36 冒険者の仕組み
「では、まず“冒険者”についてご説明しますね」
受付の女性は、慣れた様子で一枚の紙を取り出した。
年齢は20代半ばくらいだろうか。
紺色の制服に、丸い眼鏡をかけている。
髪は茶色のボブだ。
「冒険者というのは、一言で言えば――」
少し間を置いて、にこりと笑う。
「国や街、あるいは個人から依頼を受けて働く、“登録制の専門職”です」
「専門職……」
「はい。モンスター討伐だけをイメージされる方も多いのですが、実際にはそれだけではありません」
女性は指を折りながら説明していく。
「例えば――」
・モンスター討伐
・薬草採取
・護衛依頼
・街道調査
・素材採集
・遺跡探索
・荷物運搬
・人探し
・害獣駆除
・開拓支援
「……などなど。仕事内容は多岐にわたります」
「なるほど……」
(思ったより幅広いな)
「冒険者協会は、それらの依頼を仲介・管理する組織です。依頼者と冒険者を繋ぐ役割ですね」
「つまり……」
僕は少し考えてから言った。
「冒険者って、“何でも屋さん”みたいな感じですか?」
「ふふっ。かなり近いですね」
受付嬢は楽しそうに笑った。
「もちろん、危険な仕事も多いですが、その分、実力次第で大きく稼げますし、自由度も高いです」
「自由度……」
「はい。どの街へ行くか。どの依頼を受けるか。どんな生き方をするか。かなり個人の裁量に任されています」
(確かに、ザックたちも自由そうだったな……)
「あと、冒険者になるメリットとしては――」
彼女はさらに説明を続ける。
・各都市への出入りがしやすくなる
・協会経由で仕事を得られる
・素材の買取価格が優遇される
・宿屋や商店で信用を得やすい
・一定ランク以上で特別依頼が受けられる
「特に辺境では、“冒険者”という肩書き自体が信用になることも多いですね」
「へぇ……」
(思ったより社会的地位あるんだな)
「ちなみに、冒険者にはランクがあります」
「ランク?」
「はい。下から順に、F、E、D、C、B、A、そしてSランクです」
「おお……」
急にゲームっぽくなった。
「新人は全員Fランクからスタートです。依頼達成数や実績、貢献度などで昇格していきます」
「ザックたちはどれくらいなんですか?」
「ザックさん?お知り合いでした? 確かCランクだったはずですね」
(あの三人でCランクか……)
それが高いのか低いのか、まだよく分からない。
「ちなみに、ランクが上がると受けられる依頼も増えます。危険度の高い依頼は、一定以上のランクが必要になりますので」
「なるほど」
「あと、冒険者登録時には“職業”の登録も行います」
「職業?」
「はい。“剣士”“弓使い”“魔法使い”“盾役”“治癒師”などですね。もちろん複数技能を持つ方もいます」
(RPGだ……)
思わず、そんな感想が浮かぶ。
「これは、依頼の際にパーティ編成を考えやすくするためでもあります」
「じゃあ、僕みたいなのは……?」
「スキル次第ですね。もし戦闘系でなければ、“支援系”や“調査系”の何かで登録することが一般的です」
(調査系か……)
少しだけ、しっくり来た。
「ちなみに、冒険者になるための条件ってあるんですか?」
「基本的には12歳以上であること。そして、スキル鑑定を受けていることですね」
「やっぱりそこは必要なんだ」
「はい。あと、犯罪歴や重大な問題がないこと。簡単な面談もあります」
「なるほど……」
思ったより、ちゃんとした制度だった。
◇
「それで、“クエスト”っていうのは?」
僕は中央の掲示板を見る。
紙がびっしり貼られている。
「あれが依頼書です」
受付嬢が頷いた。
「正式には“依頼”ですが、冒険者たちはクエストと呼ぶ方が多いですね」
「どんなクエストがあるんですか?」
「Fランクでしたら――」
彼女は掲示板の下の方を指差した。
「例えば、こういうものですね」
・薬草採取
・街周辺の見回り
・荷物運搬
・農作業補助
・川魚の納品
・森での素材採集
・簡単な清掃作業
・迷子のペット探し
「えっ、普通の仕事もあるんですね」
「ありますよ。むしろ新人は、まず街に慣れるところから始まりますので」
「ちなみに、モンスター討伐は?」
「Fランクですと、“スライム数匹”や“小型害獣”程度ですね。本格的な討伐依頼はEランク以上が多いです」
(なるほど……)
つまり、最初から命懸けというわけではないらしい。
「あと、依頼には種類があります」
彼女はさらに説明する。
「常設依頼。期間限定依頼。緊急依頼。そして、指名依頼ですね」
「指名?」
「はい。“この人に頼みたい”という形の依頼です。有名冒険者になると増えますよ」
(ちょっとカッコいいな……)
そんなことを考えていると、受付嬢がこちらを見た。
「どうしますか? 冒険者登録、されます?」
僕は、掲示板を見る。
そして、自分の左手を見る。
《臨床検査》。
このスキルで、どこまで行けるのか。
「……お願いします」
僕は、静かにそう答えた。
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