24 観測者としての生活
森を進み、昨日見つけた川の上流にある野営地へ着く。
僕はテントを立て、荷物や食材を置いた。
そしてまずは、食料採取を兼ねて魚釣りから始めることにした。
「まずは餌だな」
早速、スキル《臨床検査》の出番である。
魚の餌といえば、いくつか思いつくが、やはりミミズが一番だろう。
もちろん、ミミズだって生き物だ。
微力ながら魔力を持っているはずである。
森の中に入り、地面に左手を触れて唱える。
「臨床検査」
その瞬間、半径二、三メートルほどの範囲で、地中の表層部分にたくさんの小さな反応が浮かんだ。
小さな魔力の流れ。
反応の大きさからして、虫くらいの生き物だろう。
それがミミズかどうかは、まだ判定できない。
ただ、想像以上に反応は多い。
(……見えすぎると、ちょっと気持ち悪いな)
とはいえ、反応がない場所を無駄に掘り返す必要がないのは効率的だ。
「ここだね」
よいしょ。
よいしょ。
土を掘ると、見事にミミズがざくざく現れた。
「おお……当たりだ」
やはり、反応はミミズだった。
僕はその魔力の流れをじっと観察し、記憶する。
これで次からは、ピンポイントでミミズを探せるはずだ。
その瞬間――
(天の声)
《スキル《生命反応感知》を獲得しました》
「……やっぱり来たか」
予想通りのスキルだった。
というより、ようやく来た、という感じでもある。
ユニークスキル《臨床検査》は、魔力の流れを捕捉する。
ならば、魔力を持つ生き物を見つけることは、ある意味で一丁目一番地と言っていい。
スキル取得までに時間がかかったのは、熟練度の問題か。
それとも、一度に大量のミミズを見つけたことで、認識が揃ったのか。
「まあ、どっちでもいいか」
今は魚釣りだ。
僕は採ったミミズを餌に、川辺へ向かった。
◇
やはりここでも、スキルを使う。
対象は、目の前を流れる川の中だ。
左手を水につけて唱える。
「生命反応感知」
半径にして十メートルほどだろうか。
水中の生き物の反応が見て取れた。
感知しただけでは、その反応が何の魚なのかまでは分からない。
ただ、魚なのか、それとも別の生き物なのかは、反応の大きさや形からなんとなく判別できる。
おそらく、実際にその生き物を見たり触れたりして認識できれば、ミミズと同じように、次からはピンポイントで探せるようになるのだろう。
そんなわけで、その範囲には無数の魚がいることが分かった。
早速、釣り糸を垂らしてみる。
「じーっ……」
ウキの動きを見つめる。
「ツン」
「ツンツン」
「おっ、来るか」
「ボコッ」
ウキが大きく沈んだ。
「おりゃっ!」
勢いよく竿を立てると、糸の先にはちゃんと魚がついていた。
「とったどー!」
やっぱり、こういうときの掛け声はこれに限る。
周りには誰もいない。
だから、恥ずかしげもなく叫ぶことができた。
そして、その後に訪れる静寂は、なかなかにシュールだった。
その後も一時間ほど釣りをした結果、食べ頃サイズの魚を五匹釣ることができた。
正式な名前は分からない。
ただ、転生前の記憶にあるヤマメという魚に似ていたため、ひとまずヤマメと呼ぶことにした。
これで、一旦食料の心配はなさそうだ。
そう安堵した、その瞬間。
(天の声)
《独自クエスト『世界の生き物図鑑』が設定されました》
「なんと!」
思わず声が出たが、すぐに納得もした。
「野菜や料理の図鑑クエストがあるなら、生き物の図鑑クエストもあるよな」
早速、新たな図鑑クエストを確認してみる。
「クエスト閲覧」
ポチッ。
ーーーーーー
クエスト名:世界の生き物図鑑
達成目標:世界中の生き物の情報を取得し、記録をコンプリートする。
達成ボーナス:書籍《世界の生き物図鑑》が出版され、全世界の本棚に置かれる。
内容:この世界には、虫や魚、動物、モンスター、そして人など、様々な生き物が生息している。それらはどこに住み、どのように生きるのか。生き物の生態は多くの者の関心であり、研究対象でもある。これらの情報は、人々の生活の安全や暮らしの向上に役立つだろう。この図鑑には、虫、魚、動物、モンスター、人型種ほかについて記録される。
ーーーーーー
「なるほど……」
このタイミングでクエストが立ち上がったのは、虫、魚、動物、モンスターと、一通りの種別に対して《臨床検査》を試したからだろう。
「ちなみに、今は何が記録されているのかな……」
図鑑クエストは、「閲覧」ボタンを押すことで図鑑が具現化され、中身を見ることができる。
これは野菜図鑑や料理図鑑ですでに試し済みだ。
ポチッ。
中身は薄いが、表紙だけはしっかりした図鑑が現れた。
記録が増えるほど、厚くなっていくのだろう。
ペラッ。
ページをめくると、目次があった。
動物、虫、魚、モンスター、そして人型種ほか。
五章構成になっている。
さらにページをめくると、最初のページはリスだった。
ーーーーーー
生物名:リス
種別:動物
生息地域:森
レア度:D
脅威度:D
特徴:小型の哺乳類。木の実を好み、木の上を素早く移動する。基本的に人を襲うことはなく、危険性は低い。魔力の流れは小さく安定している。
ーーーーーー
「なるほど、ちゃんと記録されてる」
リスについては、遠方から《臨床検査》の実施を試みたことがある。
どうやら、その情報も反映されているようだ。
「あっ、実家で虫取りしたときの七色オオカブトムシもある! しかもレア度A。やっぱり貴重な虫だったんだな」
ーーーーーー
生物名:七色オオカブトムシ
種別:虫
生息地域:森
レア度:A
脅威度:D
特徴:虹色に輝く硬い外殻を持つ大型甲虫。力は強いが、人を襲うことはほとんどない。美しい外殻は装飾品や研究対象として価値が高い。魔力の流れは外殻付近に薄く広がる。
ーーーーーー
このクエストが発生する前に出会った生き物の情報も載っている。
どうやら、遭遇していれば自動で記録されるようだ。
「あとは……」
ページをめくっていく。
「えっ!?」
モンスターの章の次にある「人型種ほか」を見ていたら、記憶にない情報が記録されていた。
ーーーーーー
生物名:エルフ族
種別:人型種ほか
生息地域:不明
レア度:S
脅威度:不明
特徴:長寿で知られる人型種。森や精霊、魔力との親和性が高いとされる。外見はヒト族に近いが、耳が長く、老化が極めて遅い。魔力の流れは細く長く、非常に安定している。
ーーーーーー
もちろん、会った記憶はない。
知らないうちにすれ違ったのだろうか。
生まれてこの方、実家の敷地内で大半を過ごしてきた僕には、まったく思い当たることがなかった。
(とても気になる……。というか、ちょっと怖い……)
そして、もう一枚ページをめくる。
「……!?」
声にならなかった。
そこには、次の内容が記録されていた。
ーーーーーー
生物名:魔族
種別:人型種ほか
生息地域:不明
レア度:SS
脅威度:S
特徴:ヒト族に近い外見を持つとされる謎の人型種。強い魔力を持ち、個体によって能力差が大きい。詳細は不明。ただし、観測記録上、魔力の流れに通常の人型種とは異なる“歪み”が確認されている。
ーーーーーー
「……魔族?」
僕は、図鑑を持つ手に力が入るのを感じた。
会った記憶はない。
見た記憶もない。
それなのに、なぜ記録されている?
しかも、脅威度はS。
(どこで……?)
胸の奥に、冷たいものが走った。
この図鑑は、僕が出会った生き物を記録している。
ならば、答えは一つしかない。
僕は、すでにどこかで魔族と遭遇している。
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