32 街道を通じて
レムナ村を出発し向かうのはアルセリアというこの地方でも比較的大きな街。
街道はしっかりと整備されている。
ライ麦畑が見渡す限りに広がり、この国で農業が盛んなことが感じられる。
このライ麦は、パンの原料であり、主食となっているが、白いふわふわの小麦パンと比べると少しクセのあるパンとも言える。
ただ、ライ麦の生産が盛んなのは、小麦と比べて寒さに強く、栄養が十分でない土壌でも育つという特性が関係している。
そんな道中。
目的地までは、ゆっくり歩くと約2日。
僕は地域を観察しながら、のんびり向かっている。
◇
数時間歩くと、街道を行く人たちのための休憩所がある。
僕は立ち寄り、休憩をとることにした。
そこには、幾つかの馬に引かせた荷車が止まっており、その主人たちは水飲み場の周りで会話していた。
「こんにちは」
僕が声を掛けると、荷車の持主である男は気さくに返事をした。
「おう。旅人かい。アルセリアに行くのかい」
「はい」
「そうかい。俺は畑で取れたもんを売りに行くところなんだ。今年は豊作でね」
荷車の中を見せてもらうと沢山の野菜が積んであった。
「これなんて言う野菜ですか」
「知らないのかい!
もしかしてお貴族さまか?まぁそんなわけないか」
その男は笑っていたが、僕は内心ドキッとした。
冗談だったようだ。
「そっちがキャベツで、そこのがそら豆、そしてこっちが玉ねぎだな。
今年は豊作でね。街が楽しみだよ」
(野菜の名前は転生前と同じなのか・・・)
「すごい量ですね」
「そりゃそうさ。街にはそれだけたくさんの人が住んでるってことさ」
アルセリアという街への期待が大きく膨らんだ。
その男は、馬の水分補給が済んだとみるや、支度をして街へ向かっていった。
◇
さらに歩くこと数時間。
今度は、歩いている最中に後ろから大きな荷台を引っ張る別の男が現れた。
荷台の上には黒ずんだ大きな袋がいくつも載っていて、近づくにつれて、わずかに焦げたような匂いがした。
「こんにちは。それって、炭かなんかですか」
「おうよ。よく分かったな! 山で焼いたやつだ」
男は袋を軽く叩いた。
「アルセリアじゃ、鍛冶屋もあるし、食堂も幾つもあるからけっこう売れるんだ」
手を見ると煤でいっぱいだった。
「でも、結構大変そうですね」
「ははは、まぁな。
でも、火はどこでも使うだろ。だからこの仕事はなくならねぇんだ」
確かにそうかと思う反面、魔法使いがいれば、火は心配ないのではとも思った。
ただ、それも魔法使いが何処にでもいるわけではないかと思い、口には出さなかった。
「料理には欠かせないですね」
「おっ、よく分かってるじゃないか。普通の薪でも良いんだが、炭だと長時間持つし、火力が安定するしな。そういう料理にはもってこいだ」
「ちなみにアルセリアの料理で食べておいた方が良いものとかあります?」
「もちろん、それは炭で焼いた「ヒメドリの串焼き」だろうよ。エールに合う」
美味しそうだ。
頭の中で焼き鳥とお酒のセットが思い浮かぶ。ここは異世界ではあるが・・・
「ありがとうございます!」
「では、先に行くよ」
さらに街への期待が膨らんでいた。
◇
陽が傾き、そろそろ野営地を探したいなぁと思っていた。
街道沿いであれば、夜でも比較的安全なようで、僕以外の街に向かうのだろう人達もポツポツとキャンプをはじめている。
川の近くに僕も陣を取り、今日の寝床を決めた。
既に1年近く森でのサバイバルを経験しており、このぐらいは朝飯前だった。
「というか川もあるし、釣りして食材ゲットするかな」
「生命反応感知!」
ビクン!
意外と大きな魚の反応があった。
これは期待できる。
スっと釣竿を出して、川へ糸を垂らす。
ツン。
ツン。
ツンツン。
ボコっ!
ウキが急激に沈んだと同時に、竿を勢いよく立てる。
「うぉりゃ!」
竿を大きく曲がる。
すごい引きだった。
「こっ、これはおおきいぞっ」
過去一の引きだった。
力ずくで引き抜くのは難しそうな強さで、しばらくの間、戦った。
その結果、見事に1m近い魚を釣り上げたわけだ。
「クエスト!」
「世界の生き物図鑑っと…」
新たな魚が追加されていた。
ーーーーーー
生物名:イトウ
種別:魚
生息地域:川
レア度:A
脅威度:D
特徴:大型の淡水魚で、川の主とも呼ばれる存在。流れの速い清流を好み、岩陰や深みで静かに潜む。肉食性で、小魚や水生生物を捕食するため、縄張り意識が強い。魔力の流れは太く緩やかで安定しており、個体によっては長い年月を生きていることがうかがえる。食材としても価値が高く、脂の乗った身は滋養に富むとされる。生食は美味。
ーーーーーー
「生食は美味!?」
当初は、自身で簡単な調理をして食べる予定の食材確保だった。
ただ、思わぬ大物だったため、街でちゃんとした料理でいただくことにした。
◇
翌日も、朝からアルセリアへ向けて歩く。
少し歩いたところで、甘い匂いが風に乗ってきた。
見ると、小さな樽をいくつも抱えた女性が歩いている。
「それは……?」
「蜂蜜よ。山で採れたものを売りに行くの」
優しく微笑む。
「今年は花がよく咲いたから、出来もいいのよ」
樽の蓋を少しだけ開けると、
とろりとした黄金色が覗いた。
「子どもたちも楽しみにしてるの。パンに塗ると美味しいから」
そう言って、女性は足早に街の方へ向かっていった。
(蜂蜜……保存も効くし、栄養もある。バターと一緒にパンの上に乗せて・・・)
思わず、頭の中で使い道を考えてしまう。
◇
行き交う人々は、それぞれに目的があった。
野菜を運ぶ人。炭を担ぐ人。蜂蜜を売る人。
そして、12歳で実家を飛び出した少年。
誰もが、アルセリアへ向かっている。
「……街っていうのは」
小さく呟く。
「人が集まる場所、ってだけじゃないんだな」
もちろん、森で一人で生きることもできる。
だけど、この道を行く人たちがいなければ、街の生活は成り立たない。
食べ物も、火も、甘いその匂いも。
全部、どこかの誰かが作っている。
そして、それが集まる場所が、次の目的地「アルセリア」。
遠くに、街の影が見えてきた。
「……いよいよか」
僕は、少しだけ歩幅を広げた。
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