28 静かな異変
戦場は、明らかに変わっていた。
「右一体、胸の歪み! ザック!」
「了解!」
ざんっ――
一撃で、崩れる。
「次、左後方! 速い、ケイト!」
「任せて!」
矢が、空中の“歪み”を正確に射抜く。
撃破。
無駄な動きが消えていく。
連携が生まれる。
一体ずつ、確実に、効率よく討伐されていく。
(……回ってる)
戦場が、回っている。
混乱していたはずの前線は、今や一つの流れとして機能していた。
僕は、前には出ていない。そして、剣も振らない。
ただ――
「次、中央は無視! 左右先に落とす!」
声を出すだけ。
それだけで、戦場が変わった。
(これが自分の役割……)
戦うのではなく――「制御する側」
その実感が、静かに腑に落ちていた。
◇
「最後だ!おりゃ!」
ザックの叫び。
残った一体が、歪みを露わにする。
「そこだ!」
ザシッ。
モンスターは崩れ落ちた。
――静寂。
ついさっきまでの喧騒が、嘘のように消えていく。
「……終わった、のか?」
誰かが呟く。
「終わった……!」
安堵の声が、あちこちから上がる。
村人たちが顔を上げる。
冒険者たちが息を吐く。
「助かった……」
「生きてる……」
抱き合う者。座り込む者。涙を流す者。
そして、村人たちは僕のもとへ訪れて感謝の気持ちを述べた。
「君がいなかったら、どうなっていたことか……」
その中で、ザックたちもこちらへ歩いてきた。
「……やったな」
「ああ……なんとかなった」
ケイトが、じっと僕を見る。
「ノア……あんた、何者なの?」
「ただの……13歳だよ」
ミリスが、ふっと笑った。
「ただの、ね……」
◇
幸い、死者は出なかった。
負傷者は数名。
だが、命に別状はない。
「奇跡だな……」
誰かがそう言った。
確かに、あの状況で死人が出なかったのは異常だ。
だが僕は違う違和感を覚えていた。
(……何かが違うような)
胸の奥に、引っかかるものがあった。
違和感。
あの森の奥で感じた、濃い“何か”。
(消えていない気がする……)
視線を巡らせる。
倒れたモンスターたち。
村の空気。
(……残っている?)
はっきりとは掴めない。
だが確実に、“何かがまだ終わっていない”気がしていた。
「……何だろうか……」
小さく、呟く。
◇
「無事でよかった……!」
道具屋の前。
扉が開き、ミーナが飛び出してきた。
「ノア……!」
「無事でよかった」
別の場所から、トマスが走ってこちらにやってきた。
腕に布が巻かれていた。
「少しやられたが……この程度だ」
「大丈夫ですか?」
「ああ。命に別状はない」
トマスはそう言って、笑った。
トマスは、別の場所で他の村人と村を守っていたようだ。
「それより……」
ちらりと、こちらを見る。
「お前さんのおかげだな」
「いや……僕は――」
「いいや、違うな」
トマスは首を振る。
「モンスターを倒していたのは冒険者のあの3人だが、流れを作ったのはお前だ」
ミーナも、こくこくと頷いた。
「ありがとう、ノア」
その言葉に、少しだけ胸が軽くなった。
◇
その夜。
僕は宿に泊まることにした。
一階の酒場は、いつも以上に賑わっていた。
「おいノア!こっち来い!」
ザックたちに呼ばれる。
席に着いた瞬間――
「どうやったんだ!?」
「なんで分かる!?」
「見えてるって何が!?」
質問攻めだった。
「いや、だから……」
説明しようとしても、うまく言葉にできない。
「感覚、みたいなもので……」
「はぁ!?」
ケイトが笑う。
「まあいいじゃない。結果が全てでしょ」
ミリスも頷く。
「それに……助かったのは事実だしね」
結局、その日は深夜まで騒ぎが続いた。
◇
翌朝。
僕は森の拠点へ戻ることにした。
「また来るよ」
「いつでも来なさい」
トマスが手を振る。
ミーナも元気に見送ってくれた。
「気をつけてねー!」
◇
森へ入る。
空気が、変わる。
静かだ。
いつも通りの森。
だが――
(……気になる)
あの違和感。
完全には消えていない。
(なんだったんだ……)
モンスターの異常な増加。
統率されたかのような動き。
そして、あの急襲。
(ただの偶然じゃない)
歩きながら、考えていた。
(原因があるはずだ)
そして――
(まだ終わってない)
その確信だけが、静かに強まっていった。
◇
数日後。
村で、体調不良者が出始めた。
最初は――
軽い発熱だった。
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