31 観測の、その先へ
数日後。
村は、落ち着きを取り戻していた。
隔離は機能し、感染の拡大は止まった。
軽症者の多くは回復し、日常が少しずつ戻り始めている。
畑には人が戻り、子どもたちの声も聞こえるようになった。
「助かったな……」
「あのとき隔離してなかったら、全滅だったかもしれねぇ」
村人たちの間では、そんな言葉が交わされていた。
「ノアのおかげだ」
「いや、トマスさんとノアだな」
僕の名前も、自然とそこに含まれていた。
「本当に助かったよ」
「ありがとうな」
声をかけられる。
頭を下げられる。
――評価されている。
それは、はっきりと分かった。
だが――
(……違う)
僕の中では、何かが噛み合っていなかった。
(救えたのか……?)
確かに、村は守られた。
だが――
トマスは死んだ。
最初に倒れたあの村人も。
他の重症者たちも。
(間に合っていない)
そう思ってしまう。
(もっと早く気づけていれば……)
(もっと正確に判断できていれば……)
助けられたかもしれない命。
その可能性が、頭から離れなかった。
そして――
「おじいちゃんも……助けてほしかったな……」
というミーナの言葉。
それが、胸の奥に深く刺さったまま、抜けない。
(天の声)
《クエスト「目に見えない村での脅威」を達成しました》
《報酬:スキル《小規模感染症の極意》を取得しました》
自身の想いとは裏腹に、天の声は1つのイベントの終わりを告げた。
◇
夜。
村から離れた森の野営地。
川辺に座り、水面に映る星空を見つめる。
平和な日常は、決して永遠ではない。
視線を、森の奥へ向ける。
(ぜんぜん足りない)
知識。
技術。
信頼。
そして――判断の速さ。
「次は、間に合わせる」
誰に聞かせるでもない言葉。
だが、それは確かな決意だった。
◇
僕は、この場所でのサバイバル生活を終えることを決めた。
そして向かう先は――
冒険者と商人が集まる中規模都市、アルセリア。
ザック、ケイト、ミリスがやってきた街。
そこには冒険者ギルドがあり、冒険者になることもできる。
様々な知識と技術を得られる可能性。
それが、あの場所にはある。
(この世界を、もっと知る)
そして――
(強くならないといけない)
戦うためだけではない。
人の命を救うために。
僕のユニークスキル《臨床検査》。
まだ、この力は未完成だ。
Stage1――観測系。
その先は、まだ見えていない。
そして――
僕の生まれた国、辺境国家セレノア。
この国の医療は、明らかに未発達だ。
村で起きたことは、きっと例外ではない。
同じような問題が、あちこちで起きているはずだ。
「……行こう」
一歩、踏み出す。
それは、ただの移動ではない。
次の段階へ進むための――
“選択”だった。
(第2章 村での暮らし 完)
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