15 森の入口
「お兄ちゃん、おはよー」
「あっ、おはよう」
昨日の子どもたちは、朝から元気いっぱいだ。
自然に囲まれたレムナ村の朝は、少し肌寒さが残るが、とても気持ちがいい。
この村には、武器屋や道具屋、宿屋のほかにも、教会やパン屋が店を構えている。
広場では、小さいながらも毎朝市場が開かれ、野菜や果物、肉やソーセージ、チーズや牛乳、そして生活雑貨が並んでいる。
ときおり、街から来た行商人が、この村では手に入らない品を持ち込むこともある。
今日も広場は賑わっている。
いわゆる朝市というやつだ。
小さな村にしては、人の数が意外と多いように感じる。
「いい村だな」
僕は広場を横切り、小道へ入る。
住宅の脇を抜け、さらに北へ進むと、農作物の倉庫と畑が見えてくる。
そこを越えると材木所があり、やがて村の北側の出口へとたどり着いた。
レムナ村は安全な村とはいえ、北側の出口にはしっかりと扉があり、村全体も木製の塀で囲われている。
モンスター対策というよりは、保管している食料や畑を動物から守る意味合いが強いのだろう。
実際、その塀も大人であれば乗り越えられそうな高さだ。
「この先が、そのまま森に続いているわけか」
扉の先は、数メートル進むだけですぐに森になっていた。
その手前には看板が立っており、「モンスター注意!」と書かれている。
「よし、行くか」
一度、小さく息を吐く。
(……空気が、少し違うな)
わずかな緊張を感じながら、森へ足を踏み入れる。
もちろん、何かが襲ってきたらすぐに逃げるつもりだ。
今日はまず、森の雰囲気を確かめつつ、川の位置とテントが張れそうな場所の確認、あわよくば火打石も試してみたいと思う。
あと、薬草も試してみたい。
◇
森の中を歩き始めて10分ほど経ったころ、分かれ道に差しかかった。
直進の道と、左へ折れる道。
そこには看板が立っている。
「なるほど、左に行くと川か」
直進方向には特に案内はないが、おそらくレムナ草の群生地は直進だろうと見当をつける。
「なら、今日は左へ行ってみよう」
◇
しばらく進むと、本格的な山道となり、道幅は1メートルほどに狭まった。
(これは……少し危ないかもしれないな)
そんなとき、少し先の木の上に、小さなリスの姿が見えた。
とても可愛らしい。
「さすがにこれはモンスターじゃないよな……」
念のため、ナイフをいつでも使えるように鞄から取り出し、腰紐に差しておく。
そっと近づく。
「そーっと……」
「キュキュ」
リスは一瞬こちらに気づいたような動きを見せたが、気にする様子もなく、抱えていたどんぐりを口元に運び、かじり続けている。
「……やっぱり、ただの動物か」
どうやら問題はなさそうだ。
武器屋の主人もリスの話はしていなかったが、念のため注意するに越したことはない。
「それにしても、普通に可愛いな……」
この世界でリスを見るのも初めてだ。
実家では虫ばかり追いかけていたから、気づかなかっただけで、森には普通にいたのかもしれない。
僕はさらに道を進む。
◇
しばらくして、少しひらけた空き地に出た。
特に何があるわけでもないが、周囲が見渡せる。
「ここなら、テントを張れるかな」
そう判断し、この場所を候補地の一つとして記憶した。
道はさらに続いている。先へ進む。
5分も歩かないうちに、ザーッという水音が聞こえてきた。
やがて視界が開け、川にたどり着く。
そこは、大きな岩が点在する渓流だった。
水は透き通っており、魚が泳いでいるのが見える。
心地よい風が吹き抜けていた。
「気持ちいいなー」
使用人が「良い村ですよ」と言っていたのを思い出していた。
さて、川については、水がそのまま飲めるかは分からないが、食材を洗ったり、水浴びや手洗いには使えそうだ。
何より、食料になり得る魚がいるのは大きい。
「枯れ木も探せばありそうだし……さっきの空き地で今日は色々試すか」
そう決め、少し川辺で休憩したあと、先ほどの空き地へ戻ることにした。
◇
空き地へ戻り、座り心地の良さそうな切り株の上にリュックを置く。
日はまだ上りきっておらず、お昼ご飯には少し早い。
テントを試しに張ってみることにした。
「なるほど……テントといっても、柱になるものは入っていないのか。どうりで軽いわけだ」
柱の代わりは現地で木を調達し、組み立てるタイプらしい。
まずは森に入り、ちょうど良い長さと太さの木を探すことにした。
「じゃあ、とりあえずナイフだけ持っていこうかな。いざという時のためにね」
用心に越したことはない。決してびびっているわけではない。
「うーん……なかなか良さそうな木はないな。とりあえず薪用の枯れ木だけでも集めるか」
枯れ木はすぐに集まった。
今日は試しなので多くはいらないが、明日以降も使うかもしれない。日当たりの良い場所に干しておくことにした。
「もう少しだけ奥に行ってみるかな……どうするか」
若干の不安はあったが、テントの柱に使えそうな木を探して、少しだけ奥へ踏み入ることにした。
「あっ、あそこに良さそうなのがある」
少し離れた場所に、ちょうど良さそうな木が落ちているのが見えた。
そのまま近づく。
「ボキッ」
枯れ木を踏んだ音が、やけに大きく響いた。
その瞬間――
「プキュー」
「……っ!?」
聞き慣れない鳴き声が、すぐ近くから響いた。
「モ、モンスター……?」
視線の先。
そこには、ぷるぷると微かに震える、半透明の丸い物体がいた。
「こっ、これは……」
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