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28 静かな異変

戦場は、明らかに変わっていた。


「右一体、胸の歪み! ザック!」


「了解!」


ざんっ――


一撃で、崩れる。


「次、左後方! 速い、ケイト!」


「任せて!」


矢が、空中の“歪み”を正確に射抜く。


撃破。


無駄な動きが消えていく。

連携が生まれる。

一体ずつ、確実に、効率よく討伐されていく。


(……回ってる)


戦場が、回っている。


混乱していたはずの前線は、今や一つの流れとして機能していた。


僕は、前には出ていない。そして、剣も振らない。


ただ――


「次、中央は無視! 左右先に落とす!」


声を出すだけ。


それだけで、戦場が変わった。


(これが自分の役割……)


戦うのではなく――「制御する側」


その実感が、静かに腑に落ちていた。



「最後だ!おりゃ!」


ザックの叫び。

残った一体が、歪みを露わにする。


「そこだ!」


ザシッ。


モンスターは崩れ落ちた。


――静寂。


ついさっきまでの喧騒が、嘘のように消えていく。


「……終わった、のか?」


誰かが呟く。


「終わった……!」


安堵の声が、あちこちから上がる。


村人たちが顔を上げる。

冒険者たちが息を吐く。


「助かった……」

「生きてる……」


抱き合う者。座り込む者。涙を流す者。


そして、村人たちは僕のもとへ訪れて感謝の気持ちを述べた。


「君がいなかったら、どうなっていたことか……」


その中で、ザックたちもこちらへ歩いてきた。


「……やったな」


「ああ……なんとかなった」


ケイトが、じっと僕を見る。


「ノア……あんた、何者なの?」


「ただの……13歳だよ」


ミリスが、ふっと笑った。


「ただの、ね……」



幸い、死者は出なかった。


負傷者は数名。

だが、命に別状はない。


「奇跡だな……」


誰かがそう言った。

確かに、あの状況で死人が出なかったのは異常だ。


だが僕は違う違和感を覚えていた。


(……何かが違うような)


胸の奥に、引っかかるものがあった。


違和感。


あの森の奥で感じた、濃い“何か”。


(消えていない気がする……)


視線を巡らせる。


倒れたモンスターたち。

村の空気。


(……残っている?)


はっきりとは掴めない。


だが確実に、“何かがまだ終わっていない”気がしていた。


「……何だろうか……」


小さく、呟く。



「無事でよかった……!」


道具屋の前。

扉が開き、ミーナが飛び出してきた。


「ノア……!」


「無事でよかった」


別の場所から、トマスが走ってこちらにやってきた。


腕に布が巻かれていた。


「少しやられたが……この程度だ」


「大丈夫ですか?」


「ああ。命に別状はない」


トマスはそう言って、笑った。

トマスは、別の場所で他の村人と村を守っていたようだ。


「それより……」


ちらりと、こちらを見る。


「お前さんのおかげだな」


「いや……僕は――」


「いいや、違うな」


トマスは首を振る。


「モンスターを倒していたのは冒険者のあの3人だが、流れを作ったのはお前だ」


ミーナも、こくこくと頷いた。


「ありがとう、ノア」


その言葉に、少しだけ胸が軽くなった。



その夜。

僕は宿に泊まることにした。


一階の酒場は、いつも以上に賑わっていた。


「おいノア!こっち来い!」


ザックたちに呼ばれる。


席に着いた瞬間――


「どうやったんだ!?」


「なんで分かる!?」


「見えてるって何が!?」


質問攻めだった。


「いや、だから……」


説明しようとしても、うまく言葉にできない。


「感覚、みたいなもので……」


「はぁ!?」


ケイトが笑う。


「まあいいじゃない。結果が全てでしょ」


ミリスも頷く。


「それに……助かったのは事実だしね」


結局、その日は深夜まで騒ぎが続いた。



翌朝。


僕は森の拠点へ戻ることにした。


「また来るよ」


「いつでも来なさい」


トマスが手を振る。


ミーナも元気に見送ってくれた。


「気をつけてねー!」



森へ入る。


空気が、変わる。


静かだ。


いつも通りの森。


だが――


(……気になる)


あの違和感。


完全には消えていない。


(なんだったんだ……)


モンスターの異常な増加。

統率されたかのような動き。

そして、あの急襲。


(ただの偶然じゃない)


歩きながら、考えていた。


(原因があるはずだ)


そして――


(まだ終わってない)


その確信だけが、静かに強まっていった。



数日後。


村で、体調不良者が出始めた。


最初は――


軽い発熱だった。

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