危機一髪
「ところでさ」
囚人ちゃんがクラウディアに声をかけると、クラウディアは顔を上げる。
「お嬢ってずっと目つぶってるけどなんかあんの?」
「え?あ、えっと……私、生まれつき目が見えなくて……」
クラウディアは申し訳なさそうな表情でそう言った。その返答に対し囚人ちゃんはふーん、と気の抜けた返事をしてまた果実を齧りつこうとしたが本体の影からの素早い果実攻撃(投げ)を頬に喰らい、食いかけの果実は囚人ちゃんの口の中に入ることなく地面に落ちた。
「……んだぁあ!!さっきからお前っ!あたしに投げてんじゃねぇよ!!」
本体の影に向かって怒鳴る囚人ちゃんに、クラウディアが慌てて止めに入った。
「ま、待ってください囚人ちゃん!オバケさんは悪気はないんですよ!」
「理由も無しにボコボコ投げてるんだぞ!?頭にくるわッ!」
ギャーギャーと騒いでるとパキッと何か折れるような音が聞こえた。
「……チッ、いつの間にか来てやがったか」
囚人ちゃん、チビ影と本体の影が同時に音がした方向を見ると銃を構え武装した人が数人、木々の間から姿を現した。
「いたぞ!あそこだ!!」
一人が叫ぶとそれを皮切りに武装した人達が一斉に囚人ちゃんに銃口を向ける。
「なんであたしばっかに向けんのよ、他にもっと向けるやついるでしょうよ……てか、いねぇし!」
渋々両手を上げながら近くにいた本体の影とチビ影の方に視線を向けようとしたが、逃げたのかいつの間に囚人ちゃん、クラウディアだけがその場に残されていた。
「クラウディアお嬢様ァ!お怪我はございませんか!?」
武装した人のうちのリーダーらしき男性がクラウディアに向かって声をかける。
「……クラウディア、お嬢様?」
ボソリ、と呟きながら手を上げた囚人ちゃんがクラウディアを見る。金持ちっぽそうな気がしてたがまさかマジモンのお嬢様だったかーと心の中で呟き、改めて目線を銃口を向けてる武装した人達へと向けた。
「お嬢、こいつら何?」
囚人ちゃんが尋ねるがクラウディアからの返事がない。どうした?と思い目線を彼女に向けようとした瞬間。
「ちょっとっ!クラウディアは見つかったのかしら?」
「ふぁー……お母様、俺まだ寝みぃんだけど……」
クラウディア以外の女性の声と若い男性の声が聞こえ、囚人ちゃんは声のする方に顔を向ける。武装した人達の間を縫うように出てきたのはボサボサの金髪の女性クレアと、その後ろにはあくびをしながら気だるそうに歩く青年ヒューゴだった。
「お、お義母様……義兄様……」
震えながらクラウディアが二人を呼ぶ。クラウディアの様子に気づいた囚人ちゃんがクレアとヒューゴのことを交互に見たあと、クラウディアの方を改めて見る。
「なぁ、お嬢」
「は、はい……」
囚人ちゃんからの呼びかけにビクッと肩を震わせるクラウディア。そんな彼女の様子にお構いなく彼女は尋ねる。
「もしかしてさ、お嬢ってあの二人の事超超ちょー嫌いだったりする?」
「え!?……あ……えっと……」
クラウディアがしどろもどろになっているとクレアがズカズカと武装した人達を押しのけて前に出てきた。
「探したわよ、クラウディア!」
怒っている様子でクラウディアに詰め寄るクレアの後ろからヒューゴも出てくる。それを囚人ちゃんは余裕の表情を浮かべて二人を見ていた。
「ちょっとあなた!クラウディアを離しなさいっ!」
囚人ちゃんを睨みながらクレアが叫ぶ。甲高いギャンギャン声で耳が痛いなーと囚人ちゃんが思っていながら、頭を搔くと大きく息を吐きクラウディアの肩を掴む。
「どうなんだお嬢、あんなギャンギャンババアの元に戻りたいか??」
囚人ちゃんからの問いかけに対して、クラウディアは首を横に振る。
「そう……じゃ、あたしと一緒に来い!」
「え?きゃっ……」
囚人ちゃんはクラウディアの手を掴むと自分の方へ引き寄せると、空いてる手の平を地面に向け周囲に自分たちの姿を隠せるほどの炎を発生させる。炎に包まれてるのを確認すると、クラウディアを抱えたまま小さくうずくまるとパキパキと音を立てながら囚人ちゃんは姿を変えていく。
突風が吹き囚人ちゃんらを包んでいた炎を一瞬で消し去り、風が止むと同時にそこには女性の姿はなく代わりに巨大な赤龍が姿を現していた。
「な……!!」
突然現れた巨大な赤龍にヒューゴは声を上げながら驚きを隠せない表情を見せる。同様にクレアも同様に口を開けながら呆然としてた。
「ちょ、ちょっと!この森に龍が出るだなんて聞いてないわよ!!」
「お、俺も初めて聞いたぞ!」
二人に赤龍……囚人ちゃんが振り向く。クレアとヒューゴは驚きと恐怖の表情を浮かべながら一歩後退りする。非対称の瞳でその姿を捉えると赤龍の大きな口でニヤリ、と笑うと同時にクラウディアを乗せた囚人ちゃんは大きな翼を広げると空へと羽ばたいた。
「ギャオォォォオッ!!」
空へと羽ばたいた囚人ちゃんの鳴き声が森中に響き渡る。
それと同時に赤龍の風圧に押されるように、武装した人達は勢いよく後方に吹き飛ばれる。
なんとか風圧に耐えた一人が、手にしていた銃を空飛ぶ囚人ちゃんに向け撃とうとしたが急に現れた本体の影の力によって銃を壊され、さらに喉元に影を突き付けられ戦意を失う。
「ひぇ……」
目の前には人ならざる異形の化け物とそこから漂う強い威圧感に、武装した人達は顔を青くしながら後退りする。
目の前の人物に圧をかけながら遠のく囚人ちゃんとクラウディア……そしてクラウディアが持つ傘の中に潜み、こちらを見つめる小さな赤い目を静かに見つめた。




