、上がりそうな感じです」
「そうだろうな。今日は自宅療養でいいと思う。技師長に伝えておくよ」
「ありがとうございます。すみません」
「で、1人で大丈夫かい?」
「たぶん……大丈夫です。これでもまだ若いですし」
「じゃあ、もし何かあれば、連絡してね」
「ラジャーです。」
ーーひとまず、これでOK。
国内では、高齢者の重症化は報告されているものの、若年層の重症例はまだない。
(大丈夫だろう)
そう判断した。
医療者の端くれとして、栄養補助食品くらいは常備してある。
それで乗り切れるはずだった。
◇
一眠りして、全身の倦怠感と息切れで目が覚める。
「どうやら寝ていたようだ・・・」
早速、体温計を測ると39.5度。
「いよいよ、やばいなぁ。こんなに高いのいつぶりだろう…」
と思考してみるも、集中できない。
「そういえば……昔、喘息が……」
その瞬間、視界が揺れて、輪郭がぼやける。
意識が、沈んでいく。
「これはまずいかもしれない・・・」
◇
――次に気づいたとき。
そこは、真っ白で何もない空間だった。
白い。ただひたすらに白い。
いや、正確には――そう“感じている”だけなのかもしれない。
時間の流れがない。重力も、感覚も、曖昧だ。
立っているのか、横になっているのかすら分からない。
「……これが、死ぬっていうことなんだろうか」
不思議と、苦しさはない。
むしろ、どこか穏やかで、静かだった。
――それでも。
思考だけは、止まらない。
「どうして、救えなかった?」
「違和感に、気づいていたのに」
「もっと早く伝えていたら……」
後悔だけが、はっきりと残っている。
「……こんなことで、終わるのか」
「私は……何もできなかったのか」
……
……
……
そのとき。
どこからか、声がした。
年配の男の声。
遠くから、呼びかけるような。
◇
次の瞬間。
身体が、引き寄せられるような感覚。
まぶしい光が、全身を包み込む。
抗うことはできない。
ただ、流されていく。
――そして。
……
……
再び、目を開けた。
そこは、見知らぬ世界だった。
どこかで見たことのある光景。いや、知っている。
何度も、画面越しに見てきた。
「……これ、異世界転生ってやつか」
恐怖は、不思議と少なかった。
それよりも。
ほんの少しだけ。
――高揚している自分がいた。
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次回もよろしくお願いします。
いよいよ異世界となります。




