02 嫌な予感
気づけば、それは突然に起こる。
「東京じゃあるまいし・・・」
テレビで流れる感染症のニュースはどこか別の世界のように感じていた。
いつものように病院に到着し、更衣室で白衣に着替え、検査室へ入る。
「おはようございます。」
「・・・」
(あれ?)
いつもならそっけない返事くらいは返ってくる。
そう思いながら見渡すと、同僚の技師たちが一ヶ所に集まり、パソコンをのぞいていた。
「どうしたんですか?」
「あっ、田中くん!ちょっとこっちきて、これ見てみてよ!」
画面に表示されているのは、血液検査のオーダー一覧。
違和感はーーその人数だった。
通常、出勤直後の9時時点では、受付は20件前後。
だが今日は、すでに40件を超えている。
「…何が起こってるんですか?」
「いや、分からないけどさ。ニュースで感染症の話も出てたし…もしかして、それじゃない?」
仲のいい先輩が、不安げに答える。
(この辺で感染症なんて…)
そう思いつつも、嫌な予感が頭をよぎり、検査室を出て、外来の様子を見にいく。
◇
待合室は、人であふれていた。
マスクを着け、咳き込む患者たち。受付には、子ども連れや高齢者が列を作っている。
いつもとは、明らかに違う光景。
「……嫌な予感がするな」
その瞬間、遠かったはずの現実が、一気に目の前へ引き寄せられた。
◇
検査室に戻ると、技師長が皆を集めていた。
ただならぬ空気が漂っている。
「どうやら、数日前からニュースで話題になっている感染症が、この地域でも広まりつつあるようです。」
「・・・」
室内が、静まり返る。
「これから急遽、感染症外来を設置し対応します。検査室からも数名、応援に出てもらいます。」
(おいおい、まじか……)
内心でそう思うが、断る選択肢などない。
せめて、自分が選ばれないことを祈るだけだ。
「では……」
(では……?)
喉が、ごくりと鳴る。
「田中くん、行ってくれる?」
「えっ!?」
一瞬、自分の名前を聞き間違えたかと思った。
だが、そんなはずはない。40年付き合ってきた名前だ。
(……前厄、だったな)
どうでもいいことが頭をよぎる。
周囲では、安堵したような空気が流れていた。
そして、もう一人の指名。
それは、同期の坂井だった。
技師長からの信頼も厚く、リーダー的存在の男。
(……ここでも、比べられるのか)
「ん? 何か言ったか?」
「いえ……了解しました」
この病院に入って以来、ずっと坂井と比べられてきた。
もう慣れたつもりだった。だが、その感覚は消えない。
(どうせ……)
感染症外来の対応が、始まろうとしていた。




