34 トーヨコ亭
「こんにちは・・・」
「いらっしゃいませ、お客様。ご宿泊ですか?」
「あっ、はい。お願いします」
レナム村での「パーソナルスペースゼロ接客」を経験していた僕は、ちゃんとした接客に、逆にかしこまってしまった。
これが普通なんだと思う。
ただ、変な慣れがついてしまっていた。
「お部屋ですが、トーヨコ亭では3種類のお部屋をご用意しております」
受付の女性は、丁寧に説明してくれた。
「他のお客様と相部屋になるお部屋が、1泊1500ゼニー。こちらは2階です。
お一人でお泊まりになる個室が、1泊4000ゼニー。こちらは4階です。
三名様までお泊りいただける個室が、1泊6000ゼニー。こちらは3階です」
「僕、1人なので4階の個室をお願いできますか」
「はい、もちろんです。何泊されますか?」
「とりあえず、7日間でお願いできますか?」
「承知しました。では、28,000ゼニーとなります。こちらはお部屋の鍵です。404号室となります。向こうの階段よりお上がりいただけます」
「あの、ちなみに食事ってどうなってますか?」
「失礼しました。お食事は別料金となります。
朝食ですと1回500ゼニー、夕食でしたら1回1500ゼニーです」
「宿代には含まれていないんですね」
「はい。別料金となります。ちなみに、前払いではなく、その都度お支払いいただくことも可能です」
「あっ、そうなんですか。でしたら、都度払いにします」
「承知しました。食堂はこの階のあの奥の部屋となります。ご自由にお越しください」
(宿屋によって、仕組みが違うんだな)
僕は宿代を支払い、いったん荷物を置きに自身の部屋へ向かうことにした。
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お金
・38,200ゼニー(セレノア通貨)
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◇
「ふぅー……」
……。
(そうだった。この世界にはエレベーターなんてないんだった……)
レナム村からアルセリアまでは、平坦な道のりだった。
とはいえ、距離としてはそれなりにある。
そんな長距離移動のあと、まさか宿で階段を4階まで上がることになるとは思わなかった。
(無駄に部屋に戻るのはやめておこう……)
404号室の前に着き、鍵を差し込んで右へ回す。
ガチャ。
扉が開き、部屋の中が見えた。
ベッドと机。
そして大きな窓。
トイレや手洗いは、もちろんない。
ただ、これがこの世界では標準なのだろう。
机の上にカバンを置き、窓に近づきカーテンを開ける。
「わぁー」
広場を見渡せる。
しかも、小さなバルコニーまで付いている。
(これ、外に出られるのかな)
窓を開けると、涼しい風が勢いよく吹き込み、広場の喧騒が部屋の中へ流れ込んできた。
僕はバルコニーに出て、広場を見下ろす。
「4階は正解だ。最高の見晴らしじゃないか」
さっきまでの階段への文句は、どこへやら。
僕は、この部屋がすっかり気に入ってしまった。
広場の市場が見渡せる。
広場に面した様々なお店も見える。
もちろん、教会の美しい建物もだ。
(朝は朝で良さそうだし、夜は夜でまた違って見えるんだろうなぁ……)
気分が上がっていた。
前世では海外旅行なんてしたことなかったが、こういう感じなのだろうか。
悪くない。
そんなわけで、最小限の荷物だけを持ち、街へ繰り出すことにする。
僕は再び階段を降り、1階の受付へ戻った。
◇
「こんにちわ、お客様。どのようなご用件でしょうか?」
「聞き忘れてたんですが、ここでは水桶と水は使えるんですか?」
「んーっと、あっ!お風呂ですね!」
「えっ!?お風呂あるんですか?」
「はい。ありますよ。ただ、この宿ではなく、誰でも使える共同浴場が川の近くにあるんです」
「なんと!それは楽しみです。どのあたりですか?」
「では、この街の地図をお渡ししますね。こちらをどうぞ」
「ありがとうございます!」
「この街は塀で囲まれているのですが、街の中を北から南へ一本の川が流れていまして……」
「はい」
「このあたりです。ここに共同浴場がありますので、ぜひお立ち寄りください。ただ、時間には注意してくださいね」
「ん?」
「浴場は朝と夜の2部制なんです。多くの住民は朝に行きます」
「皆さん、朝に行かれるのですね。なんで夜には行かないんですか?」
「やってはいるのですが、夜は冒険者の方も多いですし、少し騒がしいので……」
(んー。でも、それって普通のような気もするけど……)
「ありがとうございます。あと、もう1つ聞きたいのですが」
「はい、何でしょうか」
「冒険者ギルドってどこにありますか?」
「ギルド?あっ、冒険者協会ですね!でしたら、すぐそこですよ。この広場の正面に教会がありますよね。その隣の、少し古い建物です」
「もしかして、旗が掲げてあるところですか?」
「そうです!お気づきになられましたか。その建物です」
「ありがとうございます」
「あっ、ちなみに。冒険者になられるんですか?」
「いや、知り合いがいるので少し覗いてみようかと思ってまして……」
「あっ、そうなのですね。いえ、冒険者になるためには成人である必要があるので、余計な詮索を失礼しました」
「いえいえ。見た目はこんなんですけど、僕もいちおう成人ではあるんですよ」
にこやかに答える。
「でしたら、冒険者にもなれますね。あっ、またまた失礼いたしました」
「ははは……」
(冒険者、やっぱりなったほうが動きやすいよなぁ)
僕はまだ冒険者になるかは決めていない。
仕組みがわかっていないし、協会の雰囲気を見てからにしようかと思っている。
「ありがとうございました。では、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
有益な情報を得た僕は、早速、街へ繰り出すことにした。
(とりあえず、まずは冒険者協会へ行ってみよう)
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