29 感染症
あれから5日が経ち、僕は買い出しのため、村へ向かう準備をしていた。
一方、その頃のレムナ村では――
モンスターの襲来後、静かに異変が起きていた。
◇
「ちょっと熱っぽくてね……」
村の男が、そう言って額に手を当てる。
顔色は悪くない。歩けるし、話もできる。
誰もが、
――疲れだろう、と思っていた。
だが、その翌日。
「……咳が、止まらないんだ」
と、症状が増えた。
そして、もう一人。
「身体がだるくて……力が入らねぇ」
同じような訴えがあった。
それは、その後も三人、四人、五人と数が増えていった。
三日目。
「これ……見てくれ」
トマスは、体調のすぐれない村人に呼ばれて向かうと、その村人の腕には異変があった。
赤い発疹。
その小さな斑点は、点々と広がっている。
「かゆくはない。ただ……変なんだ」
触れると、わずかに熱を持っているのがわかった。
四日目。
症状は、さらに進んだ。
赤かった発疹が、黄色く変色し始める。
「気持ち悪い色だ……」
誰かが呟く。
五日目。
「黒く……なってきた?」
皮膚の一部が黒ずみ始めていた。
黄色く濁った肌の上に、壊死にも似た色が広がる。
そして、村の空気が変わっていく。
「これは呪いだ……」
「モンスターにやられた傷が悪化したんだ」
「いや、あのときの血が――」
原因は正直分からない。
だからこそ、恐怖だけが広がっていくのだった。
◇
そんな村での状況はつゆ知らず、僕はモンスター襲来からちょうど五日後に村へ到着した。
「……なんだろう」
入口に立った瞬間、違和感が走る。
人が少ない。
声が聞こえない。
空気が、重い。
(……何かおかしいぞ)
村の中心部へ足を進めていく。
途中、すれ違う村人の顔色は悪い。
歩き方もどこか鈍い。
声をかけてみると。
「……大丈夫ですか?」
「ああ……ちょっと熱っぽくてな……」
力なく笑っていた。
その後も数人とすれ違ったが、一人じゃなかった。
二人。
三人。
四人。
同じような様子の村人が、あちこちにいることが分かった。
◇
僕は、道具屋へ到着する。
「いらっしゃ……あ、ノア」
ミーナが顔を出した。
だが、その表情にも余裕がない。
「どうしたの? 村、何か変じゃない?」
「やっぱり分かる……?」
小さく頷く。
「ここ数日で、一気に体調を崩す人が増えてて……」
「で、トマスさんは大丈夫?」
「いるけど……ちょっと休んでる」
奥を見る。
トマスは椅子に座り、腕に布を巻いたまま、目を閉じていた。
怪我だけではない。
(……何か弱ってるな)
明らかに、本調子ではない雰囲気を感じた。
「ちょっと、見てもいいかな?」
「うん……お願い」
僕はトマスに左手をかざす。
「臨床検査!」
青白い流れが視界に浮かぶ。
(ん、弱いな……)
全身の流れが細くなっている。
そして――流れの中に、微かな歪みが見えた。
念の為、別のスキルも試す。
「寄生異物検査」
――反応なし。
(違うのか……)
ただ、何かがおかしいと感じる。
僕は、別の村人も調べるため、歩いて回ることにした。
◇
「臨床検査!」
一人。
(同じ……)
二人。
(ここの人も……)
三人。
(この人もか……同じ症状?)
流れの歪みが、共通していた。
本来、魔力の流れは個体ごとに違うはずだが、それが通用しない。
それなのに、調べた村人は皆――
「流れが揃ってる……?」
続いて、襲撃で怪我をした者をみる。
(ん、なんだこれ、歪みが濃い?)
明らかに進行していた。
そして、その家族もみる。
(軽い……だが、同じ歪みがある)
何かが、広がっているという予想が、確信に変わった。
接触。
血。
距離。
体液。
前世の知識と思考が繋がっていった。
(天の声)
《独自クエスト『目に見えない村での脅威』が設定されました》
◇
道具屋に戻り、まだ行っていなかったもう1つのスキルを、改めてトマスに使う。
「微生物検査!」
このスキルによって、体内の微細な動きも観察する。
そうすると、流れの奥に無数の細かな反応があった。
点にも満たない、小さな存在。
(……これはやはりいるな)
そして――
他の村人にもスキルを試すと、全員が同じ反応だった。
「……やはり感染症か」
思わず、呟いた。
ミーナが不安そうにこちらを見る。
「なに、それ……?」
「……いや」
これはまだまだ増えるのではないかと感じた。
転生前の最後の記憶。
パンデミックによって患者で溢れかえる病院のイメージが頭に浮かんだ。
そして、異常な検査値と感染患者の増加。
どちらも現実のものとしてリンクしていた。
村では、人と人の距離は、普段通りに接している。
(このままだと良くない……)
僕は、はっきりと告げることに決めた。
「感染している」こと、そして「隔離しなければ」ならないことを。
そう決断した直後。
バンッ!
勢いよく扉が開く。
「大変だ!」
息を切らした村人が飛び込んできた。
一瞬、空気が止まる。
「最初に熱を出してたやつが……血を……吐いて倒れた!」
この時がやってきた。
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