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17 月夜のレムナ草

北の出口付近には、たいまつが焚かれ、村の男たちが集まっていた。

背中にはカゴを背負い、それぞれが鎌やナイフを腰につけている。


昼間は大半が農夫なのだろう。

だが、体格は良く、農業がれっきとした肉体労働であることを感じさせる。


それこそ、夜道でこの一団に出くわしたら、違う意味で悲鳴を上げかねない――そんな迫力があった。


その中で、少し雰囲気の違う一団がいる。

冒険者たちだ。


彼らは、このレムナ草採取の護衛を担っている。

村の男たちとは違い、しっかりと武器や防具で身を固めていた。


昨日、宿で聞いた話では、モンスターもほとんど出ず、平和な護衛任務らしい。

だが、それでも装備に抜かりはないようだった。


「けっこう人数が多いんですね」


僕はトマスへ尋ねた。


「そうだろう。何せレムナ草は、この時期だけの村の特産品でな。質の高い薬草になる。いわば稼ぎ時ってやつだな」


「どんなふうに生えてるんですか?」


「そりゃあ、他の植物と同じように生えてるさ」


(あっ、そうなんだ)


もっとこう、特別な光景を想像していたが、意外と普通らしい。


(モンスターさえ気をつければ、案外簡単そうかもな)


「トマスさん、今日もよろしくお願いします!」


「ああ、よろしくな!」


村の男たちがトマスに挨拶をしていく。

どうやらトマスは、この採取隊の中心人物らしい。


(そりゃそうか。道具屋だし、薬草にも詳しいもんな)


「ノア君、群生地までの道のりは、私の近くにいれば危ないことはないと思うから、あまり離れないでくれよ」


「はい、そうします」


(日中のぷるぷるモンスターのこともあるし、もちろん離れるつもりはない)


「では皆さん、行きましょうか!冒険者の皆さんも、どうぞよろしくお願いします!」


トマスの声を合図に、一団は夜の森へと入っていった。



夜の森は、昼間とはまるで別の顔を見せていた。


木々は黒い影となって空を覆い、月明かりが道を照らしている。

一方で開けた場所なら、今夜はたいまつがなくても歩けそうなくらい明るい。


「ざく、ざく、ざく」


規則的に響く一団の足音。


「今日は静かな夜だな……」


誰かが小さく呟く。


その一方で、男たちが話しながら歩く声もよく聞こえてくる。


一団は、ゆっくりと森の奥へ進んでいった。


虫の声すらあまり聞こえない。

風も、ほとんどない。

葉の擦れる音もしない。


ただただ、月明かりだけが異様に明るい。


(……季節限定か)


レムナ草の採取が、この時期だけの特別な仕事であることを、ひしひしと感じていた。



「着いたぞ!」


一時間近く歩いただろうか。

途中、狭い道や藪を抜け、川も一度渡った。


そして、たどり着いたのが――レムナ草の群生地だった。


かなり開けた場所で、月明かりのせいか驚くほど明るい。

ただ、道順を一度で覚えるのは難しそうだ。


「ではまず、たいまつを等間隔に立ててくれ!」


男たちは、丈の低い植物が生えている広場と森の境目に、たいまつを配置していく。

まるで結界でも張るように、群生地を囲っていた。


その間、冒険者たちは森の方へ目を向け、不審な動きや音がないか警戒している。


「よし、いいだろう!」


相変わらず、トマスが号令をかける。

やはり、この採取隊のリーダーは彼で間違いなさそうだ。


「では、採取を始めてくれ!」


男たちはそれぞれ散っていき、群生地の中で採取を始めた。


「ノア君。では、我々もレムナ草を採ろうか」


「はい!」


足元を見渡す。


そこには、一面にレムナ草と思われる植物が広がっていた。


淡い緑の葉。

そして、月明かりを受けて青白く浮かび上がる葉脈。


「……すごい」


思わず息を呑む。


まるで、地面に星が散りばめられているみたいだった。

夜に採取するのには、こういう意味があったのかと思った。


「見た目でも何となく分かるとは思うが、ちゃんと状態を見て選ぶんだぞ」


トマスがしゃがみ込みながら言う。


「若くて張りのある葉。色が濃くて、葉脈の光がはっきりしているものがいい。逆に、しおれていたり、光が弱いものはダメだ」


「なるほど……」


僕も同じように膝をつき、目の前のレムナ草へ手を伸ばす。


(見極める、か……。検査みたいだな)


その瞬間だった。


――視界の奥で、何かがほどけた。


今までただの“草”だったものが、急に別の意味を持ちはじめる。


葉の水分量。

葉そのものの色。

指先で感じる弾力。

そして、葉脈に宿る光の強さ。


それらが、バラバラではなく――


ひとつの指標として、重なり合う。


(……これって)


頭で考える前に、感覚が理解していた。


――薬草ポテンシャル。


言葉にすればそう呼べる“何か”が、目の前のレムナ草一つひとつに浮かび上がってくる。


「……え?」


思わず声が漏れる。


別の株に視線を移す。


――水分量:やや低

――色調:鈍い

――弾力:弱

――光量:低

――総合評価:D


さらに別の株。


――水分量:適正

――色調:良

――弾力:高

――光量:強

――総合評価:A


「……っ!」


確信に変わる。


(これ……分かる……!)


感覚的に。


だが確実に、“質”が見えている。


そのとき――


どこからともなく、声が響いた。


(天の声)

《スキル《薬草ポテンシャル検査》を獲得しました》


「……え?」


思わず手が止まる。


(今の……何?)


だが、考えるよりも先に、体が動いていた。


目の前のレムナ草の“質”が、手に取るように分かる。


良いもの。

そうでないもの。


その違いが、はっきりと線を引くように浮かび上がる。


(選べる……!)


僕は静かに息を整え、手を動かし始めた。


葉の張りを見る。

光の強さを見る。

そして“見えている情報”に従って、迷いなく摘み取る。


ざく、ざく、と。


一定のリズムで、良質なレムナ草だけがカゴに積まれていった。


無駄がない。

迷いがない。

そして――速い。


「……ほう」


少し離れた場所から、トマスがその様子を見ていた。


「ノア君、ずいぶん手際がいいな」


「あ、いえ……なんとなく分かるというか……」


「なんとなく、でそれは大したもんだ」


トマスが近づき、僕のカゴを覗き込む。


「これは……全部、上物だな」


「そうなんですか?」


「ああ。普通はここまで揃わない。どうしても混じるものだ」


トマスは一株手に取り、月明かりにかざした。


「見てみろ。この葉脈の光。均一で、濁りがない。乾燥させたときの効きも安定する」


「へえ……」


(やっぱり、ちゃんと差があるんだな。僕には光のスジだけでなく、指標と数値も見える)


僕は改めて足元の群生地を見渡した。


さっきまで“ただの草”にしか見えなかったものが、今は違う。


良いもの。

そうでないもの。


その差が、はっきりと分かる。


(これ……すごいかもしれない)


手は止まらない。


選ぶ。

摘む。

積む。


その繰り返し。


気づけば、周囲の誰よりもカゴが埋まり始めていた。


「おい、あの坊主、早くないか?」

「ほんとだな……もう半分以上いってるぞ」


村の男たちがざわつく。


だが、僕は気にしない。


ただ淡々と、“最適なものだけ”を選び続ける。


(無駄に採らなくていい。いいものだけでいい)


その感覚は、どこか懐かしかった。


――質を見極める。

――必要なものだけを選ぶ。

ーー良いと悪いが判断を分ける。


それはきっと、前の世界で身につけた感覚だ。


「ノア君」


トマスが、少しだけ真剣な声で呼びかける。


「君、そのやり方……誰に習った?」


「え?」


僕は手を止める。


「いや、その……特に誰かに教わったわけじゃ……」


「……そうか」


トマスはそれ以上、追及しなかった。

だが、その目は明らかに興味を帯びていた。


そして、僕は小さく呟く。


「これは……面白いな」


月明かりの下、静かな採取は続いていく。


その中で、ただ一人――


“質”を見極めながら草を選び続ける少年の姿が、確実に周囲の目を引き始めていた。

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