33 始まりの街アルセリア
「えっ、並んでる?」
予想を反して、アルセリアは石材で造られた、そこそこの高さの塀に囲まれていた。
門は開閉式でしっかりしており、そこには門兵らしき人たちが立っている。
さらに、街へ入るために並ぶ人々の列まであった。
近づいてみると、列に並んでいるのは、近隣の村や街から来た商人や物売りたちのようだった。
大きな荷車と馬が、そこかしこに停められている。
「すみません。これって、みんな並ぶんですか?」
念のため、一番後ろにいた人に聞いてみた。
「あっ、これかい。いやいや、旅人や住民、冒険者なんかは並ぶ必要ないよ」
「あっ、良かった。そうなんですね!
で、この列って、ちなみに何ですか?」
「これはね、売り物みたいな大きな荷物を持って入る場合の確認作業なんだよ。
荷車や馬の置き場も確保しないといけないからね。
こうやって街に入る前に、商人協会の人が確認してるんだ」
(なるほど。そういえば、レムナ村の武器屋の主人が商人協会のこと言ってたっけ……)
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえー」
僕はお礼を言って、列を横目にそのまま門へ向かうことにした。
並ばずに入れることに、少しだけ優越感のようなものを覚える。
それはさておき、列の先頭で確認作業をする商人協会の人を見るとーー
(けっこう良さそうな身なりしてるんだなぁ)
商人が裕福だということは、それだけ商いが盛んということだ。
つまり、この街に住む人たちにも活気があるだろう。
ここでも、今までにできなかった経験ができるかもしれない。
期待が更に膨らんだ。
◇
頑丈な塀、衛兵の前を横切り、門をくぐって街へ入る。
「安いよー安いよー」
「そこお兄さん、見てってよ!」
「300ゼニーになります」
「わぁーい!!」
…
…
ワイワイ、ガヤガヤ…
ワイワイ、ガヤガヤ…
中央広場へまっすぐ続く道には、たくさんの店が並んでいた。
看板には、フォークとスプーン、樽、パン、豚、盾など、さまざまなマークが描かれている。
店先にはテーブルやイスが置かれ、街の住民と思われる人たちが食事を楽しんでいた。
(これが街というものか…)
僕は、はじめて見る本格的な街に軽く感動していた。
ここまでたくさんの人を一度に見たことはない。
いい意味で騒がしく、活気がある。
そして、西洋風の街並みが、いっそう異世界感を強めていた。
(どの店もゆっくり見て回りたいなぁ)
そんなことを思いつつも、まずは今日の宿探しだ。
僕はメインストリートをまっすぐ進み、広場へ出ることにした。
◇
「おおー!」
大きな広場には、たくさんの屋台が並び、市場のようになっていた。
野菜や果物、パンや肉。
土産物、骨董品、さらには武器や防具まである。
中でも、ひときわいい匂いを漂わせている屋台があった。
何かの肉を焼いているようだ。
香ばしく、少し甘辛いような匂いがあたりを包んでいる。
「これは買わねば!」
つい口に出してしまうほどだった。
匂いの源へたどり着くと、そこに並んでいたのは、小さな肉をいくつも串に刺して焼いた食べ物だった。
(これは、もしかして…)
「おじさん、これ一本ほしいんだけど、このお肉って……」
「まいどあり。これはヒナドリさ。こうやって炭で焼く、というか炙ると、とても美味いんだ」
「分かります。これはヤバいやつですね」
心の奥から頷いている自分がいた。
「1本100ゼニーだよ」
お金を渡して、1本購入する。
そして、待ってましたとばかりに頬張った。
パクッ。
「うっ、うまい!」
正直、この世界に来て、焼き鳥を食べる機会があるとは思っていなかった。
だからこそ、余計に美味しさが込み上げてくる。
味は、素朴な塩味。
だが、素材の新鮮さと火加減の具合だろうか。
柔らかさは絶妙だった。
「僕はタレより、塩派なんですよねー」
「ん?何か言ったか?」
「あっ、なんでもありません……」
つい、独り言を口に出してしまった。
この世界には醤油はないし、焼き鳥のタレもない。
多分。
少なくとも、実家にはなかった。
以前暮らしていた日本という国の食事が、どれだけ恵まれていたのか。
この世界に来てから、つくづくと思う。
そんなわけで、料理図鑑に「ヒナドリの串焼き」が加わるのであった。
◇
広場は、円形状になっていて、その周りをぐるりと建物が囲んでいる。
宿屋や食堂に加え、見たことないマークのお店もちらほらある。
そして、最も目を引くのは教会だった。
何かしらの神を信仰するための建物なのだろう。
大きく、そして美しい。
(それにしても、教会って立てるのにお金かかりそうだよなぁ)
教会だとすぐに分かるのは、正面の大きな扉と、その上に彫られた数々の石像。
さらにその上には、ステンドグラスと思われる丸い大きな窓がある。
左右には一本ずつ高い塔が立ち、三角屋根が特徴的だ。
僕から見れば、ヨーロッパの有名な教会をそのまま再現したような建物に見えた。
(対照的に、隣の古い建物も気になるな……)
教会の右側、道を挟んだ隣には、少し歴史を感じる建物があった。
その建物には看板はない。
ただ、扉の上に旗が掲げられており、そこには特徴的なマークが描かれていた。
「あのマークなんだろう……」
少し近づいてみる。
「あっ、剣か。いや、何かに刺さってるな……」
(あれは板か何かかな。いや剣なら盾なのか?)
不思議なマークだった。
地面に置かれた板のようなものの真ん中に、上から剣が突き刺さっている。
伝説の勇者の剣が岩に刺さっているような構図だが、岩ではなく平たい板のように見える。
(不思議だなぁ。どういう意味なんだろう)
結局、マークを見ただけでは何の建物なのか分からなかった。
◇
広場をぐるりと回ったあと、僕はひとまず宿屋で部屋をとることにした。
荷物を置いてから、改めて街を散策する。
それが今日の流れだ。
宿屋は外見からして5階建てほどあり、煉瓦造りのかなり立派な建物だった。
看板には「INN」の文字と、酒樽のマークが見える。
その宿の名前はーー
「トーヨコ亭」
(何かデジャブ感…)
とりあえず、僕は店のドアを開けた。
読んでいただきありがとうございます!
面白かったらブックマーク・評価いただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




