表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/84

35 冒険者協会への訪問

ぐぅー。


お腹が鳴った。


気づけば、すでに昼を過ぎている。

太陽はすっかり頭の上だった。


「……まずは腹ごしらえだな」


僕は、昨日釣ったイトウを思い出す。


あの大きさだ。

このまま放っておけば、腐って大惨事になる未来しか見えない。


せっかくなら、美味しく食べたい。


そう思い、持ち込み食材を調理してくれる店を探すことにした。



広場に面している飲食店は、大きく三つ。


一つ目。


格式高そうなレストラン。


赤い絨毯。

磨き上げられた窓。

客の身なりも、見るからに裕福そうだ。


昼食時を少し過ぎているにもかかわらず、店内にはまだ客が残っている。


(人気店なんだろうな……。でも、持ち込みは断られそう)


二つ目。


大衆食堂。


客はまばらで、地域密着型という雰囲気。

入りやすさは抜群だ。


融通も利きそうではある。


ただ――


(最高の食材を、“最高の料理”にしてくれるかは微妙……)


そして三つ目。


店頭には、シェフと思われる男の大きな立て看板。


両手を大きく広げ、


「いらっしゃい!」


と、今にも飛び出してきそうな勢いだ。


少しふくよかな体型。

白い割烹着のような服。


(これ、絶対どこかで見たことあるやつだ……)


妙な既視感があった。


中々に悩ましい三択である。


(確実に美味いのは一つ目。でも断られそう。二つ目は安定。なら――)


僕は、三つ目の店へ入ることにした。



「いらっしゃいませ! ようこそ割烹どーみんへ!」


(なるほど、そういう感じのお店ね)


店内に入るなり、威勢のいい声が飛んできた。


「一名なんですが、食材持ち込みでも料理してもらえたりしますか?」


「持ち込みですか……。ちょっと店長に聞いてきますので、少々お待ちください」


しばらくすると、白い割烹着を着た、少しふくよかな男が現れた。


「お待たせしました。お客さん、食材持ち込みですか?」


「はい」


「うちは基本、そういうのやってないんですよ。目の前が市場ですからね。自分の目で食材を選んで仕入れてるんです」


(やっぱり難しいか。別の店にするか……)


そう思った、そのとき。


「ちなみに、お客さん。どんな食材なんです?」


「ええっと、魚なんですけど……これです」


ドカッ。


僕はカバンからイトウを取り出し、机の上へ置いた。


「ひぇえええっ!?」


男の目が見開かれる。


「こ、これ……イトウじゃないですか!?」


「あっ、そんな名前でしたね」


「これをどこで!?」


「昨日、川で釣ったんです。けっこう大きいですよね」


「けっこうどころじゃありませんよ!!」


男は急に真顔になった。


「……なるほど。事情は分かりました」


そして、胸に手を当てる。


「私、ドン・ドーミンの名にかけて、このイトウを最高の料理へ仕上げましょう」


(あれっ、急にOKになった)


「いいんですか? じゃあお願いします」


「もちろんです。お客様は、この食材の価値をご存じないようですので、申し上げますと――」


ここから、軽く十五分ほどの“イトウ講座”が始まった。


なお、長いので詳細は省略する。


とにかく、


・イトウは非常に貴重

・サイズが大きいほど価値が高い

・鮮度も重要

・昨日釣った程度なら全く問題なし

・むしろ奇跡レベル


……という話だった。


「では、これからイトウのフルコースを準備いたします!」


「あっ、もし良かったらなんですが……」


僕は少しだけ遠慮がちに言った。


「昼は軽めに食べられる料理にして、夜にフルコースをいただく……みたいなことって可能ですか?」


「……なるほど!」


ドン・ドーミンは、腕を組んで頷いた。


「確かに、その方が良いですね。しかも、このサイズだと一人では食べ切れません。二、三人で食べるのが理想でしょう」


「助かります」


「ではまず、昼食用の一皿をお作りします。少々お待ちください!」


「お願いします!」


その瞬間。


(天の声)

《独自クエスト『幻のイトウ料理を食べる』が設定されました》


「また来た!」


突然のクエスト出現である。


(いや、これ普通に今日達成されるやつでは?)


そう思いつつ、内容を確認する。


「クエスト閲覧」


ーーーーーー

現在進行中のクエスト

□ ワイルドボアを狩る

□ 世界の野菜図鑑

□ 世界の料理図鑑

□ 世界の生き物図鑑

□ 幻のイトウ料理を食べる

ーーーーーー


「『幻のイトウ料理を食べる』っと」


ポチッ。


ーーーーーー

クエスト名:幻のイトウ料理を食べる

達成目標:仲間たちとイトウ料理のフルコースを食べる。

達成ボーナス:

・料理をしたシェフの評判が国中に広がる

・一緒に食べた人間との関係が最高に良くなる

内容:

幻の淡水魚とも呼ばれるイトウ。そのフルコースには、魚の大きさと鮮度が重要となる。その味は至高であり、食すことは誰もが羨む最高級の贅沢である。国賓をもてなす料理としても相応しい。

ーーーーーー


「なんだこのボーナス……!」


思わず声に出た。


関係性が最高に良くなる。

しかも、シェフにまで効果がある。


(思わぬ魚を釣ったな……)


だが同時に、別の問題が浮上した。


(……誰を誘えばいいんだ?)


父上と母上を急いで呼ぶわけにもいかない。


そういう意味では、確かに“クエスト”だった。



しばらく考えていると、料理が運ばれてきた。


「イトウの香草グリルサンドです」


「おおー!」


「イトウは身が厚く、火を入れても崩れにくいのでグリルに最適なんです。香草と岩塩で炙り、地元野菜と一緒にパンへ挟みました。ソースは柑橘系果実とオリーブオイルを合わせています」


説明を聞くと、なぜかさらに美味そうに感じる。


「野菜スープもどうぞ」


「ありがとうございます」


僕は大きく口を開け、そのまま頬張った。


パクッ。


「……うまい!」


シェフは満足そうに頷き、厨房へ戻っていく。


(やっぱり食材の質って大事なんだな……)


サーモンより白く透明感のある身。

ほろりと崩れる柔らかさ。


脂が温かいパンへ染み込み、柑橘ソースが後味を軽くしている。


サンドという手軽な料理なのに、妙に上品さが残っていた。


それが、イトウという魚なのだろう。


「ご馳走さまでした」


僕は代金を支払い、夜に再び訪れることを伝えた。


料理は500ゼニーだったが、普通に食べたら2000ゼニー以上とのことだった。


(イトウ様様だな)


そんなわけで目的地の冒険者協会へ向かうこととした。



冒険者協会の建物は石造りで、この広場では教会の次に歴史を感じる建物だった。


正面の扉は重厚そうで、見るからに古い。


遠目に見ていた限りでは、人の出入りはそこまで多くないようだ。


(日中だからかな……)


初めての場所には、少し勇気がいる。


僕は小さく気合いを入れ、扉を開けた。


ガチャ――ギィー……


「(小声)おじゃましま……」


予想に反して、中はかなり静かだった。


左手には受付カウンター。

職員らしき人が数人。


右手には食事兼酒場スペースがあり、ガタイのいい男たちが2、3人昼間からエールを飲んでいる。


そして正面には、大きな円柱型の柱と掲示板。


そこ一面に、無数の紙が貼られていた。


(これが……クエスト掲示板か)


一気に“冒険者感”が増した。


「すみません」


僕は受付へ声をかける。


「はい、なんでしょうか。……あれ? 冒険者の方ではなさそうですね」


「はい。初めて来たんですが……」


「冒険者希望の方ですか? よろしければ、ご説明しましょうか?」


「ぜひお願いします」

読んでいただきありがとうございます!

面白かったらブックマーク・評価いただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ