12 レムナ村の初体験
「これが最初の村かぁ……」
初めて尽くしの光景に、思わず感情がこみ上げる。
少しだけ、胸が高鳴っていた。
ここから、僕の冒険が始まる。
順風満帆か――それとも野垂れ死にか。
「まあ、軍資金がある限りは大丈夫か」
と楽観的に考えつつも、お金がどれほど精神的な安定剤になるのかも、前世の記憶からよく分かっている。
ありがたい話だ。
とはいえ、この遠征では、いざという時のために極力お金を使わずに済む方法を考えていきたい。
◇
さっそく、村の中を見て回ることにする。
頭の中は、完全にドラクエ気分だ。
ただし、2DでもVRでもない――現実。
そこが決定的に違う。
「建物は……数十軒くらいか」
村の入口付近で見渡していると、子どもたちが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、どこから来たの!」
「どこから来たのー?」
一斉に話しかけられる。
「ここから半日くらい歩いたところからだけど……」
少し戸惑いながら答える。
「へー!すごーい!」
「僕も行ってみたい!」
「僕もー!」
一気に盛り上がる子どもたち。
どうやら彼らにとっては、それだけで立派な冒険らしい。
「お兄ちゃん、どこか行きたいとこある?」
「案内するよー!」
なんとも人懐っこい。
ーーそのとき。
「きゅるるる……」
僕のお腹が、盛大に鳴った。
「あっ……」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
子どもたちが少し不思議そうに尋ねてきた。
「ええっと……トイレってどこかな……」
「えー!お兄ちゃん、トイレ!?」
「うんちー!?」
(わいわい、ガヤガヤ)
子どもたちのテンションはMAXに跳ね上がった。
(いや、お兄ちゃんは想像以上に真剣なんだけどな……)
――そんなわけで、連れて行かれたのは家畜小屋だった。
「ここだよー!」
「ここここー!」
「……ありがとう。じゃあ、ちょっとお兄ちゃん消えるので……」
「はーい!」
(わいわい、ガヤガヤ)
「家畜小屋……?」
「そう。となりにドアあるでしょー」
「あそこー!」
「あっ……なるほど」
確かに実家とは違う仕組みだが、間違いなくトイレだった。
つまりこの村では、家畜も人も排泄物は丸っと一緒に再利用ということだろう。
「ふー……」
個室に入り、鍵を閉める。
匂いは強烈だが、安心のひと時を過ごす。
気づけば、先ほどまで聞こえていた子ども達の声は聞こえない。
どうやら、どこかへ行ってしまったようだ。
色んな意味で落ち着いた。
少なくとも、「社会的な野垂れ死に」は回避できたようだ。
◇
改めて、村を歩く。
「まずは……今日の宿を探そう」
さすがに初日から野宿するつもりはない。
情報もないままで、モンスターに遭遇してゲームオーバーもあり得る。
事前の話では、宿屋と食堂は一体になっているらしい。
歩いていると、かわいらしい文字で「どうぐ屋」と書かれた看板が目に入った。
「おお……これは寄りたい」
薬草や毒消しがなければ不安だ。
僕は魔法が使えない。
とはいえ、まずは宿の確保が最優先だ。
道具屋の位置だけ頭に入れておく。
さらに進むと、剣と盾のマークが描かれた看板を見つけた。
「間違いない、武器屋だ……!」
思わず、感動する。
現実で武器屋に出会う日が来るとは思わなかった。
転生前でも、国によっては狩猟用の道具を扱う店はあった。
だが、ここまで「いかにも」な武器屋は初めてだ。
「ここも、あとで寄ろう」
――もっとも、僕は剣も斧も扱えないのだが。
◇
そうして、ようやく宿屋にたどり着いた。
看板にはベッドのマークと、その右上に「INN」の文字。
さらにその下に別の看板がぶら下がっており、ワイン樽が描かれている。
2階建ての木造建築で、中からは賑やかな雰囲気が伝わってきた。
ドアを開ける前に、窓から中をのぞく。
どうやら一階は食堂・居酒屋スペースのようだ。
「……こんにちは……(小声)」
おそるおそる扉を開ける。
「いらっしゃい!」
「わっ!」
勢いよく現れたのは、想像通りの、豪快な女将だった。
「ずいぶん小さなお客さんだねぇ。泊まりかい?それとも食事?」
少し圧倒されつつ、記憶の中の「宿屋対応」を総動員する。
「しゅ、宿泊でお願いします! それと、夕食と朝食、できればお昼のお弁当も……」
「あいよ!全部込みで一泊4,000ゼニーだね」
(思ったより安い……)
「じゃあ、とりあえず3泊でお願いします」
「ってことは、12,000ゼニーだね」
「ええっと……」
(代金を渡す)
「まいど!部屋は2階の一番奥だよ。
夕食は声かけてくれたら用意するし、朝も同じだ。朝は10時くらいまでに言ってくれると助かるね」
「あっ、はい。わかりました」
「ほかに、何か聞きたいことはあるかい?」
「お風呂って……ありますか?」
「風呂!?そんなもん、貴族様じゃあるまいし、ないよ!」
豪快に笑われた。
「水を張った桶を持っていくから、それで身体を拭きな」
「わかりました」
「貴族」という言葉に、一瞬ひやりとする。
(身分は……隠しておいた方がいいな)
利点もあるだろうが、それ以上に、盗みや恐喝、誘拐といったリスクの方が大きいと感じる。
◇
部屋へ向かう。
階段を上がり、きしむ廊下を進む。
突き当たりの部屋だ。
扉を開ける。
シンプルだが、木の香りが心地よい。
シングルサイズのベッドに、薄めのマット、枕、毛布が二枚。
机と椅子、小さな書棚。
壁には鏡と、服を掛けるフックがある。
窓からは遠くの山が見え、日当たりもいい。
「……当たりの部屋かな」
荷物を置き、ベッドに横になる。
――その瞬間、意識が途切れた。
(すー……)
どうやら、そのまま眠ってしまったらしい。
一日中歩き続けた疲れ。
そして、未知の世界へ踏み出した緊張。
心も体も、限界だったのだろう。
◇
「……いい匂いがする」
目を覚ますと、外はすっかり暗くなっていた。
建物の中には灯りがともり、どこか温かい空気が漂っている。
空腹もあって、僕は1階へと降りていった。
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